ドキドキハーフエルフ
最高の知能、最高の財力、そして最高の権力。名家たるもの、いずれも欠けてはならないもの。そう、これらを満たす我がオルノーゼ家は選ばれし存在。
もしそこへ軍事力が加われば、誰も無視することは出来なくなるでしょう。下位の貴族は頭を垂れ、上位貴族は機嫌を伺いつつも派閥への取り込みに注力するようになる。
行く行く私――エドウィン・オルノーゼはランタール帝国の中心人物となるのですよ。
「そうは思いませんか、スナイパーJ」
興味無さげにソファーで寛ぐ男――スナイパーJに問いかけるも、やはりというか、返答は素っ気ないものでした。
「どうでもいいなぁ、んなこたぁよ。俺が興味あるのは命綱。今を生き抜く力と冷静な判断力だけだ。権力なんざクソくらえだね」
まったく、失礼な男です。その権力を持つ者に助けられたというのに。
「貴方を釈放するのも簡単ではなかったのですよ? 無駄に正義感の強い者を遠ざけ、金に靡きそうな者だけを集めたからこそ、カビ臭い地下牢から出してやれたのです。どんなヘマをしたかは知りませんが、貴方ほどの男が捕まるなど焼きが回ったとしか思えませんねぇ」
スナイパーJは素人ではありません。幾度となく依頼を達成してきたプロ、そうプロフェッショナルなのです。
「フン、言い訳はしねぇよ。見た目で侮ったのは確かだしな」
「おや、随分と素直ですねぇ? てっきり小一時間かけて愚痴を聞かされるものと思ってましたが」
「奴は間違いなく強かった。それをガキと侮った俺は対峙した時点で負けさ。向こうが殺しに来てたなら俺はとっくに地獄行きだ。まぁその甘さが有ったからこそ、こうして生きてるわけだが」
「強かった……ですか」
報告を受けた時は驚きましたよ。まさかこの男を捕らえたのはキルロード家の小僧共とは思いませんでしたから。いや、正確にはキルロード家の出来損ないと噂されていたバーストとかいう小僧でしたか。
「槍使いのガキも凄腕だったが、武器すら持たないガキが魔法を使いこなしてやがったのは恐怖したぜ」
武家であるがゆえ家族は揃って武術の達人とも言われながらも、末子のバーストだけは非力であり無価値であると聞きましたからねぇ。そんな子供が魔法を使ったというのは些か信じられません。恐らくマジックアイテムか何かでしょう。
「しかし困りました。貴方の顔が知られた以上、帝都に留まらせて置くわけにはいきません。もうしばらくは働いて欲しかったのですが、1度離れた方が安全でしょう」
「俺もそのつもりだ。悪いが今後の仕事は他をあたってくれ」
「やむを得ませんね。ですがこのままでよいのですか? 無敗と言われた貴方が帝都を去る、まるで尻尾を巻いて逃げるかのようではありませんか」
「……何が言いたい?」
1度捕まったとは言え、これまでに依頼を失敗した回数は0。この男に対する信頼は揺るぎません。ならば私の野望を実現するためにも、邪魔者の排除を頼むのはこの男しかいない。
「キルロード家の者――特に貴方を直接邪魔をした者を暗殺してください」
「!」
元は暗殺が得意な男です、下手な闇ギルドよりも信用できます。
「分かった。帝都を離れるついでだ、引き受けてやんよ、エドウィン伯爵様」
「フフ、ならば舞台はこちらで整えましょう。キルロード家の者共を呼び寄せますので上手く処理してください」
「ああ。借りは返さねぇとな」
「頼みましたよ」
では吉報を待つとしましょうか。先日噂されたマンティコアもキルロード家の者が発見したと聞きますしね。そう、アレは魔物と子供を融合して出来上がった失敗作。言うことを聞かないがため人の寄り付かなそうな洞穴に破棄したのです。が、まさか騎士団に始末させる前にキルロード家の者に見つかったのは誤算でした。
あれから色々と嗅ぎ回られて迷惑してましたからねぇ。この際です、まとめて葬ってしまいましょう。
★★★★★
「う~ん、やっぱこっちのワンピの方が良いんじゃない? 全体的に明るく見えるし」
「あらあら、こちらのフリル付きも良いデザインでしてよ?」
「まぁまぁ、2人とも。これはエリーが着るのですから、本人に選ばせて差し上げませんと」
エリーが姉たちにもみくちゃにされながらも服を選んでいる――いや、正確には選ばされていると言うべきか?
なぜこのような事態になっているかというと、先日保護したキャラバン隊の子供たちとは違い、エリーには帰る場所がないと聞かされたからだ。
なら放っては置けないし何かの縁だと思ってキルロード家に住まわせることに――というかエリーが俺にべったりとくっついてきて離れなかったというのもあるけどね。
「まぁまぁ、エリーの歳ならこのあたりでしょう」
「ダ~メ、やっぱりこっちデザインよ。花がアクセントで可愛いもん」
「あらあら、それって貴女たちの感想ですわよね?」
「「どっかの誰かみたいなことを言わないで!」」
そう、最初からエリーは俺に付いてくる気満々だった。どうも俺の戦闘を馬車の中から見ていたらしく、魔法を使いこなしているのを見て惚れ込んでしまったのだとか。
ちなみに俺が最後の男と対峙した時、奴の後頭部にバンビーボールをぶつけたのはエリーだ。俺がルドラスに貸したボールをエリーが見つけ魔力が籠るのを感じたらしく、俺に加勢するつもりで投げたんだとか。
そのお陰? というか、戦い方を見つけたとか言って凄く喜んでたな。
「おやおや、揉めてるようだね。なら間を通って私が推奨する服を――」
「イルフィーナは服のセンスが0ですから却下ですわ」
「これはフレデリカに同意するわ」
「イルフィーナ姉様が選ぶのは服っていうよりアーマーよね」
イル姉ちゃん、服屋に来たはずなのにどっからアーマーを持ってきた……。
今日選ぶのは招待されている晩餐会に来ていく服を決めるためで、戦闘しに行くわけじゃないんだけどなぁ。
「どうしたのエリー、浮かない顔して?」
「あの……私、お金……ない」
「ああ、そんなこと。心配しなくても大丈夫よ、バーストが払ってくれるから」
「俺かよ」
と言っても小遣いも有るし冒険者ギルドでの報酬も出てるから余裕は有るか。
「バースト……大丈夫?」
そしてこのウルウルとした瞳よ。そんな目で見られちゃイェスと答えるしかない。
「ああ、問題ないぞ。好きなだけ買うといい」
「ありがとう!」
見たまえ、パァッと明るい表情を作り色んな服を試着するエリーを。ハーフエルフなだけあって容姿端麗だし実に絵になるじゃないか。
何、オヤジ臭いだと? 黙らっしゃい、誰が何と言おうと可愛いもんは可愛いんだ。異論は認めん!
「バースト、どれがいい?」
「俺が選ぶのか?」
「うん。バーストが気に入ったのを着たい」
「マジで!?」
何て嬉しいことを。そんな台詞を出されたら余計に迷ってしまうじゃないか。こうなったら最後の手段!
「店員さ~ん、この子が持ってる服を全部くれ!」
「え……いいのバースト?」
「ああ。男に二言はない!」
「フフ、バースト大好き」
「ウォッフゥ~♪」
そしてこの笑顔でトドメの台詞だよ。只でさえ女の子の知り合いが少ない(←素直に友達が少ないと言いなされ)俺が抵抗できるはずもないのさ。
「ニシシシシ♪ 上手く言ったでしょ?」
「うん。アイリの言った通りだった。でもバーストちょっとだけ可哀想」
「喜んでるんだからいいのよ」
おかしいな、不穏な台詞が聴こえたような気が……いや、気のせいだろう。
「じゃあ太っ腹なバーストにはあたしの服も買ってもらおうかしら」
「幼児服のコーナーはあっちだぞ」
「ふざけんな!」
さて、プンスコお怒りのアイリは放って置いてだ。エリーの服も決まったしそろそろ帰るか。
「フン、なんだこのお粗末な品揃えは。どれもボクチンの美的センスに当てはまらないじゃないか」
帰り際に聞こえた店を貶す発言。どこかで聞いたようなと思い声の主を探してみると、やはり見知った顔が視界に入り込む。
「やっぱりモルゴメスか」
「んあ? 今ボクチンを呼んだのは――ああ! お前はバースト!」
向こうも気付き、ドタドタと駆け寄ってくる。
「お前、バーストのくせにこんなところで会うとは奇遇じゃないか。しかも女を何人も侍らせていいご身分だなぁ? ボクチンにも1人くらい分けろってんだ!」
同じ男爵家の息子なのに偉く上から目線で接してくる嫌な奴なんだよなぁ。まぁ貶されたら言い返すくらいの仲だし、特に気にしちゃいないけどな。
「1人くらい? 俺の姉なんだが本当に欲しいか?」
「姉? ……あ、遠慮しとく」
バカな奴だが姉たちの武勇伝は知ってるからな。エリー? 上手くイル姉ちゃんの後ろに隠れてるよ。面倒なことになるから紹介するつもりはない。それにこんな太っちょの視線にエリーを晒したくはないしな。
「しかし情けない奴だ、服を買うのに姉の付き添いが必要とはな。怖くて1人じゃ外も歩けないんだろう? 非力なお前じゃろくに戦えないもんな、ゲッヒッヒッヒッ!」
「そういうお前だって執事に付き添ってもらってるだろ」
「へへん、そんなの当たり前だろう? 優秀なボクチンが暴漢に襲われたら大変じゃないか」
「なら俺が姉に付き添いを求めても笑うんじゃねぇよ」
「むぐっ! ま、まぁそういう事になる……のか?」(←なります)
バカなりに理解したらしい。良かったな、1つ賢くなって。
「フ、フン、いい気になるなよ? もう少ししたら学校が始まる。お前みたいな出来損じゃボクチンにはついて来れないだろうな」
「学校……」
すっかり忘れてた。あと一週間くらいで入学式じゃないか。本当は貴族たちが多く通う北クラウンに入る予定だったけど、俺を見下す連中が多そうだから平民が中心の南クラウンに入学することにしたんだ。
「どうした、怖じ気付いたか? 舎弟になるなら受け入れてやるぞ?」
「いや、俺は南クラウンに入るから」
「は?」
「どうせお前は北クラウンだろ? だからしばらく合うことはないと思うぞ」
「ひ?」
「じゃあな、モルゴメス」
「ふへほ?」
間抜け面をしたモルゴメスを残して立ち去る俺たち。しかし俺はあることを告げるために振り返り……
「あ~そうそう。お前に似合いそうな服があっちに有ったぞ」
「本当か!?」
俺の台詞に目を輝かせ、幼児服コーナーへと駆け出すモルゴメス。
「おお、これは凄い! ボクチン好みのロケットパンツなのだ!」
なんか予想してたのと違う展開だが……まぁいいか。
しかし学校なぁ。エリーはどうするんだろ?
「学校? バーストも行くの? なら一緒に行く」
「そっか」
エリーも一緒だしバカにしてくる貴族も居ない。楽しくなりそうだな。
教えてギルドマスター
「よぉ、冒険者ギルド南支部のバルドスだ。今日は特別授業として金銭価値ってやつを教えてやろう。いいか、特別だからな? ……っておい、誰だ今ハゲって言った奴、出てこいやゴルァ! 俺だって好きでハゲてんじゃねぇ、未来のテメーだってハゲてるかもしれないだろぉぉぉぉぉぉ!?」(←早く次行って)
銅貨>銀貨>金貨>白金貸
「通貨の価値は上記の通りだ。更に追記するとだな……」
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
金貨100枚=白金貸1枚
「こんな感じになる。ちなみに平民が日常で最も使うのは銅貨で、貴族は金貨より下の通貨を持ち歩かないというのが定番だな。俺もバーストを見てると金銭感覚がバグることがあるが、奴の懐から金貨以外を見ていないってことに最近気付いたぜ」
南支部の酒場のメニュー
水:銅貨10枚
果実水:銅貨20枚~銅貨50枚
アゼル水:銀貨5枚
エール:銀貨1枚
ラガー:銀貨2枚
果実酒:銀貨3枚~銀貨5枚
アゼル酒:金貨1枚
つまみ:銅貨5枚~銅貨10枚
「ギルド内にある酒場のメニューだが、ザッとこんな感じだ。つっても南支部は平民向けの酒場だからな、これでも価格はマイルドな方だと思うぜ? ちなみにアゼルってのは西の山に生息している木の実のことだ。まぁご当地の限定メニューってとこだな。ああ、それから1つだけ訂正しとく。平民が最も使うのは銅貨だと言ったが、酒好きの奴は銀貨が多いだろうな。何せ銀貨以上がなきゃ酒に酒にありつけないんだからよ」
北支部の酒場のメニュー
水:銀貨1枚
果実水:銀貨5枚~銀貨10枚
アゼル水:金貨1枚
エール:金貨1枚
ラガー:金貨1枚
果実酒:金貨1枚
アゼル酒:金貨10枚
つまみ:銅貨10枚~銅貨20枚
「知ってるか? 水ってのは只じゃないんだ。誰かが井戸から汲んできた上でろ過しなきゃならねぇ。マジックアイテムを使うのだって結局は人だからな。要求する金額にゃ人件費ってやつも含まれてるのさ。――に、してもだ。北支部のこれはボリ過ぎだろ……。いくら貴族が中心だからってなぁ? ――と、最初の頃は思ってたんだがよ、貴族は見栄っ張りだから顔色1つ変えずに支払うんだとよ。しかも変な対抗意識を持った冒険者までもが同じ道を辿るんだから救いがねぇよ。ま、お前さんも見栄張ってボラれないように気を付けな」




