チーム戦
「これでどうだ?」
「うむ、この爪なら戦える。礼を言うぞバースト」
満足げな表情で爪を眺めるヴォルト。ウィルを始め、クラスメイト全員の付与が完了したところだ。
軍資金? 俺が出したぞ。リスティも値引きしてくれたし、何より戦えるパーティじゃなきゃ意味がないからな。
もちろんパーティとは俺たち6人を指す。
「アニキ、学校に戻ってクラス対抗戦をやりましょうッス! 今ならどんなパーティにも負ける気がしないッスよ!」
「そりゃ結構なことだけどな、外のクラスはうちらと違って授業中だろ? 受けてくれるかどうか……」
「聞いてみなきゃ分からないッス!」
「お、おいおい、引っ張るなって――」
★★★★★
「これよりクラス対抗パーティ戦を行う。各チーム、互いに礼を」
「「「よろしくお願いしま~す!」」」
軽撃クラスの担任でもあるミレニア教頭が審判を勤める形で対抗戦が実現した。各クラスから6人が選出され、バトルロイヤル形式での戦いが繰り広げられることになる。
―って、なんで都合よく進むんだよ!
「ミレニア教頭、本当に良かったん?」
「バーストくん、何か問題でも?」
問題だらけです……。
「実のところね、直ぐにでも実戦をやらせろっていう生意気な生徒が多くて困っていたのだよ。挫折を知らないって言えば分かるかな? だからキミの魔法で思い知らせてやってほしい」
意外や意外、他クラスの先生からそんな言葉が出るとは思わなかった。
「はぁ……。で、誰から聞いたんです?」
「もちろんトーマス校長だよ。キミが保有する魔力は想像を絶するって評してたね。実戦だって何度もやっているんだろう?」
「そりゃまぁ。命に関わるやり取りを何度か」
「それもほぼ一方的に――だろ? C級B級の魔物相手じゃ負けるのを想像できないほどだって言うじゃないか」
「…………」
「……誰から聞いたんです?」
「こっちはラミエルからだね。彼女とは軍の教官を勤めていた時に知り合ったのだよ。将来が楽しみだと言っていたし、私も期待しているよ」
いったい何を期待されてんだか。
「アニキ~、始まるッスよ~!」
「ああ、分かってるよ」
ミレニア教頭との会話を切り上げ、チームの元へと戻った。
「位置についたか? では――」
ピーーーッ!
教頭の笛の音と共にバトルスタート。各々のクラスに固まってはいたが、他クラスの連中が一斉に振り返った先は……
「まずは魔法科を潰そうぜ。そうすりゃビリだけは免れる」
「へへ、賛成だ」
「決まりね」
予想はしていた。
「俺たち前衛が突っ込むから、援護は頼むぜ遊撃科!」
「任せな!」
数に任せて押し切るつもりか。
「ウィル、ヴォルト、正面から迎え撃つぞ」
「了解ッス!」
「承知!」
最初にぶつかったのは重撃科とウィルで、先手は相手からだ。
「たかが魔法科に俺の斧が防げるかよ、オルァァァァァァ!」
「う、承けて立つッス!」
ガン!
「グォア!? な、なんだ、今の衝撃は!」
相手の斧をウィルの剣が受け止めた瞬間に思わぬ反動を受け、重撃科の男は大きく弾かれ尻餅をつく。
「今だウィル!」
「了解ッス、反撃を食らえぇぇぇッス!」
わざわざ立ち止まってまで説明する義理はない。硬直する重撃科の相手目掛けてウィルが攻勢に出た。
ズダン!
「ゲッハァァァ!」
「「ヒィッ!?」」
尻餅をついた相手に回避できるはずもなく、他2人を巻き添えにしてウィルが振り下ろした剣の餌食に。何せ刃には火属性が付与されてるからな、正面の相手はともかく巻き込まれた2人は衝撃に加えて炎上による追加ダメージを負っての負傷退場だろう。
ちなみに初撃を弾いたのは地属性による重みによるものだ。
「重撃科3名脱落!」
「や、やった、一撃必殺ッス!」
一度に3人が退場した有り様に向こうの生徒たちは驚愕。呆然と立ち尽くすも、この隙を逃すまいとヴォルトが動く。
「呆けている場合か?」
「……ハッ!?」
「フン、ボディがガラ空きだぞ!」
シャッ!
「ウグゥ!?」
ヴォルトの爪が軽撃科の1人を襲い、難なく撃破。
「し、しまった!」
「クソォォォ!」
それを見た仲間がヴォルトに注意を向けるも……
「フン、今さら構えても――」
ズシャ!
「グフッ……」
「――遅い!」
続けて2人目も爪で引き裂き、ようやく体勢を立て直した前衛が数歩下がって身構える。
「軽撃科2名脱落!」
ここで仕切り直し――とは行かず、更なる混乱が彼らを襲う。
「ヤベェ、このままじゃビリ争いじやねぇか。こうなりゃ……おい!」
「ああ、手段は選らばねぇ!」
「一斉射撃だぁぁぁ!」
なんと、遊撃科の連中が意図的にフレンドリーファイア。一発だけなら誤射かもしれないで済んだところを、撃滅必須で弓とボーガンによる大雨を降らせた。
「おいバカ止めろ!」
「クソガ! よくも裏切りやがったな!?」
「こうなりゃアイツらを先に沈めてやる!」
「「「おおっ!」」」
というわけで、奴らの絆はあっさりと崩壊。軽撃科と重撃科は俺たちを無視する形で反転し、遊撃科の連中へと突っ込んで行く。
「来るぞ、射て射てぇぇぇ!」
「させるかぁぁぁ!」
距離さえ取れれば有利な射撃。だが至近距離まで詰められれば一気に不利に。
そんな両陣営の動きを遠くで眺める俺たち。流れ弾はリスティのバリアーが完璧に防いでくれたので、こちらの損害は無し。
「遊撃科4名、軽撃科3名、重撃科1名脱落!」
奇しくも魔法科以外のメンバーが1人ずつ残った状態に。遊撃科の生き残りは仲間を犠牲にしつつ遠くに逃れ、軽撃科と重撃科の2人は俺たち魔法科と遊撃科に挟まれる形に。
「こうなりゃ最後の手段だ、うぉりゃぁぁぁぁぁぁ!」
「ハッ、甘いぜウスノロぉぉぉ!」
「…………!」
ビリにはなりたくないという心理から、隣り合わせていた軽撃科と重撃科が互いに剣を振りかざす。残った1人を仕留めようと遊撃科の弓が狙いをつけたところで……
「ちょ~~~っと待ったぁぁぁ! あたしの出番を取るなぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、ファーナ!?」
活躍の場面が無いに等しいファーナが剣士2人に突撃をかます。まさかの行動に戸惑うも、動き出した彼らは止められない。その結果……
「ぐあぁ!?」
「っしゃぁぁぁ――へぐっ!?」
「フフン、ナイスヒット!」
「(よし、今なら……)……ガハッ!」
あっと言う間の出来事だった。気付けば乱入したファーナだけが立っていて、俺たち魔法科の完全勝利が決まったんだ。
「どうよ皆、あたしだってやる時ゃやるんだからね!」
ガッツポーズを見せる勇猛果敢なファーナは置いとくとして、何が起こったか順に説明しよう。
最初に倒れたのは重撃科の剣士で、軽装で動きの速い軽撃科の剣士の斬撃がヒットした形だ。次に倒れたのは軽撃科の剣士で、割って入ったファーナの飛び蹴りがクリーンヒットしたのが効いたらしい。最後に倒れたのは遊撃科の狙撃手で、密かに放たれたエリーのバンビーボールによりKO。これにて試合終了ってとこだ。
「軽撃科、重撃科、遊撃科の1名が脱落。よって本試合は魔法科の勝利と見なす!」
「「「ああ……」」」
観戦していた外野からタメ息が漏れる。ここまで圧倒されるとは思わなかったんだろうな。
「さすがだ、バースト・J・キルロード。聞いた噂では武家の息子でありながら戦闘の才が一切ないとのことだったが……、やはりラミエルの言う通りだった」
「え? でも今回活躍したのは俺の周りだけで……」
「彼らの装備品から強力な魔力を感じる。キミが施したのだろう?」
わ~ぉ、バレてますやん。
「その才を帝国を守護するために使ってくれるのだから有り難い」
「ん?」
「卒業後は軍への入隊が決まっているそうだが――」
「ちょちょちょちょちょーーーっ!」
おいおい、知らぬ間に進路が決まってるんですけどぉぉぉ!?
「なんだ、ケン○ロウの真似か?」
「いえ、それはどっちかってぇとアタタタタタ――ってそうじゃなくて、まだ軍に入るとか決まっちゃいませんって! どうせラミエル姉さんが言ったんでしょうけど、あの人ってば微妙~に外堀を埋めるのが上手くて腹黒い一面があるんです、騙されちゃいけません!」
「そうなのか? だとするとバルドスが言っていたように冒険者――」
「それも未定です!」
あのオッサンも何言ってくれてんだ!
「まぁいい。今回は生意気な連中の鼻っ柱をへし折ってもらうことが出来た。礼を言うぞバースト。――さ、試合は終わった、解散解散!」
教頭の一声でその場から解散。各自の教室へと戻された。いや、厳密には俺たち6人以外が戻されたようだ。
「で、ミレニア教頭、なんで俺たちは残されたんです?」
「そうッス、授業をサボってるのはトーマス校長だけで、俺たちは真面目にやってるッスよ」
「落ち着け。説教をするために残したのではない。それに校長は登城命令により校舎を離れたのだ、サボタージュではない。昔はサボり癖が酷かったが、最近は無くなりつつあるとの報告が上がっていてだな……」
「「「は?」」」
6人全員で顔を見合わせた。そして妙な引っ掛かりを感じ、全員で頷く。何故なら真実を伝えなくてはならないからだ。
「初日からサボりまくってるあの校長に限って最近は無くなってきてる? そんなはずはないね、なぁ?」
「はい、アニキの言う通りッス、今でも絶賛サボり放題ッスよ」
「アレが校長とか恥でしかないのん」
「ってか教頭からも言ってくれない? たまには真面目に授業しろって」
「楽を追及した結果がアレなのだろう。教頭が言ったところで変わるかどうか」
「……多分無理」
「……分かった。その件に関しては全力で調査しておく。貴重な情報をありがとう。ったく、あのクソボケ野郎……」
教頭の額に青筋が見える。次に校長に会った時、どうなってるか楽しみだな。
「ソレはソレとしてだ。キミたちを残したのはあのクソボケ――じゃなかった、トーマス校長とは別件だ」
「と言うと?」
「本件を話す前に……キミたちはクランというものを知っているか?」
「クラン? ああ、冒険者同士が集まるコミュニティの事ですね」
気が合う者同士が仲間として協力し合うチームみたいなやつだ。最近知ったマウンテンビートもその1つだな。
「その通り。最近複数のクランが我が校の生徒を勧誘しようという動きが活発化していてな、生徒同士の関係がギクシャクしているようなのだ」
勧誘するのは頷ける話だ。どのクランも戦力を確保したいと思ってるだろうしな。でもギクシャクするもんなのか?
「この程度で関係が悪化するのはおかしいと思うか? だが起こっているのだよ。それが原因でパーティ編成にも影響が出ている。2年や3年はすでに所属するクランが決まってる者が多いためか問題にはなっていない。だが1年生は違う。冒険者登録は済ませてもクラン未加入は当たり前だ」
事実俺も未加入だしな。
「それで、俺たちにどうしろと? もしかしていざこざを仲裁しろって話だったり?」
「まさか。キミたちがやったら余計に拗れるじゃないか。私が言いたいのは1つだけ。この先キミたちはいろんなクランから誘いを受けるだろう。勧誘方法も様々で、しつこく付け回す者や詐欺に近い方法で加入させる者だって居るだろうさ」
迷惑すぎる……。
「だからな、そうならないよう気を付けろってことだ」
「気を付けろって言っても相手から寄ってくるんでしょ?」
「そう。そこで1つ妙案があってな。お前たち――」
一呼吸置いて教頭は言う。
「――クランを立ち上げてみろ」
「「「はぁ!?」」」
6人全員揃って戸惑いを露にしたのはこれが初めてかもしれない。




