舎弟?
あれから数日。俺はすっかり冒険者ギルドの南支部に入り浸っていた。ここなら身分を隠せるし魔法関連の資料も有るしで良いこと尽くめだからな。
「ま~た今日も勉強か? お前みたいな年頃の奴が勉強とは世も末だな」
「失礼だな。俺はオッサンと違って勤勉なんだよ」
一心不乱に机に向かっている俺を見たギルマスが怪訝な視線を向けてくる。
いや分かるよ? 俺だって本当は遊びに出掛けたいんだ。でも危険から身を護るには魔法に特化するしかないのさ。そんなわけで今日もひたすら魔法を暗記してますよっと。
「ま~たオッサン呼びかよ。俺にはバルドスっつぅ超カッコいい名前があるって言ってるだろ。お前はもう少し歳上に対して敬意をだな……」
「敬意を持って欲しいなら敬意を持たれる人であれ――って母ちゃんが言ってた」(←これはガチなやつ)
「お前の母ちゃん、正論パンチの威力が半端ねぇな……」
でもギルマスには感謝してるよ? こうして勉強の場を提供してくれてるしな。
ちなみに俺が貴族だって事も内緒にしてくれている。この辺りで俺の身分を知る人物は受付のハレー姉ちゃんかギルマスのオッサンだけだ。
「だからオッサンじゃなくバルドスだっての」
「他人の心を読むなよオッサン」
「ったく……。で、昼飯はどうすんだ? 食ってくなら豚肉がまだ余ってるんだが」
「いや、豚肉はしばらくいい……」
聞けばタケシの肉がまだ余ってて、それ以外のオークの肉までが貯蔵庫を圧迫してるらしい。いっそ近所に配ったれよ、少しは人徳が上がるぞ。
バタン!
「アニキ~、来ましたぜぇ!」
「ウィルか……」
「早く冒険に行きましょうよぉ!」
資料室に入ってくるなり俺に纏わりつく同い年の少年。コイツはアレだ、この前オークに連れ去られた冒険者の1人で、俺の実力を垣間見て惚れ込んでしまったんだとさ。
「見ての通り勉強中だ。依頼を受けるなら他の連中と――」
「そんなの無理ッスよ~。俺、この前の救出劇で実力不足なのがバレちまったし、誰も組んでくれないんスもん」
ホント噂が広がるのは早いな。ウィル以外のルーキーたちも気まずくなって他のギルドに移ったらしい。だけどコイツは孤児で僅かでも孤児院に仕送りをしたいという理由でこの地を離れないんだとか。
軽いノリとは裏腹に中々真面目な奴だし、もし冒険者として大成しなかったら使用人として雇うことも考えてる。
「せめて採取依頼とかを地道にこなせよ。それか自己鍛練で鍛えるかだな。ギルドの地下に訓練施設があったろ?」
「採取依頼なんて地味ッスよ。俺もアニキみたいにバンバン魔法を撃ちまくって魔物を蹴散らしたいんス! それに訓練施設は強面のオッサンがたむろってて怖いんスよぉ」
「強面のオッサン?」
「そこで俺を見んじゃねぇ。どう見ても爽やかハンサムのイケオジだろうが」
自分で言ってりゃ世話ないんよなぁ。せっかくだし他の意見も聞いてみよう。
「どう思うハレー姉ちゃん?」
「そうね~、ハゲはちょっと~、遠慮したいかな~って」
「だぁぁぁ! ハゲじゃねぇ! 敢えて剃ってんだ敢えて! 火を吹く魔物に毛根殺られちまったんだよ! だから潔く剃ってやったんだ! 悪いかコンチクショ~め!」
「「「…………」」」
聞いて良かったのかは置いといて、ギルマスの不幸な過去が明らかにされましたと。
「苦労してるんスね、ギルマスも」
「お前みないな雑魚に同情されたくねぇ」
「酷っ!」
「それよりハレー、用があって来たんじゃないのか?」
「そうでした~。訓練施設で酔っ払いが騒いでて~、苦情が出てるんですよ~」
ああ、ウィルが言ってた奴らか。昼前から酒を浴びるとは暇な連中だな、こっちは必死な思いで勉強してるってのに。そう考えたらムカついてきたなぁ。
「座り過ぎてケツが痛くなってきたところだ。ストレッチがてら軽~く捻り潰してやんよ」
「おお、アニキマジでパネェッス! 略してAMP!」
――という流れで、ウィルを引き連れて地下施設へ。そこでは数人の柄が悪そうなオッサン共が他の冒険者に絡んでいるところだった。
「へへ、そんな細身じゃ戦闘なんて無理だろぉ? 俺たちが護ってやんぜぇ?」
「ちょっと、気安く触らないで!」
「おぅおぅ、歳上に対する態度じゃねぇなぁ? いったいどんな教育してんだ兄ちゃんよぉ?」
「お、俺たちに関わらないでくれ」
「あ~ん? まるでこっちが邪魔してるみたいじゃねぇか。気分が悪いなぁおい!?」
「そ、そんなこと言われても……」
こりゃいただけませんなぁ。北支部だと他の貴族に絡まれるだろうから南支部を選んだのに、こっちはこっちで下品なオッサンが絡んでくるとか目障りにも程がある。
「おいオッサン!」
「はぁ!?」
「いや、ギルマスのことじゃないって」
「そ、そうか?」
可哀想に、オッサンというフレーズに過剰反応するようになってしまったか。(←お前のせいやで)
「気を取り直してっと……おい、そこのオッサン共、そこで騒いでると鍛練の邪魔なんだよ。分かったらどっか行け!」
「「「んだとぉ!?」」」
すでに顔の赤いオッサン3人組がさらに真っ赤な顔を作り上げ、ドスドスとこちらに向かって来る。
「へっ、よく見りゃ半人前のガキじゃねぇか。ここはテメェらみてぇなクソガキの来るところじゃねぇ、痛い目に合いたくなきゃとっとと失せな!」
「断る。確かに半人前かもしれないが、自己鍛練でここを使うのは自由なはず。それより他人に迷惑をかけるお前たちの方が消え失せるべきさ」
「ああ? このガキ、下手にでりゃいい気になりやがって!」(←どこがやねん)
「いや待て、コイツ今……」
「あ? ……クク、なるほどな」
オッサン共がコソコソと話し合い、薄気味悪い笑みでこちらに振り返った。
「おいテメェ、さっき自己鍛練で使うとか言ったよなぁ?」
「だったらなんだ?」
「クク、俺たちが相手になってやんよ」
「鍛練に付き合うつってんだから問題ねぇよなぁ?」
なるほど、そうきたか。
「ア、アニキ、コイツら……」
「分かってる」
鍛練という名目で俺をボコすつもりのようだ。まぁ普通に考えれりゃ俺が一方的にボコられるのを想像するだろう。
だがそれは俺が普通だったらという条件がつく。では普通じゃない場合どうなるのか。今から体験していただこう。
「お前ら、本当にやるんだな?」
「んだよギルマス、せっかく気分が高揚してんだ、水を差すんじゃねぇ」
「ハッ、心配しなくたって殺しはしねぇよ、殺しはな。クククク……」
「……そうかい。ま、一応俺は止めたからな? 後は自己責任だぞ」
「へっ、そういった忠告はそっちのガキにするもんだぜ」
好きにしろと言いたげにギルマスのオッサンは離れていく。 強制的に止めないギルマスにギャラリーたちは「えっ!?」という反応を示す。が、その答えはすぐに見つかるだろう。
「じゃあ始めるぜぇ!」
「おぅ!」
「くたばりやがれぇ!」
力で圧倒できると思ったんだろう、3人は無策で俺に突っ込んでくる。
「ストーン」
「へへ、もらっ――ガッ!?」
「おい、どうし――うおっ!」
「な、なんだ、何でお前ら倒れてんだ、いったい何があった!?」
オッサン2人が俺を前にド派手に転倒。残る1人も動揺して急停止する。
何でこうなったかって? それは簡単、オッサン共の足に引っ掛かるよう大きめの石を召喚したんだ。
「なんだアレ?」
「あの少年の前で勝手に転んだみたいよ」
「なんだそりゃ、ダサ過ぎだろww」
ギャラリーからもクスクスと笑い声が溢れ、オッサンたちは一躍ヒーローに。(←ものは言いようだな)
「クッ、クソゥ……」
「あ~あ、顔面から派手に行ったねぇ。俺が手当てしてやろうか?」
「グヌゥ……こ、このガキゃあ!」
転んだ1人が怒りに任せて殴りかかってくる。
「甘いな、ウィンドシールド」
バシュ!
「ぬぐぁっ!?」
施設の隅まで飛ばされるオッサン。生憎とこの魔法は攻撃を防ぐだけじゃないんだ。触れた者を遠くへ弾いてしまうのさ。
「さて、あと2人か」
「こ、こんなのマグレだ偶然だ、俺たちがこんなガキに――」
「ストーンバレット」
「――グへッ!?」
拳大の石がオッサンの横っ面を強襲。不意打ちぎみに入ったのもあり、オッサンは頬を押さえて転げ回る。
「さ~て、最後の1人だな。どうする、まだやるのか?」
「あ、当たり前だ、テメェみてぇなガキになめられてたまるか! こうなりゃ……」
スチャッ!
「おい、アレ!」
「あの男、剣を抜きやがった!」
ギャラリーが一層ざわつき出す。最後のオッサン、とうとうプッツンしちまったらしい。
「ヘへ、ビビったか? けど安心しな、殺しはしねぇ。五体満足でいられるかは知らねぇけどなぁぁぁ!」
殺す気はないと言いつつも殺気は隠さず突進してきた。つまりはアレだ、斬った後で殺すつもりはなかったとでも言うつもりだろう。
「けどあまいな、ストーンバレット連射」
ドゴドゴドゴッ!
「ゴッッッフゥ!? ……ゲホッゲホッ! ど、どっから石の塊が!」
「俺の手からだよ」
ビールッ腹に叩き込まれた最後の1人も撃沈っと。瞬間、ギャラリーから拍手喝采が沸き起こる。
「おいおいマジかよ! あの少年、1人で3人の大人を倒しちまったぞ!」
「魔法士、それも上位の存在ですね」
「うっふ~、よく見ると可愛いじゃない、今のうちにお近づきになっちゃおうかしら」
「多分ノンケだから止めとけ」
さて、さりげなく連射も試せたし、丁度いいモルモットだった。また試したくなったら同じように挑発してやろう。(←鬼かよ)
「アニキ~! やっぱアニキはスゲェッス! マジパネェの間違いなしッス!」
「フフン、こんなのは朝飯前さ」
さ~てと、ケツの痛みも引いてきたし、資料室に戻るか。
「お、おいクソガキ、まだ終わったわけじゃ……」
「はぁ、まだやる気か? その気力を別の方向に生かそうとは思わんのかねぇ」
「まったくッスよねアニキ!」
「この、減らず口を――あ? よく見たらテメェ、イレニア孤児院の」
イレニア孤児院? 確かウィルが世話になってたところだな。
「ククク。そういう事ならこの場は引いてやんよ」
「あそこの院長よろしく言っときな!」
「ヒヒヒヒヒ!」
薄気味悪い笑みを浮かべてオッサン共は帰っていった。何かあると悟った俺は、すぐにウィルへと向き直り……
「ウィル、孤児院で何かあったか?」
「へ? 俺自身は何もないッスよ」
だがあの様子だと明らかに弱みになるようなものを握ってそうだが。
「あ、もしかしたら」
「何かあるのか?」
「はいッス。あの孤児院は国の寄付金で運営出来てるんスけど、最近盗人に入られて資金を奪われたらしいんスよ」
「大事じゃないか」
「はいッス! そのせいである商家から借金をする羽目になったらしいんスけど、その商家というのが利息が高いことで有名で、院長はそれを知らずに……」
借りてしまったと。
「分かった。予定を変更してイレニア孤児院に行こう」
「え? でも借金があのオッサン連中と関係あるようには……」
「表向きはな」
でもあの薄ら笑いは絶対に何かある。そう確信した俺は、ウィルを伴って孤児院へと向かうことにした。
魔法の紹介
名称:ファイヤーボール
属性:火
備考:火の球を対象にぶつける魔法で、上手くいけば炎上することもある。屋内で使うのは火事の原因となるので注意しましょう。
名称:ファイヤーブレス
属性:火
備考:竜の吐くブレスと同等の魔法。魔力の高い者にしか使用できないため、魔物を除き竜以外に使用できる者は殆どいない。
名称:ファイヤーストーム
属性:火
備考:複数の火柱を立ち上げ、周囲の敵を焼き払う魔法。強力だが味方に被害が及ばないよう注意が必要。
名称:フレイムキャノン
属性:火
備考:炎の砲弾を放つ魔法でファイヤーボールよりも遥かに強力。防壁をも破壊するので訓練では使用禁止とされている。
名称:アイスロック
属性:水
備考:氷の塊を対象にぶつける魔法で、一定時間凍らせることが出来る。上手く使用すれば樹木や壁などに張り付けることも可能。
名称:ブリザロック
属性:水
備考:アイスロックよりも広範囲で強力な上位版。使用時は味方を巻き込まないよう注意したいところ。




