垂れ流す者!
大半の街には存在する冒険者ギルド。当然ながら帝都にも存在し、北支部と南支部、そしてメインとなる東本部の三つから成り立っている。
跳び鼠の出現場所が帝都の北側とあって、北支部へと報告しにやって来たのだが……
「さっきから言ってるじゃない、これはマンティコアの骨なんだって!」
「そう申されましても、骨だけを見て判断がつくかと言われると……」
「だ~か~ら~、貴族のあたしが見たんだから間違いないの! アンタただの職員なくせに喧嘩売ってんの!?」(←喧嘩売ってるのはどう見てもお前)
「いえ、そういうわけでは……」
……とまぁさっきからこの調子だ。ネズミの洞穴にマンティコアが居たから証拠として提示したものの、受付嬢は何とも言えない複雑な表情。
そりゃな、帝都の近くにマンティコアが出たとあらば大事だ。普通なら居るはずがないんだ。俺だっていまだに信じられないんだから、聞いただけの受付嬢なら尚更だろう。
「おい聞いたか? マンティコアだってよ」
「ククッ、聞いた聞いた。こんなところに出るわけないっての」
「居るのよね~、大袈裟に盛って注目を浴びようとする奴って。さすが貴族様のお遊びはスケールが大きいわ」
「「「ハハハハハ!」」」
そりゃ他の冒険者から見りゃいい笑い者だよなぁ。
「このぉ、平民のくせに――」
「おいやめろ」
冒険者にまで絡みに行こうとしたアイリを止めようとしたその時……
「あらあら、貴族たるもの騒々しく振る舞うものではありませんわ」
意外な声に俺たち全員が固まる。優雅に一礼して現れたのは俺たちの知っている顔……
「フ、フレデリカ姉様?」
「フレ姉さん、どうしてここに?」
「どうしてって、最初から最後まで見ていた――としか言いようがありませんわね」
最初から? つまり洞穴に向かった時から尾行されてたのか。ぜ~んぜん気付かなかったぜ。
「コホン。皆々様、愚妹がご迷惑をお掛けし、大変申し訳ありませんでした。受付の貴女も災難でしたね」
「い、いえ……」
「さ、帰りますわよ貴方たち」
ギルドを出る際にもう一度一礼をし、踵を返して立ち去るフレ姉。多少は不満げなアイリも姉たちには頭が上がらないためか大人しくついて行き、俺とルドラスは互いに苦笑いをしつつ後に続く。
そして我が邸に帰宅後。父上と長男のグラスフォード兄さんを抜いた家族全員が応接室に集められた。
「全員揃ったね? じゃあ家族会議を始めるよ。議題はもちろん、バーストたちが遭遇したマンティコアについてだ」
既にフレ姉さんから伝わっていたんだろうな。母ちゃんがいつになく真剣な表情で切り出していく。
「断言するが、ありゃ自然発生したモンスターじゃない。何者かの手によって産み出されたもんさ」
つ、造られたってことか!?
何も喋らないでいると、アド兄が後を引き継ぐ。
「正確には魔物と人が混ざり合った、その成れの果てといったところか。顔の部分はゾンビのようだったそうだな? 恐らくは人間、或いは獣人を用いた人体実験が行われ、その過程で生気を失ったのだろう」
「うへぇ……」
想像したら気持ち悪くなってきた。
「裏で貴族や皇族が関わってるのは間違いない。今後はあの洞穴に近付くもの禁止、マンティコアの話題を出すのも禁止だ。うちの家に妙な疑いが掛かっちゃたまらないからね。分かったかい?」
母ちゃんの締めの台詞にアイリ以外の全員が頷く。モヤモヤする終わり方だが仕方ないか。
「じゃあ解散。ダーリンには私から伝えとくから」
「ちょっとお母様、まだ話は――」
「はいはい、終わり終わり」
納得がいかないのか、話の後もアイリは執拗に食い下がるも話は終わりだと一蹴。ふてくされて部屋に戻っていった。
★★★★★
とまぁ反論はしなかったものの、俺とて全てに納得したわけじゃない。アイリの台詞じゃないが、この中途半端さは何とかならないものかと唸りつつ、腕組みをしながら邸中を練り歩く。
「う~ん……」
「あら、バースト坊ちゃま。もうすぐ昼食ですが、お待ちに――って、行ってしまわれたわ。……あら?」
この時、灯りとして通路に備え付けられているマジックアイテムが点灯している事にメイドは気付く。しかしこのアイテム、誰かが直接手に触れて魔力を流さない限り点灯することはない。あるとすれば、余程の魔力が充満しているという事だが……。
「昼間なのに灯りがついている? 消し忘れかしら……って、あらやだ、坊っちゃまが通った後に全ての灯りが点灯してるじゃない。誤作動……かしら?」
首を傾げながらも灯りを消していくメイド。しかし不可思議な現象はここだけではなく……
「う~ん……」
「あら、バースト坊ちゃまご機嫌麗しゅうザ~マス」
「麗しゅう御座います、坊っちゃま」
おっと、無意識に歩いてたら食堂に来てしまった。邪魔しちゃ悪いし他に行こう。
「ちょっとア~タ、手を止めては駄目ザマス。定期的に指で確認するザマスよ」
「す、すみません! でも沸騰していたら危なくないですか?」
「ノンノンザ~マス。いくらマジックアイテムとはいえ大量の魔力を流し込まない限り急に沸騰したりは――」
「――ジュワッチィ!」
「ウルト○マン!?」
更に別の場所では……
「う~ん……」
「おお、これはこれはバースト様。訓練部屋にお越しとは」
「見学ですか? つまらないと思いますが好きなだけ見てってください」
今度は警備兵たちの訓練部屋に来てしまった。長居しちゃ悪いしチラッとだけ見て退散しよう。
「ありゃ、模擬戦人形が動かなくなっちまった」
「なんだ魔力切れか? 俺が魔力を注入してやんよ。こう見えても簡易的な魔法なら使えるからな」
「すまんな――っておい、そんな正面に立ってちゃ危ないぞ?」
「ハハッ、心配すんなよ。余程の魔力が充満してない限り急に動いたりは――」
「――メッセヨ!」ブンブンブンブン!
「アダダダダダ!? なんで急に!」
「ほら言わんこっちゃない」
んん? あの模擬戦人形、魔力の補充に10分は掛かってたはず。まさか本当に大量の魔力が大気中に? だとしたら……
「……ハッ!?」
ふと自分の両手を見て気付いた。掌から黒煙のようなものが吹き出していることに。
つまりだ、通路の灯りが勝手に点いたり、模擬戦人形が即座に動き出したり、食堂でメイド長さんがウルト○マンになったりしたのは全て俺が原因!?
「すみませんねバースト様、お見苦しいところをお見せしちゃって」
「あ、ああいや、大変そう……だね、ハハ、ハハハハ……ん?」
テキトーに誤魔化しつつその場を離れると同時に、今まで悩ませていた謎のマンティコアと垂れ流し放題の魔力。この2つが脳裏でグルグルと駆け回り、やがて完全に噛み合ってしまった。
「そうだよ、貴族という立場で関わるのは危険だけど、身分を隠した上で冒険者として関わればいいんだ!」
幸いにして俺には無限大の魔力っていう最大級の武器がある。偶然関わったフリをして真相を突き止めてやるぜ!
★★★★★
さぁさぁ、やって来たのは冒険者ギルドの南支部。身分を隠すため敢えて質素な服を調達した上で来てやったぞ。遠かったからわざわざ馬車を掴まえてな。服より馬車代の方が高かったのが何気に衝撃だったが、そのくらいで驚いてちゃいられない。いざ突入!
ギィィ!
「あらいらっしゃい、可愛いお客様」
「ど、どうも」
「何か依頼かしら? それならあちらで受付出来るわよ」
近くのギルド職員に促され、カウンターへと移動。そこで待機していた受付嬢に愛想良く迎えられた。
「いらっしゃいませ~。ご用件をお伺いしますね~」
猫耳がピコピコと動く可愛い姉ちゃんやんけ。邸のメイドに獣人は少ないし、是非ともうちに――って違う違う。
「ええっと……コホン。冒険者の登録をお願いしたくて」
「あら~、まだ若いのに冒険者に? 家計を支えようと必死なのね~。ウチにも弟が居るけども~、毎日お酒を飲んでろくに働きやしないのよ~。おまけに暴力まで振るってくるし~」
それ、家から叩き出した方がいいんじゃね? 俺の母ちゃんなら正座させた上で竹刀でシバき倒してるだろうな。
「どうせならキミのような働き者を弟に欲しかったな~」
「いえ、働くと言っても今日からなんで。弟の代わりには成れませんけど、弟分みたいに扱ってくれると嬉しいかな~なんて」
「ホントに~? じゃあ今日から義理の弟ってことでよろ~。ウチのことはハレーお姉様って呼んでくれれば~――」
「いやいや、ハレー姉ちゃんと呼ばせていただきます。ちなみに俺はバーストです」
「や~ね~、半分は冗談よ~。でもハレー姉ちゃんはグッドかも~」
半分は本気かよ!
「じゃあ今手続きしたゃうね~。――んんしょっと。この壺に手を入れてみ~」
この怪しげな壺は手を入れた者の情報を正確に読み取り、カードへと書き移すことが出来るのだとか。つまりは偽造防止に最適らしいのだが……
パリン!
「あ……」
「う~ん、壺が割れちゃいましたね~。こんな事は初めてです~」
なんだか縁起が悪いなぁ。
「でも安心して~。別の壺もあるからそれで~」
「あ~待て待て、ソレでやったらまた割れちまう。こっちの特注のを使え」
「え?」
気付かなかったが、いつの間にかスキンヘッドのオッサンがすぐ近くに立っており、さっきとは違う黒々とした頑丈そうな壺を差し出してきた。
「あら~、ギルドマスターいつの間に~」
「ギルマス? このオッサンが!?」
「オッサンじゃねぇ、バルドスって名前があんだ。それにこう見えても35歳だ」
俺から見たら充分オッサンです。
「それよりお前さん、バーストといったか? 随分とまぁド派手な魔力を垂れ流してやがるなぁ」
「分かるんですか?」
「おぅよ。さっき割れたあの壺な、魔力のキャパが超えると耐えられなくて砕けちまうのよ。普通なら有り得ないんだぜ? それこそ魔王やその幹部クラスじゃなきゃ……」
え、まさか俺、疑われてる!?
「お、俺は違うぞ? ちょっとした事故で魔力が身体から垂れ流しになる体質になっただけで、決して魔王とかじゃ――」
「ハハッ、分かってるって。こう見えても邪気を感じ取るのは得意でな、お前さんからはそれが無いし俺が保証してやるぜ」
「そりゃどうも。っていうか、魔王は何年も前に倒されたんじゃ?」
「ごもっとも。けどよぉ、別の輩が魔王を名乗ったりとかは有り得るからな。警戒するに越したことはねぇのさ」
そんなもんか。まぁ名乗るだけならタダだし、勇者を騙った詐欺師とかも居るらしいからなぁ。
「それよりほら、壺に手を入れてみな」
ギルマスに促されて壺に手を入れた。
「は~い、上手に出来ました~」
「「モン○ンかよ」」
受付嬢からギルドカードを手渡された。そこにはキッチリと正確に自分の名前が記されていて――あれ? でもこれって身分を偽った意味がないんじゃ……
バタン!
「た、大変ですギルマス、冒険者研修で新人のパーティがオークの襲撃を受けて連れ去られてしまいました!」
「んだとぉ!?」
ギルド職員とおぼしき若い男が慌てて駆け込んできた。その様子にロビーにいた冒険者たちがざわめき始める。
「チッ、共が調子に乗りやがって。急いで救出に向かう、手の空いてる冒険者は手を貸してくれ」
ギルマスの声に数組のパーティが立ち上がる。そして……
「バースト、お前も手伝ってくれ」
南支部での最初の仕事が舞い込んできた。
登場人物紹介
名前:古代竜
性別:女
年齢:?
種族:竜
備考:第2話でバーストの夢の中に出てくる古代竜。姿は見えないながらも声や喋り方から女性であると断定。目的は不明ながらもバーストの覚醒を手助けした。間接的ではあるがバーストに無秩序に垂れ流す魔力というチートを授けた張本人でもある。彼女によると、いずれは再会するであろうというある意味不吉な予言を残しているのだが……。
名前:ラインハルト:J:キルロード
性別:男
年齢:54歳
種族:人間
備考:バーストの父親にしてキルロード家の当主。現在はランタール帝国の男爵の地位。本家キルロード家は血統を重んじるため、平民であるルイザとの結婚に猛反対された結果、本家から勘当に近い扱いを受けた。しかし辛うじて縁は保たれているため、キルロード家の子――ジュニアの意味を込めてラインハルトとキルロードの間にJを入れている。武に優れた子供たちを誇らしく思っているが、バーストだけは才に恵まれなかったため溺愛するようになった。
名前:グラスフォード:J:キルロード
性別:男
年齢:23歳
種族:人間
備考:バーストの10歳上の兄でキルロード家の長男。遠征で家に居ないことが多いが、遠く離れた地でも末子のバーストを案じている。ランタール帝国の専属勇者となるべく勇者候補生として日々奮闘しており、各地で依頼をこなしつつ名声を高めている。キルロード家では唯一の魔法の才があり、剣と魔法を組み合わせた戦闘スタイルは圧巻。いずれはドラゴンスレイヤーに成れるやもと噂されている。




