肉厚な歓迎
冒険者のルーキーたちがオークの襲撃を受けたという知らせを受け、ギルマスや他パーティの面々と共に現場へと直行。街道から大きく外れた茂みの更に奥で、2体のオークが倒れているのを見つけた。
「襲われた連中は!?」
「自分が離脱する時はまだ戦闘中でした。恐らく捕らえられた上で拠点へと連行されたものと……」
「クソッ、遅かったか……」
オークが冒険者を連れ去った理由。誰も口にはしないが、なんとなく分かる。男は見せ物のようになぶり殺され、女は快楽の道具として扱われる。だからオークを見つけたら即座に逃げろと言われているんだ。
けど妙だな? オークもオークで割とビビりな性格だ。鉢合わせてもこちらが逃げれば追っては来ないはず。
「このバカ共が! 自分たちから仕掛けたらどうなるか分かってんだろ!」
「ち、違いますよ、こちらからは仕掛けてません、一方的に襲われたんです!」
「んだと!?」
そりゃ穏やかじゃないなぁ。襲ってきたオークは普通じゃないってことになる。
「まさかオークの亜種? いや、それより今はルーキーたちの救出だ。血痕を追うぞ」
点々と滴っている血の跡を駆け足で追って行く。上手くいけば奴らの拠点まで導いてくれるはず――だったのだが……
「マズイぞギルマス、血の跡が完全に途絶えてやがる!」
「なんてこった……」
冒険者の悲痛な叫びに天を仰ぐギルマス。手分けをした捜索はオークの群を相手にするには危険過ぎる。その時、何か方法はないかと言いたげなギルマスと俺の目がバッチリと合った。
「バースト、オークがどこに向かったか特定してくれ」
「そこで俺に振るの?」
「このために連れて来たんだよ。何か有るだろ? 魔法でちゃちゃっと、な?」
まるで便利屋みたいな扱いだな。まぁ頼られるのも悪い気分じゃないが。
しかし魔物を追跡する方法? 魔物だけを感知する魔法とか――いや、それだと別の魔物と混同する可能性もある。確実に冒険者を拐った奴らを特定するには……そうだ、1つだけある!
「これならどうだ、ルミノーラ!」
シュィィィィィィン!
今俺の目には地面の所々に白いモヤモヤが点々としているのが見える。そう、血痕だ。この魔法は僅かな血の痕すら浮かび上がらせることが出来るんだ。
「見えたぞ、こっちだ!」
「何か痕跡を見つけたんだな? よし、全員バーストに続け!」
本来の使い方は流血沙汰になった場所をクリーニングするための魔法なんだけどな。特に貴族の邸とかだとよく使われる。俺の邸でも使われてるから馴染みの魔法だな。
「見つけたぞ、あそこだ」
5メートルくらいの崖。その麓にポッカリと空いた洞穴があり、2体のオークが門番のように武器を構えて封鎖している。
「帝都からそう遠くはないな。被害が広がる前に殲滅しちまおう」
「いいねぇオッサン、今夜のディナーは豚の丸焼きってな」
「未成年にしちゃ頼もしいことを言うじゃないか。その口振りからしてオークの集団を相手に勝てる算段があるってことだな?」
「もちろんさ」
袋叩きにならない限り負ける要素はないしな。オッサンに背中を任せておけば大丈夫だろ。
「よし、何か大きな物音を立てて、侵入者が現れたと気付かせるんだ」
「え? 敢えて気付かせるのか?」
「おぅよ。侵入者となれば連れ去った冒険者を相手にしてる隙はないだろ?」
なるほど。そういうことならド派手にやったろうじゃないか。
「フレイムキャノン!」
ドゴ~~~ン!
炎の砲弾がオーク共を巻き込んで崖に着弾。揺れるほどの振動もあったし中のオークも慌ててるだろ。
いや、それどころか後ろのパーティが慌て出した。
「マジかよコイツ、強力な火魔法を!」
「ファイヤーボールの上位変換!? それを躊躇なく放てるなんて!」
「ボ、ボクはようやくファイヤーボールを撃てるようになったのに、こんな少年が……」
ああ、すみませんね。好きでこんな体質になったわけじゃないんで。
……いや、嘘です。親族と比較されて劣等感が高まってたんで、渡りに船でした。
「ギルドに現れた時からスゲェ魔力を感じ取ってたが改めて思う、スゲェなお前……」
「そんなことより突入しようぜ、時間が勿体ない。行かないなら先に行くぞ」
「誰も行かないとは言ってないだろ。おいお前ら、全員突撃ぃ!」
――と言ったはいいが、ビビりなオークが罠を設置しないわけがない。
シュ――――トスッ!
「っと危ねぇ! トロトロしてたら矢を食らってたところだぜ」
「大丈夫かギルマス?」
「ああ。だがこれだと慎重にならざるを得ないよな。何か対処法は……」
ま~た俺の方を見る。そんなに都合の良い魔法が有るわけない――と言えないのが悲しいところ。まぁ有るんだよ、魔法が使えるようになったら真っ先にマスターしとこうと思った魔法がな。
「トラップトラック!」
シュィィィィィィン!
目に見える範囲のトラップを判別出来る魔法だ。トラップの発動範囲と連動しているトラップまで白く点滅して教えてくれる。アイリのトラップ対策には必須だったから大変重宝しているぞ。
「俺が先頭で進むから、俺の踏んだ地面だけを使うんだ」
「それでトラップを避けられるんだな。全員、バーストの足元に注目するんだ。見逃したらトラップの餌食になると思え!」
そこからは簡単だった。何せ罠を避けて進むだけ。時おり待ち伏せるオークもいることはいるが……
「ピギィピギィ!」
「おっと、新鮮な豚肉発見! ――アイスロォォォック!」
バスゥ!
「ピギ――」
氷の塊に触れたオークが直立不動のまま前のめりに倒れ込む。魔法の抵抗力が低いとこの通り氷漬けになるのさ。オークは打撃に強い反面、魔法には弱いからな。一時間くらいはあのままだろう。
「1つ気になったんだが、なんでわざわざ氷漬けにする? 燃やしちまえば邪魔にならないだろ」
「前にそれやって討伐証明が出来なかったんだよ。骨を見せたけどダメだった」
「んん? バーストお前、冒険者になる前に討伐依頼を受けたのか?」
「依頼というか……」
アイリが先走ったんだよなぁ。依頼を受けたわけじゃないからギルドからは不審な目で見られるし、他の冒険者にも笑われるしで踏んだり蹴ったりだった。
あ~思い出しても腹が立つ。今度腹いせにギルドの中にトラップでも仕掛けてやろうか? うん、それがいい。これは帰ってからアイリと相談することにしよう。アイツならきっと素晴らしい復讐劇を考案してくれるに違いない。
「ふむ、何か事情が有りそうだな」
「まぁね。オークの件が片付いたら話すよ」
「お前、フラグに成らないだろうな」
フラグにするつもりはないが、連れ去られた冒険者は分からない。最悪の場合も考えられるし集中集中っと。
「あれ? トラップが無い代わりに複数の脇道があるぞ」
「恐らく居住区だ。生活スペースにはトラップを置かない習性がある」
「プギィプギィ!」
「プギギギギ!」
おっと、団体様のお出迎えだ。中央の通路を塞ぐように展開している。
「ギルマス!」
「ああ、あの奥だな。全員で蹴散らすぞ!」
「「「おおっ!」」」
トラップがなくなったことで余裕が出たのか、他のパーティも俄然やる気だ。
「「「ピギピギィ!」」」
ん? オークが逃げて行く?
「よく分からんが後を追うぞ」
出てきたと思ったらすぐに退却を始めやがった。予想以上の手勢にビビったか?
ザザザザザザッ!
「ピギィッヒッヒッヒッ!」
「「「ピギピギィ!」」」
新手が後ろからも!
「チッ、どうやら釣られちまったようだ。おいお前ら、後ろは頼むぞ!」
「任せてくれ」
「坊や1人に見せ場は作らせないさ!」
広くない通路が幸いし、他のパーティだけで背後は対処出来そうだ。
「なら正面をどうにかすりゃOKと」
「おう、派手にやってくれや!」
「いや、オッサンも働けよ――」
「――ブリザロォォォック!」
アイスロックの上位魔法で広範囲に広げたやつだ。オークの固まりが瞬時に凍り付いていく。
「楽勝かよ。今まで冒険者じゃなかったのが不思議なくらいだ」
「過去の俺を見てみな、飛ぶぞ(←俺への期待がな)」
さて、後は後ろだが、正面が早々にご退場となったことで追い詰められたのはオークの側なわけで……
「ピギピギピギィィィ!」
「ピギギギィィィ!」
「オークが散り散りになっていく?」
「ああ、あの坊やのお陰さ」
「仲間のあんな姿を見たんじゃ勝ち目は無いと悟ったんだろ」
呆気なく包囲は解かれた……と。
「よぉし、この先にボスがいるはずだ、気合い入れて行くぞぉ!」
「「「おおっ!」」」
ここまで圧倒してたら負ける気なんてしないわけで、ギルマスも冒険者の皆さんも気合い充分と。後は連れ去られた連中が生きている事を祈ろうか。
「プギァァァァァァ!」
ダンダンダンダンダァァァン!
「む? ボスの叫び声か。地団駄を踏んでやがるなぁ。手下の醜態に大変お怒りのようだぜ」
「オッサン、オークの言葉が分かるんか?」
「経験則でな、現状と相手の心理状況を考えれば答えは出る。ま、場違いな事を言ってる個体もいるだろうし、完璧じゃないがな」
ふ~ん? 魔物の言葉が分かる……か。便利そうだし解読出来る魔法でも探してみるか。
「それより見ろよ、ボスとご対面だぜ」
開けた場所で待ち構えていたのは、デッカイ斧を担いだ全長3メートル近くはある大型のオークが。ソイツの前には重武装のオークが横並びに整列しており、まるで規律の整った軍隊のように整然としていた。
「あのデカイのがボスか。オークキングを見るのは初めてだな」
「いや、アレりゃオークキングじゃない、オークの亜種――タケシだ」
「タケシ?」
「あのオレンジとホワイトの縞々なシャツにダークブルーのズボンが特徴だ」
マンティコアに続いてオークでも亜種か。しかも衣装が固定されてるとか、随分とユニークな魔物だな。
「ギルマスあそこだ、奴らの後ろに鉄格子の檻が!」
「何っ!? アレは!」
そして連れ去られた冒険者が檻に入れられてるのを発見。どうやら間に合ったみたいだ。
「み、見ろ、助けが来たぞ!」
「助かった、早くコイツらを倒して!」
「分かってる。そこで待ってろ!」
先陣を切ったのはギルマスで、手前の重武装オークに向かって斬りかかっていく。
「オルァァァ!」
「ブギィィィ!?」
「セイヤァァァ!」
「ブギャァァァ!?」
「ど根性ぉぉぉぉぉぉ!」
「ビギィィィ……」
ゴツい見た目とは裏腹に軽やかな動きでオークを圧倒。次々と斬り伏せていく。
「ギルマスに続くぜ!」
「「おぅ!」」
他の冒険者も負けてはいない。列からはみ出たオークを取り囲み、確実に仕留めていく。そうなると面白くないと思う輩も出てくるわけだが。
それは誰だって? そりゃもちろん……
「ブゥゥゥギィィィィィィ!」
「唸ってるなぁ、ギルマスの代わりに解読してやるよ。「不甲斐ない手下で申し訳ありません」こうだろ?」
「ブギィィィ!? ブギブギブギャァァァァァァ!」
うん、どうやら大正解だったらしい。
「プギュゥゥゥゥゥゥ……」
「ん? 急に小難しい顔をしてどうした? 悔し過ぎて自己嫌悪か?」
「バースト気を付けろ、それは特殊技の前兆だ!」
「特殊技!?」
「耳を塞げ、超音波がくるぞ!」
そうギルマスが警告した直後!
「プ~ギャ~ギャプギャギャ~、ブ~ギャギャ~ギャ~ギャ~♪」
「ぐぉぉぉ!?」
な、なんだこの歌声! しかもスッゲェ音痴で頭がクラクラする!
「ブギャォォォォォォ!」
「マズイ、バーストォォォ!?」
正面からタケシが突っ込んでくる。あんな巨大な斧で斬られたら一貫の終わりだ。一旦は防御に徹しないと!
「ア、アイスバリケード!」
バギィィィィィィィィィィィィ!
シールドにヒビが入るも何とか凌いだ。
「プギィ? プギャギャァァァ!」
もう一撃と言わんばかりに再度タケシが斧を振り上げる。だが残念だったな、超音波の効果は薄れてきたぜ!
「お返しだ、バリケードラッシュ!」
バチィィィン!
「プギャァ!?」
アイスバリケードをそのままぶつける魔法だ。身体も凍ってまともに動けないだろ?
「これでトドメだ、ブリザードジャベリン!」
ザクッ――ザクザクザクザクッ!
「プ、プギャァァァ……」
無数の氷の矢に射貫かれ、タケシは絶命した。
「ハハッ、恐れ入ったぜバースト、オークとはいえ亜種を一撃とはな」
「お陰で耳鳴りが酷いけどな」
「傷は男の勲章って言うぜ? 五体満足で終えたんだ、そんくらい屁でもねぇだろ。ま、労いとして今夜は豚肉のステーキを奢ってやるよ」
「それは遠慮する……」
なにせ冷凍保存したオークが大量だからな。しばらくは豚肉を見たくない……。
モンスターの紹介
名前:マンティコア
種族:動物タイプ
備考:獅子の胴体に人の頭部が付いたモンスター。同種では翼が生えたタイプも確認されている。どのように誕生したかは一切不明で、獅子の突然変異という見方が一般的。研究者の中には魔物と人を融合させた合成獣だと唱える者もおり、現在も謎が多い存在である。
名前:ジャンピングラット
種族:動物タイプ
備考:手のひらサイズから犬と同等な大きさまでが確認されている焦げ茶色のネズミ。人の生活圏での生存競争に敗れ、湿った地下へと逃げ込んだ一部が魔物化した姿。脚力は有るがただそれだけで、噛みつく以外の攻撃手段を持たないため、脅威度の低い下級モンスターと認定。だが集団になると危険なため、ゴブリンと同等くらいには警戒されている。
名前:オーク
種族:動物タイプ
備考:魔物化した二足歩行の出来る豚で、ゴブリンと同様に人を襲った戦利品で武装したりする。見かけに依らずビビりな性格で、単独で襲ってくることは殆どない。しかし襲われたオークは大声で発狂し、仲間を呼び寄せたりするので厄介とも言える。普通の豚と同じ味なため、食料に困った野盗や傭兵に狩られる事も多い哀れな魔物。
名前:タケシ
種族:動物タイプ
備考:オークの亜種で普通のオークより2、3倍の体格を持つ。オレンジとホワイトの縞々シャツにダークブルーのズボンというのが特徴なため、見た目での判別が容易。タケシが率いるオークの集団は狂暴性が増し、積極的に人や動物を襲うようになる。固有スキルである超音波は周囲にいる生命体の聴覚を破壊しかねない威力を持つため、事前に対策しないと思わぬ痛手を受けるかもしれない。




