愛は止められない
四三月 五立と申します。
処女作ですので温かい目で読んでくれるとありがたいです。
物心のついた頃には少年のユウキはとあるヒーローのことが大好きになっていた。
そのヒーローは誰からにも慕われており、強く、そしてかっこよく、みんなの憧れの的である。
ユウキは毎日のようにテレビに釘付けで、そのヒーローの活躍に目を輝かせていた。
そんなヒーローの名はMINKKK
「国民的ヒーロー」とまで言われるほど誰よりも愛されていた。
MINKKKの活躍は誰よりも元気を与える。
敵が現れても難なく倒したり、子供達やファンと交流したり、災害などで避難している方々に会いに行き励ましたりと誰よりも人想いである。
彼の合言葉「Can't Stop!!」は言うだけで元気になるほどの力があった。
ユウキは毎日のようにMINKKKの真似をしており、いつか自分もMINKKKの様なヒーローになりたいと常々願っていた。
MINKKKは変身の際に、ヒーローになれる特別な星を握りしめながら変身する。
もちろんユウキはこの姿に憧れて、自分で星を手作りし、
「変身!」
と毎日のようにMINKKKの真似をしていた。
「MINKKKの事ならなんでも知ってるよ!」
ユウキは毎日MINKKKの事を調べては、誰にも負けない知識を蓄えていった。
「好きな食べ物は生姜焼きでしょ。嫌いな食べ物は山芋とひじき。」
これくらいならファンであったら知ってそうだが他にも、
「好きな事はバイクに乗ったり、ワインを飲んだり!ジーンズも好きって言ってたよ。そしてすっごく絵が上手でね!ギターも弾けてカッコいいし、歌も踊りもとっても上手でカッコいいんだよ!」
と、すごく物知りであったが、中にはこんな事も知っており、
「年を取ったらいつか山奥で1人ぽつんと暮すって言ってたよ!なんだか不思議だね。都会の方がいいに決まってるのにね。」
といったファンでも知らなそうな事も知っていた。
それぐらいMINKKKの事が大好きで大好きで仕方ないほどであった。
そんなユウキには宝物がある。
まだユウキが4歳の時に一度MINKKKに会い、ツーショット写真を撮って貰っていた。
そこにはMINKKK直筆で「Can't Stop!!」と書かれていた。
4歳の時の記憶のため、断片的な記憶しかないけれども、確実に覚えているのが、MINKKKと一緒に「Can't Stop!!」と言った事だ。
この思い出と写真はこれ以上ない宝物となっている。
ある日、ユウキはいつものようにMINKKKを見ようとウキウキでテレビをつけたら、異様な雰囲気でニュース速報が流れ出した。
ユウキも困惑していたその時、アナウンサーが開口一番、
「国民的ヒーローのMINKKKさんが変身用の星を割ってしまったという情報が入ってきました。繰り返します、国民的ヒーローのMINKKKさんが変身用の星を割ってしまったという情報が入ってきました。詳細が分かり次第随時お知らせしたします。」
ユウキは悲しさや悔しさが来る間もなくただ頭が真っ白になったままテレビの前で立ち尽くすしかなかった。
変身用の星は割ってしまったらほぼ直すことができず、事実上のヒーロー引退を意味していた。
自室に戻り一枚の写真を手に取る。
直筆で「Can't Stop!!」と書かれたMINKKKとのツーショット写真であった。
ユウキは途端に大粒の涙を流しながら倒れ込んだ。
様々な感情が頭の中を襲う。
MINKKKがもうヒーローになれない悲しみ、明日からどう生きていけばいいか分からない不安、根拠もない悪い噂による怒り、自分が変身用の星を直したくても直せない無力に対する悔しさ。
ただずっと布団の中で涙を流すことしかできないまま1週間が経過した。
ユウキはようやく布団から出る事が出来た。
しかし、泣き叫び続けたことや、過度の睡眠、鬱による影響でユウキ自身に記憶障害が起こり、大好きなMINKKKの事を忘れてしまっていた。
あれから約10年ほどの月日が経ち、テレビでもMINKKKに関する報道もしなくなり、青年となったユウキだけでなく周りの人達も徐々に彼の事を忘れていった。
そんなある日のこと、いつもの日課であるSNSをしていると、トレンドには「怪獣」「被害」「死亡」といった言葉が。
急いでテレビをつけるとそこには巨大な怪獣が街を破茶滅茶にしており、甚大な被害が出ていた。
怪獣のいる場所がユウキの家から比較的近い為すぐに避難しなければならない。
急いで自室に行き大事な物をバッグに詰め込みながら
「誰か助けてくれ」と思っていた時、くしゃくしゃになった一枚の写真が目についた。
それはユウキが大好きなヒーロー、MINKKKとのツーショット写真であった。
そこには勿論、合言葉の「Can't Stop!!」が直筆で書かれていた。
ユウキが「Can't Stop!!」と呟いた瞬間、頭の中に今までの思い出が全て蘇る。
毎日テレビに釘付けになりながらMINKKKの活躍を目を輝かせながら見ていたこと。
いつしかMINKKKのようなヒーローになる為に真似をしていたこと。
ユウキの中にあるMINKKKへの止まっていた愛が再び動き始めた瞬間である。
ユウキは気づく、
「怪獣を倒し、自分たちを守ってくれるヒーローがいるじゃないか。」と。
しかしMINKKKの居場所が分からない限りユウキは探しても途方に暮れるだけである。
そんな時昔の言葉を思い出す。
「年を取ったらいつか山奥で1人ぽつんと暮すって言ってたよ!なんだか不思議だね。都会の方がいいに決まってるのにね。」
この言葉がユウキの頭を駆け巡る。
「ここ一帯で誰も住んでいない山といったらあそこしかない。」
行く山を決めたのはいいものの、MINKKKは変身用の星を割ってしまったことでもうヒーローにはなれないが、
「直し方は分かんないけど、俺が直してMINKKKをもう一度ヒーローに変身して助けてもらうんだ。そうすればもう一度、MINKKKがヒーローとして活躍しているカッコいい姿を見れるし。」
そう決心して山へ向かっていく。
その山はどの山よりも険しく、住む人は疎か登山客すら居ないほどであった。
なんとしてでも会ってこの街を救って欲しい気持ち一心で山を登り続けた先に一軒の古びた平屋が建っていた。
人が住んでる気配なんてものは無いけれども、もしかすると住んでいると思いユウキは戸を叩く。
「ごめんくださーい。誰かいますか?」
言った数秒後に家の中から足音が聞こえてきて戸が開いた。
「客人とは珍しいですね。しかもこんな若いもんが。何かご用ですか?」
髭が長く顔も体も痩せ細っていた男性が出てきた。
ユウキは一瞬人違いをしたと思ったが、声であったり顔で確信した。
「MINKKKさんですよね!僕、小さい頃から大好きで、僕の昔からの憧れです!」
喜びのあまり少し早口になってしまったので落ち着いて事情を説明しようと言い出そうとしたら、
「人違いじゃないんですか?」
その言葉にユウキは固まる。それから続けて、
「大体その人は誰なんですか。あなたのお知り合い?
ここら辺には私しか住んどらんですから、山を降りた方がいいですよ。凶暴な動物だっているんですから。」
こんな事を言われても引き下がるわけにもいかず、
「なんで嘘つくんですか?先程も言いましたが僕、昔からMINKKKさんが大好きなんです。あなたの声だったり顔だったりで分かりますよ。」
それから続けて、
「今、街が怪獣の襲来により滅茶苦茶になっているのは知ってますよね。MINKKKさんが変身用の星を割ってしまったのは分かってます。やり方は分かりませんが僕がその星を直します。なので直ったらヒーローに変身してあの怪獣を倒してください。ですのであの星を見せてもらってもいいですかね。」
言った途端にMINKKKが大声で、
「俺はもうヒーローじゃねぇんだよ!」
その言葉にユウキがびっくりしながら、
「俺はもうヒーローに戻る事が出来ねぇ。俺が星を割ってもう10年も経った。もう俺の事を覚えてるやつなんかほとんど居ねぇし、今は俺よりも強いヒーローが居るだろ?そいつに頼んでくれ。それに、変身用の星を直す事なんてほぼ不可能だし、もし直してヒーローになれたとしても、星を割ったおっちょこちょいに怪獣を倒してほしいと思ってる奴なんかいねぇよ。」
MINKKKは家の中に入り、思いっきり戸を閉めた。
正直幻滅しそうになりそうだったがユウキも声を荒げ、
「あなたはそんな人じゃなかった!あなたは誰よりも元気で、笑顔で、ポジティブで。困っている人がいたらすぐに助ける人だ。それがなんですか。10年も経っているからもうヒーローには戻れない?そんな事はありません!僕だけじゃない。たくさんの人があなたがあの怪獣を倒して、街に平和が訪れる事を願っているんです。あなたを覚えている人はたくさんいます。誰も倒してほしくないなんて思ってないですよ。だから頼みます。戻ってきてください。国民的ヒーローMINKKK、合言葉はCan't Stop!!」
それを聞いたMINKKKから啜り泣きする声が聞こえた。
泣いたままMINKKKは、
「俺だってまだまだヒーローをやっていたかった。もっともっと皆んなに笑顔を届けたかった。けどあの日、ヒーローに変身する星がとある組織の連中によって割られてしまった。俺のことが相当嫌いなんだろうな。知っての通りそれが割れたらほぼ直すことができない。つまりもう二度とヒーローに変身する事が出来ないんだ。俺はこの一連の状況を皆んなに伝えようとしたが、あいつらがメディアに嘘を吹き込んでな。しかも俺に説明させないよう一方的にメディアへの出演を止めてきやがった。圧力をかけたらしい。だからもう俺はなす術無くして此処で余生を暮らしている。」
ユウキは衝撃の事実に驚きそうなのと泣きそうなのをグッと堪えて、
「僕が皆んなに伝えます。次は僕がMINKKKさんを助ける番です。僕は何故ここまであなたに助けてほしいと拘るのか。それは僕が4歳の時にMINKKKさんと一緒に写真を撮ってくれたから。あれは僕にとってかけがえのない宝物になっています。あれのおかげで僕はMINKKKさんを愛し始めました。僕は全てを愛しています。そしてこの愛を止める事はないでしょう。僕の命がある限り。」
それを言った瞬間、家の奥がピカっと光った。
なんの光だと思い焦っていたら、家から10年前とそっくり元気な姿のMINKKKが出てきて、
「ユウキくんと言ったね。一緒に写真を撮ったの、私も覚えているよ。まだ小ちゃかったけどね、誰よりも笑顔で元気だったよ。そこから紡いできた君の愛の気持ちのおかげで星が直った。唯一星を直せる方法、それは『愛』だった。私も初めて知ったよ。そして君の気持ちは私の心も体も治してくれた。ありがとう。私は今からあの怪獣を倒しに行くけど、一つ約束がある。」
「なんですか?」
ユウキが聞き返すとMINKKKが、
「私があの怪獣を倒したら、正式にヒーローに戻る。しかし、もし私が倒せなかったら、ユウキくんにこの星を授ける。分かったね?」
少し困惑したがユウキが、
「分かりました。約束ですからね!」
元気よく答えた。
それに続けて、
「僕に素敵な夢を見させて、そして叶えてください。MINKKKさんがまたヒーローになって活躍してる夢を。」
それを聞いたMINKKKは大きく頷いた。
そして2人が共にグータッチしながら、
「Can't Stop!!」
と笑顔で交わした。
街では怪獣が暴れまくっていた。その時だった、
「これ以上好き勝手にはさせないぞ!」
街の人もその声にすぐに気づいた。
「MINKKKさんだ!私たちを助けに来てくれたのね!けど変身用の星を割ったからヒーローになれないはすじゃ?」
続けてMINKKKが、
「だいぶ来るのが遅くなってしまったが、よくこの言葉を耳にするだろ?ヒーローは遅れてやってくるって。私が来たからにはもう大丈夫だ!私があの怪獣を倒す!合言葉はCan't Stop!!」
そうして街に駆けつけたMINKKKによって街に平和が訪れた。
どうやらあの怪獣を操っていたのはMINKKKの星を割ったあの組織らしい。
組織の目的としては、別のヒーローに怪獣を倒し人気者にさせる、言わば出来レースのようなものだった。
MINKKKの星を割った理由は単純に彼の活躍が気に食わなかったらしい。
そしてメディアへの圧力に関しては組織がやったとバレないようにと、MINKKKを皆んなの記憶から消し、いたという歴史ごと消したかったとのこと。
MINKKKは怪獣、そして組織を倒した後、皆んなに今までのことを全て伝えた。
ユウキも頑張って正しい情報をできる限りSNSを通じて皆んなに伝えていった。
もちろんMINKKKにヒーローをやってほしくないという人はおらず、約束通りヒーローに戻り、皆んなに笑顔と元気を届けるようになった。
どんな事があっても、ユウキはMINKKKを愛する事を止めない。
なんならこの愛を止める事が出来ない。
そう、愛は止められない。
ユウキがこの世に生きてる限りは。
読んでくださりありがとうございます。
不定期ではありますが、作品を上げていこうと思っておりますので何卒宜しくお願いします。