【かつての僕、そして今の俺】
かつて僕には夢があった。
まだ、子供と呼ばれていた頃の話だ。
お巡りさん、漫画家、プロのサッカー選手、将棋の棋士、プロボクサー、ギター弾き、それこそ、なりたいもの、やりたい事は腐るほどあった。
しかし…
勉強しろという。お前の為だという。
誰の為に?何の為に?
疑問の始まりは、そんなところかも知れない。
親の言う事を聞けという。先生の言う事を聞けという。
お前は子供だから、バカだから何も分かっていないのだと。
なぜ?どうして?
僕には僕の考えがある。
これは、僕の人生だ。
何をやろうが、何をやらなかろうが、僕の自由だ。
親に心配をかけるなという。
親に心配をかけるような事をするなという。
なぜ?
どうして心配かけちゃいけないの?
世の中には、子供の姿が見えないという、ただそれだけの理由で心配してしまう親だっているのだ。
子供がいくつになっても、どうしようもなく心配性な親だっている。
何をやったって、何もしなくたって、心配する親はいるのだ。
そんな人間に、どうやって心配をかけるなというのだ。
やりたい事はたくさんあるのに、なりたいものはたくさんあるのに、心配もかけずに、一体僕に何ができる。
こんな所にいて、一体僕に何ができるというのだ。
僕は戦える。
例えば、僕はリングにだって立てる。
勇猛果敢に襲い来る猛者にだって、立ち向かう事ができるはず。
それを心配するのはあなたの勝手だ。
なのに、僕はその心配に殺される。
その心配に、僕の自由が殺される。
僕の意志が殺される。
その理屈が、僕を殺す。
テレビは子供の教育に悪影響を及ぼすから見てはいけない。
下品になる。暴力的になる。
そんな事を、本気で信じていそうで嫌だった。
子供は第一に、親であるお前の影響を受けるというのに。
思えば僕は、この歳になるまでの間、本当に欲しいもの、望んでいるものなど、一体どれだけのものを与えられてきただろう。
今となっては、あまり記憶に残ってはいない。
でもそれは物質的なものではなく、言葉だったり、感情だったり、理解だったり、もっと大切なものだったような気がする。
いい子だと言われ、頭の良い子だと言われた。
このバカと言われ、キ××イだと言われた。
いい子であって欲しいのはあなたであって、僕はそんなものにはなりたくない。
僕はキ××イなんかじゃない。そんなものにはなりたくもない。
それは一体誰の為の言葉?
あなたの安心を満たす為に、僕の自由が殺される。
その心無い言葉の数々に、僕の権利が殺される。
その無責任な理屈に、自分本位な考えに、僕の感情が死んでいく。
心が、殺される。
心配からくる過保護と過干渉、束縛、そしてエゴ、否定・否定・否定…。
僕を安全な場所に囲っておいて、自分の安心を得ようというのか?
僕の言動を支配して、自分の理想を押し付けようというのか?
自分の価値観を押し付けて、僕に何をさせようというんだ?
取り巻く環境の全てに嫌気が差した僕は、いつしか人に何かを期待する事をやめていた。
無気力、無感動、無関心。
傍から見れば、僕はそんな人間になっていたかも知れない。
こんなにあなたを愛しているのに、どうして分かってくれないの?
お前の為を思って言っているのに、どうしてそれが分からないんだ。
まるで質の悪いストーカーにでも付け狙われているかのような気分だ。
何を言い出すんだろう。この子はどうなってしまったのかしら。
何を言ってるんだ?こいつはバカだ。キ××イだ。頭のネジが外れている。
やめろ、これ以上俺に何も言うな。
俺に構うな、俺の事は放っておけ!
俺が嫌がっているのが分からないのか?
俺がこんなに苦しんでいるのが分からないのか?
その理屈、その考え方、その言動の数々に。
どうしたら分かってくれるんだ?
俺が死ねば気づくのか?
お前を殺せば気づくのか?
人でも殺せば気づくのか!?
圧力が僕を支配する。
そいつが僕に迫る。
奴らの思考が、僕を襲う。
来る!
分かるのはいつだって、それだけだ。
重圧。
奴らの理屈が、僕を捕らえる。
負の感情が心に広がる。
黙れ!殺すぞ!
脳裏に浮かぶそんな言葉とは裏腹に、恐怖が心を支配する。
全てを投げ出し、逃げ出したくなる。
俺は逃げない、逃げてたまるか!
しかし呑まれる。
頭から全身、僕の全てが呑み込まれてゆく。
その重圧の嵐に、為す術もなく。
感情が、邪魔になる。
もう、何も感じたくない。
そんな事をさせる為に、育てているワケじゃない。
誰が喰わせてやってると思ってるんだ。
じゃあ、一体何の為に?
誰の為に?
何かを押し付けられている。
背負わされている。
もがき苦しむ僕がいる。
喰らえ。俺の攻撃!
ミス!
日々、休みもなく繰り出される怒涛のラッシュに、手も足も出ない。
打ちのめされて、立ち竦んでいるだけの僕がいる。
心が、鈍くなっていく。
僕の心が殺される。
誰かがこちらを見ている事に気づく。
卑屈な目。悲しい目だ。
バカにされ、見下され、虐げられた人間の目。
誰からも受け入れられず、否定され、頭から蔑まれて生きてきた、人間の目だ。
そんな目で、俺を見るな。
俺は奴らとは違う。
俺はお前をバカにしたりしない、俺はお前を否定したりしない。
干渉も、束縛も、お前の嫌がる事など何もしない。
本当か?
奴らとお前と、何が違う?
奴らがお前にしてきた事と、お前がこれまでしてきた事の、一体何が違う?
俺が今までしてきた事?
背筋が凍り付き、真っすぐ見返すことができない。
しかしなんて目をしていやがる。
まるで憎悪だ。
だが、やがて気づく。
あれは俺の目、自分の目である事に。
お前が卑屈になったのは、お前が弱いからだ。
お前は弱者だ。
人生の敗北者だ。
お前には戦えない。
お前のような臆病者に、戦う度胸などはない。
人生からも、世の中からも、逃げ出すのがオチだ。
黙れ!
俺は敗けた覚えはない。
俺の人生は終わっちゃいない。
俺は逃げない。逃げてたまるか!
自身の心に問いかける。
俺は俺の意見を主張しただけ、気持ちを言葉にしただけだ。
そしたら、バカにされた。
否定され、物凄い目で見下されたんだ。
あの目を、エグってやってもいいか?
ダメです。
もう一人の自分が否定する。
わずかに残る、自身の理性が。
俺は蔑まれた。
心を虐げられた。
テメェが何様かと勘違いしていやがる、思い上がったクソどもに。
自分本位な愛を語る、クソみたいな偽善者どもに!
ぶち殺してやりてぇよ!
ダメです。
なぜ?
そんな事をしても、あなたにとって何の得もない。
何の意味もない。
じゃあどうすれば?
俺は奴らに殺される。
俺は既に屍同然だ。
戦うのです。
そう、奴らとは、あなたに関係するその全て。
あなたはもう分かっている。
戦うしかないのです。
どうやって?
無力!非力!
今にも圧し潰されそうだ。
お前らが正しいと思っている事の、全てを否定してやるよ!!!!!!
力を振り絞って心の声を叫ぶ。
遠吠えがこだまする。
全てが自分に跳ね返る。
泣いても無駄、叫んでも無駄、地獄ってのは、そういうものです。
追い込まれてゆく僕がいる。
逃げ場所なんてどこにもない。
戦う術さえ分からない。
袋小路だ。
ラッシュはやまない。
嵐はやまない。
一体、いつまで続くのだろう。
一生、続くのだろうか。
ゾッとした。
絶望感が去来する。
この重圧には、終わりがない。
暗闇。
もはや上も下も分からない。
撃たれ、打ちのめされても、反撃の術すら見つからない。
どんな光も差し込まない。
もんどり打ってのたうち回り、這いつくばって、やがて身動きができなくなる。
気づけば、底辺に転がっていた。
この世の中の底辺に。
そう感じた。
荒い息に胸を上下させ、僕は静かに呟いた。
自由への冒涜、圧力、強制、偏見、心無い否定の言葉、そしてエゴ、甘え、そこからくる依存、その無責任さが、邪魔だ。
そして微かに残る意識の中で夢を見る。
俺は将来、親になる。家族が欲しい。
その時子供に、
「何でもやれ。何をやろうがお前の自由だ。全ての責任を負う覚悟があるのなら、何をやっても構わない。思う存分、やってやってやりまくれ!」
そう言って、どこへでも送り出してやれるような、タフな親でいてやりたいと思う。
そう。タフでありたい。
心配が先に立って子供の足を引っ張るような、子供の自由を奪い去るような、そんな親にはなりたくない。
親がタフでなければ、子供は強くなれない。
そう思った。
知らずに人を傷つけてきた。
罪を犯して生きてきた。
無知ゆえに。未熟さゆえに。弱さゆえに。
これからも、繰り返すかもしれない。
その時は、ごめんなさい。
目を閉じた僕は、そのまま意識を失った。
燃え上がる闘志を胸に秘め、人知れず覚悟を決めながら。
お前らの抱く価値観なんぞ、根こそぎ覆してやるからな。
生きるぞ。
人間不信、精神異常、社会不適合、孤独。
そして、最弱。
それが、今の俺だ。




