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魔力は垂れ流すもの!  作者: 南国ブラックベア
15/17

追い詰められたエドウィン

 ヴォルトを解放した夜のこと。どうにかしてエドウィン伯爵を追い詰めたい俺は父様に直談判を行った。しかし……


「どうにもならん。諦めなさい」

「そんな!」


 机に向かったまま振り向きもせずの却下だった。


「奴は――エドウィンはヴォルトが死んだものと認識してるはず。でも生きているのがバレてしまえば……」

「命が危うい……か。だが世に生きる一定の人物は常に命懸けというものだ。これが同じ身分の者同士であればケリを着けるのも容易い。しかしな、相手の身分が遥か上なら一筋縄ではいかん。下手に手を出した結果、思わぬしっぺ返しを食らうこともあるのだ」

「だとしても!」


 切っ掛けはどうあれヴォルトは大切な仲間だ。つかの間の喜びで終わらせたくはない。


「そ、そうだ、俺だって命を狙われてる。もちろんエドウィン伯爵に」

「だったら当分の間は通学を控えればよかろう。それで身の安全は保てる」

「それじゃあ解決には至らないよ。悪の根元を断たないと」

「ふぅ……」


 1つ大きなタメ息をつくと机に向かっていた視線を外し、呆れ顔を作りつつ俺の方へと振り向いた。


「いいかバースト、相手は伯爵という身分であり私よりも上の立場だ。そこは理解しているな?」

「は、はい……」

「表立っての真向勝負では話にならん。決定的な証拠でもない限り、罰せられるのは序列の下――つまり我々だ」

「そ、そりゃ……まぁ……」

「エドウィン伯爵の件はまだ調査中だ。進展があったらお前にも教えてやる。分かったら下がりなさい」

「はい……」



 書斎から追い出されてしまった。こうなりゃ危険を承知でエドウィンの邸に乗り込むしかない。そう覚悟を決めて自室に戻る。



「……私も行く」


 戻るなり、部屋の中にいたエリーが開口一番に告げてきた。


「言うと思ったけど今回はダメだ」

「……どうして?」

「危険なのはもちろんだし、エリーには別の役目をお願いしたいんだ」

「……別の?」


 俺が自室に隠ってるように偽装してもらい、できるだけ時間を稼いでもらう。その間に俺はエドウィンの邸に乗り込んで、決定的な証拠とやらを見つけ出す。

 フッ、燃えてきたぜ。すぐさま作戦を実行するぞ!



 ボムッ!



「イッタ~~~ィ! なんで勝手に発動してんのよ! てか服がビショビショだし最悪だわ!」


 おっといけない。気合いを入れ過ぎたせいで、隣のアイリの部屋でトラップが暴発したようだ。


「バーストの仕業ね? 着替えたらシバき倒してやるんだから!」


 よし、アイリが来る前に速やかに行動しよう。



★★★★★



「そこまで期待はしていなかったが、こうも容易く防がれるとは……」


 自室で1人呟く理由は、奴隷商から買い上げた獣人がバーストの暗殺に失敗したと気付いたからだ。

 奴にくれてやったペンダントには奴隷と主人を繋ぐための目には見えない生命線が施されている。その反応を感知出来ない理由は即ち、奴隷か主人の片方が死んだことを意味するのだ。


「ふむぅ……ほとぼりが覚めた後に別の奴隷でも用意するか」


 そうだな、どうせ使い捨てにするなら数で対抗してもいいだろう。多少の金は致し方ない。私の威信にかけても必ずや――



 バタン!



「し、失礼します、エドウィン様!」

「何事だ騒がしい」

「賊です、賊が侵入してきました!」

「賊だと?」


 伯爵である私の邸に侵入者とは命知らずな奴だ。


「ただ殺すのも勿体ない、生け捕りにして隔離施設に送ってやれ」

「そ、それが、侵入者は予想以上に手強く、警備兵の半数が戦闘不能に」

「はぁ!?」


 ど、どうなっている、只の侵入者ではないのか!?


「ほ、報告します、侵入者はキルロード家の者と判明しました!」

「キ、キルロード家!」


 クソッ! 男爵家と侮ったのが裏目に出たか。簡単には手出しをしないと思っていたのだが甘かったようだ。


「厄介な……。スナイパーJがいない今、まともに戦える者は1人も――」



 ――いや、1人だけいた!



「奴を――ビッグハンマーを呼べ、今すぐにだ!」

「か、かしこまりました!」


 あの獣人を買い付けた時に偶然目に止まったのだ。1年という猶予で買い手がつかなかった場合、死刑が執行される予定であった怪力男。実験台にする前に一仕事してもらおうではないか。



★★★★★



「ぐはぁ!」

「まただ、また1人やられたぞ!」

「ダ、ダメだ、まるで歯が立たない!」

「だがやるしかない、ここを突破されればエドウィン様の身がが危険に!」


 俺()()を通すまいと必死な抵抗を見せるエドウィンの私兵。まさかこんな未成年に!? という驚愕(きょうがく)の表情を浮かべるのも無理ない。


「もう一丁いくぜぇ? ドラゴンスラァァァッシュ!」

「「「ゲッハァ!?」」」


 大剣による豪快な横薙ぎで多くの私兵たちが通路の奥へと吹き飛ぶ。放ったのは……


「ダッハッハッ! どんなもんよぉ? オーガを斬り飛ばすよりかは遥かに楽だぜ!」

「それはいいんだけどさ、どうしてグレ兄が一緒に戦ってるんだ……」


 そう、大剣を振り回すのが何よりも得意なグレ兄が俺の前で戦ってるんだ。


「お前が心配だからに決まってんだろ。親父とお袋にも言われてるからなぁ、無事に生還できるようサポートしてやれってな」


 父上、ああは言っていたけど俺が単身で乗り込むのを予想してたのか。


「ほら、よそ見をしない。敵を目前にしての油断は禁物だ――フン!」

「ガハッ!」


 そして俺たちの後ろではハルバードが猛威を振るう。もちろん使い手はイル姉だ。


「イル姉さんもだけどさ、俺が到着してから同時に突入とかタイミングが良すぎだろ」

「「合わせたからな」」


 ですよね~。


「オラオラどうしたぁ? この程度の実力じゃあ俺は満足しねぇぜ!」


「クッ、迂闊(うかつ)に近付けない」

「くそぉ……」

狼狽(うろた)えるな! 前衛はそのまま維持、一斉射撃で仕留める!」


 弓兵の登場か、だが甘い!


「今度こそ俺の出番だ、スプラッシュファイヤー!」


 複数のファイヤーボールを同時に放つ魔法だ。狙いがアバウトでも敵にとっては大損害だろう。


「グァァァ燃えるぅぅぅ!?」

「ひぃぃぃぃぃぃ!」

「し、死にたくない、死にたくなぃぃぃ!」

「待て、待つんだ貴様ら、持ち場の放棄は違反行為と見なし――」


「オラァ! ボディがガラ空きだぜぇ!」

「グホォ!?」


 これで警備体制は崩壊。背後にいた私兵も退散したようだ。


「ゲホッゲホッ! お、おのれぇ、キルロード家の者共めぇ……」

「ま~だ吠えるだけの気力が残ってんのか? なら1つ質問だ、エドウィンの野郎はどこにいる?」

「…………」


 だんまりか。でもコイツが指揮官なのは知っている。


「おい、何とか言え!」

「…………」

「この野郎……」


 俺がやったら手加減を間違いかねん。かと言って、このままじゃ埒が明かない。どうしたものか……あ!


「イル姉、ちょっと屈んで」

「何故だ?」

「いいからいいから」


 もう少しこう胸元を緩くして、弾力が目で味わえるように……うん、このくらいで良いだろう。見事なダッチ○~ノポーズが出来上がったぞ。


「バースト、こんな時に何を?」

「これは重要なことなんだ、一刻を争うんだから黙ってて」

「ふ、ふむ……」


 後はコイツにだけ聴こえるように耳元で(ささや)いてやれば……


「おいお前、素直に答えたらイルフィーナ嬢がこの悩ましいポーズで色々と手当てしてくれるぞ」

「……何?」

「よく見ろ、脳筋との噂は何のその、こう見えてもタプンタプンのガッツリ巨乳だ。出来心で登頂したくなる2つの山と、吸い込まれそうな渓谷を間近で味わえ――」

「おおぅ! 分かった、言う言う! エドウィン伯爵は地下だ、地下の隔離施設に逃げ込んだに違いない」


 隔離施設?


「突き当たりにある伯爵の寝室から地下施設への秘密の通路がある。そこから行けるはずだ」


 ナイスな情報だ。


「だってさ二人とも」

「っしゃあ! 取りあえずこの先だな? 行くぜぇぇぇ!」

「うむ、急がねばな」


「あ、あれ? 手当ての件は……」


 おっと忘れるとこだった。


「イル姉さん、()()()の背負い投げを」

「分かった、そいやぁぁぁ!」

「ひぇぇぇぇぇぇ――――ぐえっ!」


 これでよしっと。幸せそうな顔で気絶してるぜ。ん? 手当てはどうしたって? 良い夢見てるんだから手当てにはなったろ。 

 さ、そんなことよりエドウィンだ。



 バァァァン!



「ルァァァ! どこだエドウィ~~~ン!」

「落ち着けよグレ兄、寝室にはいないって言ってただろ。地下施設に繋がる通路がどこかにあるはずだから、それを探すんだ」

「ああ? マジかよメンドくせぇ」

「いいから探せっての」


 大抵の場合は壁にあると思い、壁沿いに手探りをしていく。が、不意にグレ兄がテーブルに置かれたワインに手を伸ばし……


「お、こんなところに酒があるじゃんか。ちょうど喉が乾いてたところだし、こいつで一杯――」



 ガコッ!



「へ? ――うわぁぁぁ!?」

「「バースト!」」


 突然床が開き、地下へと吸い込まれるように落下する俺。――って、何で俺やねん!


「ウィンドスマッシュ!」



 ドシュ!



 床に叩きつけられる前に風魔法をブチ当てることで落下速度を大幅に和らげた。



 スタッ!



 ふぅ、無事に着地できた。


「バーストォォォ、無事かぁぁぁ!?」

「ああ、俺は大丈夫だ。でも2人は落ちてくるなよ? 絶対に怪我する高さだからな」

「分かった。我々は別のルートを探すから、そこで待っていろ」


 何せ3階から地下へと落とされたっぽい高さだし、下手すりゃ死んでしまう。


「さて、待ってろとは言われたものの……だ」


 この部屋は隅が見えないくらいに広いし、所々で寂しげに灯された蝋燭(ろうそく)だけが光源ってのも気味が悪い。さっさと脱出したいところだが……



 ガシャ、ガシャ、ガシャ



「ん? 足音?」


 重そうな足音と、金属が擦れるような音が近付いてくる。


「お~い、誰か居るのかぁ?」




「グッヘヘヘヘヘへ……」


 あ~、居ますねぇこりゃ。さしずめ招かれざる客ってとこか?

 そして薄気味悪い声の主が見える位置までやって来ると……


「ヘッヘッヘッヘッ。久し振りの獲物だ、じっくりと痛めつけてやる」


 巨大ハンマーを担いだ大男だ。右手で持つハンマーはチェーンに繋がれていて、左腕にチェーンを巻き付けていた。その姿はまるで武術大会の参加者かのようにも見える。

 いや、それ以前に何処かで見たような気もするような?


「あっ! 思い出したぞ、去年開かれた武術大会の予選で、対戦相手を何人も殺した罪で死刑判決を受けた奴!」

「へへ、ビッグハンマーだ。予選はバトルロイヤル形式だったからなぁ、存分に暴れられて楽しかったぜ~!」


 お陰で大会は一時中断されて、悲鳴と怒号が飛び交う地獄絵図となったんだ。


「俺は生き物を挽き肉にするのが趣味だからよ、屈強な男共をブッ潰せたのは最高の思い出ってやつだ」

「ああそうかい。なら残念だったな、見ての通り屈強な男じゃなくてさ」

「へへ、この際贅沢は言わない。生き物ならなんだって構わなねぇさぁぁぁ!」



 ブォォォォォォン!



 あっぶねぇ! あんなのに当たったら一発であの世行きだ。


「オォラ!」



 ブン!



 だが当たらなきゃどうってことはない。距離さえ取れれば脅威とはならない。


「お~い、そんなノロマじゃ永遠に当たらないぞ?」

「クヒヒヒヒヒ! だったらこうすりゃいいんだよぉぉぉ!」



 グオォォォンンン!



「ハンマーを投げてきた!? うおっと!」


 投げつけてくるとは思わなかったが、距離があったために余裕を持って避けられた。

 だがビッグハンマーは不適に笑い……


「バカめ、掛かったな!」



 グオォォォォォォ!



 投げたハンマーが軌道を変えて戻ってきた! そうか、そのためのチェーンか!



 バキィィィィィィ!



「へへ、生意気な小僧だったぜ。だが甘かったなぁ? 相手を仕留めるには油断させるのが一番なんだよ!」

「その意見には賛成だ。後は結果で示せれば完璧だったのになぁ?」

「はぁ? 何を言っ――てぇぇぇ!? ここここ小僧、なんで生きてやがる!」


 アイスバリケードを張っていた、が正解かな。まぁ一撃で壊したのは褒めてやる。


「ええぃ、ならもう一度だ!」


 怒りに任せてハンマーを投げまくるビッグハンマー。だが俺とてテキトーに回避してる訳じゃない。


「ちょこまかと小賢しい奴め! 今度こそぉぉぉ!」



 グゥン――メキメキメキッ!



「グゲェェェェェェェ!? く、首が、首がぁぁぁぁぁぁ!」


 俺を殺すことに躍起(やっき)なったせいで、チェーンが首に巻き付いたことに気付かないでやんの。


「グエェェェ……」


 コントロールを失ったハンマーが壁にめり込み、引きずられていたビッグハンマーも急停止。しかし時すでに遅く、首が極限まで締まった状態で絶命していた。



 ズダァァァン!



「バースト、無事かぁぁぁ!?」

「生きているかバースト、姉が助けに来たぞぉ!」


 壁を破壊して現れた2人と無事合流。


「俺は無事だよ。それよりエドウィンはこの奥だ」

「おぅし、行くぜぇ!」

「うむ!」


 ビッグハンマーが現れた方に進むと小さめな通路に出た。


「む、上に向かっているな。地上に繋がってるのか?」

「だとしたらマズイ、逃走する前に捕まえなきゃ!」


 絶対に逃すまいと、風魔法を付与して軽くなった靴で地面を蹴り、2人よりも先行。やがて地上に出ると……



「き、貴様はバースト!? まさかビッグハンマーもやられたのか!」


 馬車に荷物を詰め込んでいる最中のエドウィンがそこにいた。


「逃がさないぞエドウィン。おとなしく言うことを――ん?」



 ダダッ、ダダッ、ダダッ、ダダッ、ダダッ、ダダッ!



 ヒヒ~~~ン!


「は、白馬?」


 いや、馬よりも乗っている人物だ。


「おお、ヴィクトル様!」


 エドウィンが歓喜する。そう、エドウィン伯爵が所属する派閥――慎重派のトップが数人の近衛兵を引き連れ現れたんだ。


「こ、これは、ヴィクトル……様」


 ヴィクトル様はランタール陛下の三男でいらっしゃる。無礼があってはいけないと、俺たち3人は片膝をついて頭を垂れた。


「すまないね、恐縮させてしまって。でもお忍びだから楽にしていいよ」


 んん? 慎重派の1人を追い込んでるのに別段怒ってはいない?


「いやぁそれにしても見事、見事だよキルロード家の者たち。まさか改革派の暗殺を目論んだのがエドウィンだと突き止めるとは」

「へ?」


 どうなってる? そんな事は誰も言ってはいないはず。そう思ったのはエドウィンも同じようで、慌ててヴィクトル様に詰め寄る。


「ヴ、ヴィクトル様、それはいったい」

「残念だよエドウィン卿。キミは慎重派の面汚し。よってボクがこの場で断罪しよう」

「そ、そんな!? ヴィクトルさ――」



 ザシュ!



「ぶはぁぁぁ……」


 まさかいきなり斬り殺されるとはな。エドウィンもあの世で驚いてる事だろう。


「さて、これでボクたちも失礼するよ。では」


 颯爽(さっそう)と去っていくヴィクトル様。俺たちは訳も分からず、その場でしばらく立ち尽くしたのだった。


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