目覚め
『お~い、お主』
んん……誰かが俺を……呼んでる?
『これ、無視するでない。お主じゃお主、そこの人間男子』
姿は見えない。けれどどこからか声が聴こえる。
『ええぃ、返事くらいせんかこの小童め! 目上の者を相手に失礼じゃろうが!』
あれ? もしかしなくても俺が呼ばれてる……のか?
「はいはい、え~と……おはよう御座います?」
『何故に疑問系なのじゃ。それに今はもう夕方ぞ。おはようと言うにはちと遅すぎではあるな』
「ゆ、夕方!?」バッ!
「あ、あれ、辺りが真っ暗!」
慌ててベッドから飛び起きるも真っ暗で何も見えない。暗いってレベルじゃない、何もかもが存在しないかのようだ。そもそもベッドと思っていたものすら既に無く、寝ていたのかすら分からない。
「いったいこれは……」
『ふむ、少々驚かせてしまったようじゃが時間が限られとるでな。かいつまんで説明すると、お主は古代竜の血を飲んで気絶しており、目覚めを待っとる状態にある』
「エイシェント……ドラゴン?」
『そうじゃ。して妾こそがその古代竜――アンジェリナであ~る!』
「…………」
『……さてはお主、信じとらんな?』
「はい」
『はいじゃないが。お主にはこの美しくも光沢のある漆黒のボディが目に入らんと言うのか!』
「だって見えないし」
『あ……』
目に見えないなら何とでも言えるしな。有名な昔話で裸の女王様ってのがあって、商人に唆された女王様が部下たちに――って、これ違う。父上の書斎に有ったエロ本だったわ。まぁそんな話は置いといて。
「結局アンタは何者なんだ?」
『だ~か~ら、古代竜だと言っておろうが! 目に見えんのは当たり前、お主は気絶しとるんじゃからな!』
「お、おう……」
『してお主の身体には妾の血が溶け込んでおる。これ即ち古代竜の力の一部がお主に宿ったことを意味するのじゃ!』
「スゲェ!」
もしかして――いや、もしかしなくてもあの薬瓶の中身。アレが古代竜の血液だったって事だ。
そして俺自身にも竜の力が!
『喜んどるところをすまんがの、力と言ってもほんの一部じゃ。まだ幼いお主の身体では物理的な能力を高めるのは困難であったようじゃし、大幅に上昇したのは魔力のみ――と言ったところか』
「そんな!?」
せっかく非力扱いを受けなくて済むと思ったのに!
「はぁ……」
『落胆するでない。代わりと言ってはなんじゃが、生涯で人間が保有できる量を遥かに上回る魔力をお主は獲た』
「魔力!」
『そう、魔力じゃ。身体能力が並以下のお主には有難い変化じゃろ?』
「も、もちろん! 魔力ってことは魔法を使えるんだよね!?」
『左様。ついでに口から火を吹くことだって――』
「いや、それはいらない」
『そうか? 男らしくてカッコいいと思うんじゃが……』
カッコいいとかいう問題じゃない。下手したら人間扱いされなくなっちまう。
ん? 待てよ?
「あの~、もしかしてドラゴンのブレスって魔法だったりする?」
『はぁ? 何を当たり前なことを』
「マジか! てっきり腹の底からマグマみたいに吐き出してるのかと思った」
『あんなものを腹から出しとったら舌が消し飛ぶじゃろうが。常識的に考えよ』
非常識な存在に常識を求められてしまった。が、そんな非常識な存在だからこそ魔法には期待できる。
「じゃあさっそく教えてください。出来れば便利な魔法を」
『よかろう。まずは1つ確認なのじゃが、お主は五大属性を知っておるか?』
「もちろん」
魔法にはそれぞれ属性があり、地水火風に加えて無属性の無というものもある。これら五つを五大属性と呼ばれているんだ。殆どの魔法士は学校での適性テストを経てどの属性を会得するかを選択するんだとか。当然複数を選択するのも可能だけれど器用貧乏になったりするし、大多数は1つの属性を極める方向に進むらしい。
『ならば話は早い。お主は全ての属性に対して適性を獲た。ただ念じるだけで思うがままの魔法が放てるであろう』
「へぇ~~~え」
「へ? 全ての……魔法?」
『左様。手から氷の刃を放てたりするし、足元に転がっている石を対象へと飛ばすことも出来よう。無論、口から火を吹くことだって――』
「それはいいってば」
なら試してみよう。
「ウィンドカッター!」
シャッ!
「うぉ!? マジだ! 暗くて手元しか見えないけど、風の刃が暗闇に向かって消えてったぞ!」
『うむ、上出来じゃな。初めてでありながらもしっかりと発動しとるし、何も心配いらんじゃろう』
古代竜からのお墨付きを獲たらしい。
『後は口から火を吹ければ完璧なのじゃがなぁ』
「だからいいって! どんだけ火を吹かせたいねん!」
『むぅ、そこまで拒むこともあるまい。竜ならば迫力のあるブレスをかましてこそ一人前と言えるのじゃ。年頃の竜ならそれはもうモテモテでウハウハじゃぞ?』
「結構ッス。自分、竜じゃないんで」
『むぅ、残念じゃのう』
竜にモテても意味ないんだよなぁ。
『さて、名残惜しいが時間が迫ってきた。そろそろ妾の残留思念が消える頃合いじゃ』
「残留思念? よく分かんないけど消えちゃうん?」
『左様。妾の血が完全にお主へと溶け込むのと同時に残された妾の思念も消滅する。その時お主は絶大なる魔力を持って覚醒するであろう』
「そう……なのか」
『なんじゃ、妾を哀れんでくれるのか? 小童にしてはうい奴よ』
「いや、脳内に残ってくれてたら便利かな~って」
『妾は便利屋ではない! ったく……、最後まで失礼な奴め。じゃが脳内にとはいかなくとも別の形で再会する可能性は有るかもしれんな』
別の形?
「それってどういう――」
『ではさらばじゃ。せいぜい有効に活用することじゃな』
ガバッ!
「――っておい、まだ聞きたい事が!」
「あっ!」
勢いよく上体を起こした俺は、傍らに座っていたルドラスと目が合った。
「ルドラス?」
「バ、バースト、目が覚めたんだね! 死んじゃうんじゃないかと思ったよ! 待ってて、すぐ皆に知らせてくるから!」
部屋から飛び出して行くルドラスをポカーンとした顔で見送る。が、すぐにハッとなって周りを見渡す。
「俺の部屋……か」
どうやら夢から覚めたらしいが……
「やけにリアルな夢だった、夢とは思えないくらいに」
それにもしも古代竜の件が本当なら俺にも魔法が使えるということに。
「…………」
いやね、夢だと分かってるよ? 宝物庫に有った薬瓶の中身も腐った果実水だろうと見当がつく。でもだよ、万が一ってことも有るだろうし、ここは1つ、初歩的な攻撃魔法――ファイヤーボールで試してみようじゃないか。
「目標は天井。ちょうど真上を貫くようイメージして……」
「ファイヤ――を、をををを!?」
手のひらに拳大の火の球が現れたぞ! やっぱりあの夢は本物だったんだ!
いや落ち着け、魔法を放つまでは成功とは言えない。最後まで気を抜かずに……
「ボール!」
ドゴォ!
「おおおっ!? 発動した、火の球が天井を貫いってったぞ!」
これではっきりした。あの夢は本物で、俺は古代竜の魔力を手に入れたのだと。
だが問題は残っている。
「どうすっかな、この天井……」
天を仰ぐかのように穴の空いた天井を見上げる俺。後先考えずにブッ放した結界がコレである。数分前の自分に言ってやりたい。他にする事がないのですかと。強いて言えば火が燃え移らなかったのが幸いかな。
「けどやっちまったもんはしゃ~ない。皆が来る前に修繕に役立つ魔法を――」
ドタドタドタドタ――バタァン!
「我が息子よぉぉぉ! 無事であったかぁぁぁぁぁぁ!」ガシィ!
「ぬおっ!?」
「怪しげな薬で気絶したと聞いた時は生きた心地がしなかったぞぉぉぉ!?」
「わ、分かった、分かったから父上――」
「ぬおぉぉぉぉぉぉ、ワシは今モ~レツに感動しておるぅぅぅぅぅぅ!」
「だぁぁぁ苦しい、苦しいっての!」
今さらだが父上はいつもこうである。末っ子で非力過ぎる存在だからか、俺に対しては必要以上に過保護なのだ。
「はぁ、そのくらいにしときなダーリン。バーストが苦しがってるだろ」
「ぬぉ? これはすまんかった」
ナイス母ちゃん。暴走した父上を止めるのは母ちゃんが適任だ。
「バーストォ! 心配させやがってこのやろう!」
「まったくだ。人騒がせにもほどがある」
「グレ兄ちゃん、それにアド兄さんもすまん……」
兄たちも駆け付けてきた。実際死んだと思ったし、今後奇妙な薬には手を出さないでおこう(←当たり前です)。
「ん? おやおや、天井が空いてるじゃないか」
「あっ!」
やべっ、イル姉さんが天井に気付いた。何とか誤魔化さなきゃ。
「あ、あ~と、え~、それはね……」
「あらあら、これは一大事ですわ。総員、戦闘準備を」
「へっ?」
フレ姉さんの一言でこの場の全員が武器を構える。
「フレ姉さん、それに皆も、いったいどうしたって――」
「どうしたもこうしたもないよ。こりゃアンタ、侵入者の仕業じゃないか!」
「はぃ~~~い!?」
思いもしなかった母ちゃんの台詞に皆して頷く。いやいや、話が大きく成りすぎだっての!
「チッ、まさかあたしのトラップを掻い潜る奴が居るなんて。絶対に捕まえてやるんだから!」
「まぁまぁ落ち着いて。状況から察するに、天井からバーストを襲おうとしたもののそれに失敗。私たちに怖じ気付いて逃走したといったところでしょう」
「ですがラミエル姉様、このまま野放しは危険です。アイリの言う通り、絶対に捕まえる必要が」
「まぁまぁ、ルドラスも落ち着きなさい。この邸に侵入した時点でその輩の運命は決まったも同然。特にバーストを狙ったという事実は大変許しがたい。ですよねお父様?」
「うむ。武家である我がキルロード家に侵入とは命知らずな輩よ。皆で手分けをし、必ずや引っ捕らえて見せようぞ。総員散開ぃぃぃ!」
「「「おおっ!」」」
おおっ、じゃないって! 話がどんどんデカくなってるっての!
「み、みんな落ち着いて! あの穴は俺が空けたやつで侵入者とかじゃないんだ! だから……」
「「「…………」」」
「し、侵入者を庇うとは、何と器の大きい息子か!」
「まったく、お人好しというか何というか」
「俺ならロングソードで真っ二つにしてるがな」
「バースト、犯罪者に情けは無用だよ?」
「いや、何でそうなる!」
みんな冷静さを欠いてるようだ。何とか話を聞かせなきゃ。
「あの穴を空けたのは俺、俺なんだって!」
「「「…………」」」
「まさかアンタ、薬の影響で幻覚でも見えてるんじゃないだろうね?」
「おやおや、それは大変に困った事態だよ」
「あらあら嫌ですわ。すぐにお医者様に診ていただかなくては」
「まぁまぁ。医者ならもうすぐ来ますのでご安心を」
「まさかトラップの副作用とかじゃないわよね?」
「だから違うっての!」
ダメだ、全然話を聞きやしねぇ。やっぱり直に見せるしかない!
「あ~もぅ、こ~やって空けたんだよ――ファイヤーボォォォル!」
グン!
「おあっ!?」
やべっ、怒りに身を任せてたらさっきよりも大きな火の球に!
ドゴォォォォォォン!
結論から言う。誤解は解けた。そして同時にメッチャ怒られた。天井をフッ飛ばした事じゃなくて、無茶な魔法の使い方をしたからだ。
だが後悔はしていない。これで過保護な扱いは無くなるだろうし、魔法という大きな武器を手に入れたからな。
しかし、家族以外はこの事実を知らないわけで、周囲からの目は相変わらず……。
登場人物紹介
名前:ルイザ:J:キルロード
性別:女
年齢:48歳
種族:人間
備考:ラインハルト男爵の妻でありバーストの母親。若くして傭兵団に加入して各地を転々としていた時、誘拐されたラインハルトの救出を本家のキルロード家から依頼され、見事救出したのが切っ掛けで結婚。それと同時に傭兵団を退団。料理は苦手なため給仕に任せきりだが、掃除洗濯は得意で率先して行っている。
名前:アドセルト:J:キルロード
性別:男
年齢:16歳
種族:人間
備考:バーストの3つ上の兄でキルロード家の三男。バーストはアド兄さんと呼んでいる。手先の器用さを生かした剣術に自信があり、将来は剣術道場を開きたいと考えている。密かにカッコ良く見せるため伊達メガネを使用。名のある剣術家の書記を好んで愛読している。
名前:グレイバム:J:キルロード
性別:男
年齢:17歳
種族:人間
備考:バーストの4つ上の兄でキルロード家の二男。バーストはグレ兄ちゃん、もしくはグレイ兄ちゃんと呼んでいる。母親似の豪快さと父親似の天然な部分を受け継いでしまった脳筋野郎で、大剣の使い手として冒険者ギルドでも活躍中。いずれは世界中を旅しながら冒険者として有名になりたいと思っている。




