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魔力は垂れ流すもの!  作者: 南国ブラックベア
7/8

金貸しの罠

「あ、ウィル兄ちゃんだ、ウィル兄ちゃんが来たぞ~!」

「ホントだ、ウィル兄ちゃんこんにちは~!」

「おで、院長先生呼んでくるど!」


 冒険者ギルドから徒歩30分という結構な距離を歩き、人気(ひとけ)(まば)らな郊外の一角にイレニア孤児院はあった。周囲の民家とも距離があり、孤児たちが騒ぐ分には苦情は来なそうだ。


「あらウィルくん、いらっしゃい」

「はいッス、ご無沙汰ッス」

「フフ、3日前にも来ましたけれどね」

「そうッス、3日振りッス」(←ご無沙汰の意味を辞書で調べよう)

「それで、そちらの男の子は?」

「こちらはアニキッス! すんごく強い冒険者ッス! オークに捕まった俺を助けてくれた命の恩人ッス!」

「まぁ、そんなことが! ウィルくんを助けていただき感謝します、アニキさん」


 オークのくだりで真っ青になった院長さん。だが俺が助けたと知り、すぐに笑顔を取り戻して握手を求められた。

 というか名前が勘違いされてるし、一応は自己紹介をしとこう。


「初めまして院長さん、数日前に冒険者になったばかりのバーストと申します。助けた縁でアニキ分にされちゃいました」

「あ、あらやだ、私ったらてっきりアニキくんかと。……コホン。失礼しました、私はイレニアと申します。見ての通りこちらの孤児院の院長を勤めさせてもらってます。立ち話もなんですから中へ――」

「兄ちゃんたち遊ぼうぜ~!」

「「「あそぼあそぼ!」」」

「お、おいおい……」


 ウィルの恩人と知り、様子を伺っていた子供たちが飛び付いてくる。


「アニキ、俺が話を聞いてきますんで、アニキはコイツらの相手を頼んまス」

「それが良さそうだな」



★★★★★



 ってな訳で、ここから先はルーキー冒険者の俺――ウィルの出番ッス。

 何をするか分かってるかって? もちのろんッス! バーストアニキの偉大さを小一時間キッチリと聞いてもらうッス!(←やっぱり理解してなかった模様)


「ウィルくん、冒険者の活動は順調? 困ったりとかしてない?」

「ぜんぜん大丈夫ッスよ! 最初は不安だったッスけど、アニキの戦い振りを見てたら魔法でバーンが正義なんだなって分かってきたッス!」

「そ、そうなの」

「そりゃもう。アニキが相手じゃオーガなんかただの豚ッス。チンピラだって指先1つでダウンッス。ユアーショッッック、ってやつッス! あ、これ、アニキからの差し入れッス、みんなで食べて欲しいッス!」

「まぁ、わざわざありがとう――って、ウィルくんのそれ……」


 マジックバックからたくさんのお菓子を取り出したら院長先生に驚かれたッス。

 あ、もしかしてマジックバックを知らないッスか? なら特別に教えてやるッスけど、これは普通のバックとは違って見た目以上にアイテムが収納できるレア物ッス。主に商人なんかが重宝してるッスね。


「せっかくだからたくさん買い込みたいって言ったら、アニキが貸してくれたんッス」

「でもバーストくんって、冒険者になったばかりって言ってたわよねぇ? そんな高価な物、新人の冒険者じゃ手が届かないわ。彼はいったい何者なの?」

「何者って……アレ?」


 言われてみたらそうッス。ルーキー冒険者がマジックバックを持ってるって知られたら、ベテラン冒険者から嫉妬の嵐ッスよ。下手すりゃ奪われる可能性だって……。

 けどアニキみたいな実力者なら簡単には盗られないだろうし、寧ろ持ってる奴から奪えるくらいには――いやいや、何を言ってるッスか、アニキはそんな人じゃないッス!


「で、でも、アニキは恩人ッス! 正義の味方ッス! 決して盗みをするような人じゃないッスよ!」

「ごめんなさいねウィルくん、そういう意味で言ったのではないの」

「え? なぁんだ、違うんスかぁ」

「ええ。マジックバックが簡単に買えるような身分の人なのかなって思ったのよ」

「なるほどッス。マジックバックを簡単に買える――え? じゃあアニキは商人!?」


 アニキが商人の息子なら、商品として扱ってるマジックバックを自由に持ち歩いてるのも納得ッス。(←それはそれで問題がある)


「あのねウィルくん、いくら商人の息子でも商品を勝手に持ち出したりは出来ないわ」

「そ、そうッスね……。あ、だったらアニキは何者なんスかね?」


 単純な疑問を院長先生にぶつけてみたッス。そしたら先生、にこやかに笑って……


「フフ、きっとウィルくんが真面目だから高貴な方と巡り合えたのでしょうね」

「ありゃ? もしかして院長先生、アニキの正体に気付いてたり……」

「ええ、何となく想像はつきます。衣服のサイズが合っていないように見えましたし、靴も履きなれてはいないのでしょう」

「マジッスか!?」


 アニキってば貧乏なのに無理してお菓子を買い込んだんスか!?(←違います)

 ほんっともうアニキってば神様に等しいッス!


「よぉし、決めたッス。いつか俺が大金持ちになって、アニキに似合う豪華服を買ってやるッス!」

「フフ、その時はキチンとしたデザインを選ばなきゃダメよ? 貴族のお茶会に出ても恥ずかしくないような……ね」

「分かったッス! あ、そういや院長先生、金を盗んだ犯人はどうなったッスか?」

「……それは」


 思い出したことを聞いたら俯いてしまったッス。つまり犯人は……


「捕まらないッスか」

「ええ。孤児院から逃走する3人組の男を見たという証言はあるものの、目撃時間は深夜。街灯も少なくて顔まではよく分からない……と」


 3人組なんてどこにでも居そうッスもんね。俺だってギルドの依頼を受けたら知らない2人と組まされたッスし、これだけで3人組が完成するんスよ。


「ん? そういえば院長先生、なんで目撃者は男だって分かったんスか?」

「3人とも成人男性の声で話していたそうですよ。少なくとも女性ではなかったと聞いています」


 う~ん、成人男性ッスか……ん?

 成人男性で3人組といえば、ギルドでアニキがボッコボコにした連中ッス。しかもアイツらがイレニア孤児院を知ってたって事はまさか!


「分かったッス! 謎はすべて解けたッス!」

「ええ? ど、どうしたのいきなり……」

「盗んだ3人組が分かったんスよ! ついさっき冒険者ギルドでアニキが懲らしめた奴らッス! しかもソイツら、これからここに来ると思うッス!」(←胆略的すぎじゃね?)

「えええっ!?」


 奴らの言動からして間違いないんスもんね。ここに来たら取っ捕まえて騎士団に引き渡してやるッス!



 ボォン!



「ヒッ!?」

「な、なんスか今のド派手な音!」


 突然の爆音が外から聴こえたッス。まさかアニキや子供たちが危険な目に!?


「様子を見てくるッス!」

「ウィルくん!」


 俺に続いて院長先生も外に飛び出したッスけど、遊んでいたはずの子供たちは困惑した表情で何かを見下ろしてるッス。アニキはアニキで困った顔をしてるしで、何がおこったかさっぱりッスよ。


「アニキ、今の爆音は……」

「ああ、すまん。驚かせるつもりはなかったんだけどな。条件反射でつい……な」

「条件反射って……あ、コイツら!」


 そこでようやく事態を飲み込めたッス。噂してた例の3人組が地面に埋まってたッス。

 いや嘘じゃないッス! 地面に空いた大穴に入って気絶してるんスから!


「懲りずに来るとはバカな奴らッス。ん? しかも1人増えてるッスね? 誰ッスか、このハゲオヤジは?」

「さぁな。この3人と一緒に悪態ついてきたからまとめてブチのめした。確かラブラブがどうとか言ってたような……」

「ラブラブ? ――ハッ!?」


 まさかこの3人組、1人のハゲオヤジを巡って愛の論争を繰り広げて!(←想像したくないから止めて)


「なんてハレンチな連中ッスか! 今すぐ騎士団に引き渡すッス!」

「よく分からんけど騎士団に寄越されても困るんじゃね?」

「あ、待ってください、この方は!」


 ハゲオヤジに見覚えがあったのか、院長先生が引き上げたッス。そのタイミングでハゲオヤジも目が覚めたらしく……


「ゲフッゲフッ! まったく、ひどい目に合ったわぃ」

「貴方はラブロフ商会の」

「「ラブロフ商会?」」

「オッホン! そう、あの有名なエドワード・ラブロフだ」


 そこでアニキと小声で話したッス。


「例の金を借りてる相手ッスよ」

「噂程度だが俺も知ってるぞ。商品の売買よりも高利貸しを本業にしてる商会ってな」


 悪い噂が多い商会ッス。孤児院が金に困ってるって聞いて院長先生に接近したにきまってるッス。


「おい貴様ら、何をコソコソ話している? 手荒な歓迎なんぞしよってからに、貸した金を今すぐ全額取り立ててもいいんだぞ?」

「お、お待ちくださいエドワードさん。それはあまりにも急なお話で……」

「だがな、事実こうして無礼な目に合ったわけだ。特にワシの手下共に関しては冒険者ギルドで恥をかかされたと聞いた。今さら謝っても済まさんぞ?」


 ああ、マズイッス。ギルドでやった事が完全に裏目に出たッス。この場で全額返済なんて不可能ッスよ!

 けれどアニキ、何故か涼しい言い返したッス。


「へぇ、そこで寝転んでる連中はアンタの手下かよ。だったらもう少し腕を磨くよう言うべきだな。3人掛かりで俺に勝てないようじゃ冒険者失格だろ?」

「何っ、3対1で負けただと!? それが本当なら解雇も辞さないところだが……」


 どこか軽蔑するような視線を3人組へと向けるエドワード。さすがに解雇はマズイと思ったらしく、伸びていた3人組が一斉に立ち上がって弁明し始めるッス。


「ちちち違うんですよエドの旦那ぁ! この小僧が卑怯な手を使ってきまして……」

「そ、そうなんです、コイツら2人は先に転ばされて、俺しかいない状態で腹を殴られてですね……」(←そこだけ聞くと何も問題なさそう)

「へ~んだ、何を言ってるッスか。アニキが卑怯ならお前らなんか犯罪者じゃないッスか!」

「「「はぁ!?」」」

「おい貴様、ワシの手下を犯罪者呼ばわりだと? 覚悟は出来てるんだろうな?」

「覚悟するのはそっちッス。この3人がイレニア孤児院の金を盗んだッス。こっちには証拠だって揃ってるんスよ!」(←有るのは証言だけだろ)


 そこで3人組は顔を青くし始め……


「クソガッ! 証拠が出てきたってのかよちきしょうめ!」(←は?)

「まさかバレちまうとは……」(←へ?)

「なら仕方ねぇ。ああそうさ、無用心にも侵入しやすいとこが有るんだから侵入するのは当たり前だろう?」(←自白するんかい!)


 あっさりと自供したッス。もちろん聞いていた院長先生は酷く憤り……


「ま、まさか貴方たちが……。エドワードさん、貴方も知ってたんですね」

「どこからか盗んできた――という事実だけはな。まさかイレニア孤児院とは思わなかったが。だがそれが何だと言うのかね? 貴女は金を盗まれた、だからワシが貸してやった、それだけだろう? 彼らを訴えるなら好きにするがいい。しかし金を貸した事実は変わらんのだ、クッハッハッハッ!」

「そんな……」


 なんて奴らッス、こんなの許せないッスよ! 隣を見たらアニキもプルプルと震えてるッス。


「アニキ!」

「ああ、分かってる」


 さぁて、ここからは俺――バーストの出番だ。


「お前たち、覚悟はいいか?」

「あ? やるってのかテメェ!」

「さっきみたいなマグレは2度も起きねぇんだよクソガキがぁ!」


 顔を真っ赤にして穴から這い出ようとする3人組。でもそうはいかない。


「よし、悪者退治だ。みんな、コイツらにボールを当てまくれ!」

「「「は~い!」」」


 手にしたボールを一斉に投げ始める子供たち。最初は気にもとめない3人組だったが……


「グホッ! ガハッ! ど、どうなってやがる、たかが遊び道具のボールが鉄のように硬ぇ!」


 そりゃそうだろ。このボールは魔力に反応して硬度や速度が増すマジックアイテムなんだ。つまり魔力を注げば注ぐほど危険な物と化すのさ。


「ゴボッ!? く、首が曲がるぅ、止めてくれぇぇぇ!」


 それでも遊び道具として安価で販売されてるのは僅かな魔力じゃ違いが出ないから。膨大な魔力でなきゃ変化しないため、戦闘には不向きってことか。


「分かった――グゲッ! 分かったから――ンガッ! 謝るから許し――ブベッ!」


 つまりはアレだ、このボールは俺のために有るようなもんじゃないか。だったら最大限に利用してやらないとね。


「まだ終わりじゃないぞ、もう1度放てぇぇぇ!」

「「「おお~~~!」」」

「「「ヒィィィィィィ」」」


 俺の掛け声に応えるかのように、子供たちのボールが更に唸る。そんな様子を間近で見ていたエドワードが堪らず逃げ出そうと試みる。


「ワ、ワシは知らんぞ、コイツらとは無関係だ」

「そんな!」

「エドの旦那ぁ!」

「うるさい! 貴様ら3人はたった今から手下でも何でもない、ただの窃盗犯だ。2度とワシに近付くな!」


 この期に及んで見苦しい奴め。コイツも制裁したいが孤児院の窃盗には関わってはいない。

 さてどうしたものかと知恵を絞っていると、聞き慣れた声が背後から響く。


「エドワード・ラブロフだな。話は聞かせてもらったぞ」

「そ、その声は!」


 振り向けばそこにイルフィーナ姉様が。そう、何故かハルバードを担いだイル姉さんが居たんだ。


「イル――コホン、軍人さんが何故ここに?」

「なぁに、孤児院を痛め付けている不届き者がいると聞いてな。子供たちのためにもそのような輩は排除せねばなるまい?」


 そう言ってイル姉さんがウィンク。こりゃ俺の後を付けてきたな? 気付かない俺もアレだけど、気配を消すのはさすがだと言わざるを得ない。


「さてエドワード、貴様の手下がイレニア孤児院から盗みを働いたのは明らかだ。ならばどうすべきと思う?」

「ぜ、全額お返し致します、はい」


 そう言って目の前で契約書をビリビリと破り捨てた。これで金の心配は無用だ。


「では行こうかエドワード」

「お、お待ちください軍の方、ワシ自身は決してやましい事は――」

「詳しい尋問は詰所の騎士団が丁寧に行ってくれる。よかったな」

「良くないでふぅ!」


 昼下がりの太陽を背に去っていくイル姉さん。どうせなら3人組も引き取って欲しかったが……まぁいいか。


登場人物紹介


名前:バルドス

性別:男

年齢:35歳

種族:人間

備考:ランタール帝国の帝都マインクラウンの冒険者ギルド南支部のギルドマスター。スキンヘッドで厳つい顔だが、後輩の面倒見が良く人当たりも良い。バーストの魔力にいち早く気付いたところは流石ギルマスと言うべきか。冒険者時代に魔物との戦闘で頭皮を焼かれ、毛根が根絶するという悲劇に見舞われた過去を持つ。


名前:ハレー

性別:女

年齢:22歳

種族:獣人

備考:帝都の冒険者ギルド南支部の職員で主に受付嬢をしている。努力家なバーストを微笑ましく応援してくれている1人で、弟のように可愛がっている――ようにはあまり見えないが、本人はそう言っている。間延びした口調が特徴でのほほんとしたイメージを持たれるが、ほぼイメージ通りである。


名前:ウィル

性別:男

年齢:13歳

種族:人間

備考:ルーキー冒険者の少年で、オークに連れ去られた際にバーストに助けられ、それを切っ掛けにアニキと言って慕うように。魔法でオークを圧倒するのを目の前で見ており、いつか自分もと強く憧れている。イレニア孤児院の出身で、稼ぎの一部を孤児院に寄付している。


名前:イレニア

性別:女

年齢:32歳

種族:人間

備考:イレニア孤児院の院長。簡易的な勉学も教えていることから、子供たちからは院長先生と呼ばれている。庶民に扮したバーストを言動から貴族であると見抜いている。



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