お腹は大事
魔王とは、かつてこの世界に覇を唱えた人物であり、世界の半分を支配下においていた時代もある恐るべき存在。これを脅威とみなした国々は団結し、連合軍を結成。一斉に魔王の支配地域へと攻め込み、次々と魔王の四天王を撃破。残された魔王は最後の城となる魔王城に立て籠るも、各国が派遣した勇者隊により打倒。混沌の世は終わりを迎えたのである。
「あれから15年は経ちますかねぇ。当時はまだ宮廷魔術師でしたので、幾度となく戦闘に駆り出されてましたよ。こうして五体満足なのは幸運だと言えるでしょう」
懐かしさからか、どこか遠い目で語るトーマス先生。確か45歳だったはずだから当時は30歳か。
「勿体無いッスね。宮廷魔術師ならエリートじゃないッスか。迫り来る敵を魔法でバーンできるなんて憧れッスよ」
「そんな御大層なもんじゃありませんよウィルくん。魔王軍の勢いは凄まじかったですからね、同期の半分が落命しても悲しむ隙すらなかったものです。残った魔術師も戦争が終われば用済み。経済の立て直しを理由に人員削減と来ました」
「え? じゃあ先生はクビに近い感じで城を追い出されたッスか!? そんなの酷過ぎッス!」
経済が苦しいのもあったんだろうが、功労者に対してそんなだと見限られるのも致し方なしな気がするなぁ。
「いいえ? 教師になればサボれる機会が多いかと思い、率先して退職を願い出たのですよ」
「「「は?」」」
「結果は大正解。いやぁ、これぞ先見の明ってやつですかねぇ。サボりたい時には屋上でゴロリ、しかも校長ですから誰にも文句は言わせません。もうね、校長バンザ~イってなもんですよ」
ホントのホントにロクでもねぇ教師だ。魔王が討伐されたのが唯一の救いかもしれん。
「さて、そんなエリート街道を自ら転げ落ちたわたくしですが(←自覚はあるらしい)、生徒の教育はしっかりとやらせていただきますよん」
ホントかよ……。少しでもサボってるのを見かけたら即座に叩き起こしてやる。
「それで先生、俺たちは何処に向かってるんだ? 歩きながらのご教授も良いけど、そろそろ目的地を明かして欲しいんだが」
「もうすぐ着きますよ。ほら、あそこです」
そう言って先生が指した先には……
「冒険者ギルドかよ、しかも南支部!」
「よくご存知で。まずは皆さんの冒険者登録から行おうと思います」
――と言っても俺たち4人はすでに登録済みで、リスティとヴォルトのみの登録となっていた。
「あら~、バーストくんの制服姿、とっても様になってるよ~。今日も依頼受ける~?」
「ハレー姉ちゃんこんちは。今は授業だから依頼は――」
「受けますよ? そのために来たのですから」
いや、来たのですからって、そりゃそうかもしれんけど……
「おいおい、生徒を使って金儲けしようとか考えてないよな?」
「それはウチからも言わせてもらいたいのん、報酬はウチらのものなのん、一人占めはのんのんなのん!」
「いえ、報酬は皆さんで分けてください。わたくしは実戦のサポートですので」
まぁそれなら――いや、それにしたっていきなり実戦!?
「ふむ、何か勘違いをされてるようですが、極力戦闘は避けますよ? 受ける依頼は採取依頼ですのでね」
詳しく聞けば、ポーションの作り方やその他のアイテム作成に役立ちそうなものばかりだった。魔法をブッぱするだけが魔法士じゃないってか? なるほどな。
「すみませんが皆さん、わたくしはここのギルマスと話がありますので、少しの間ロビーでお寛ぎ下さい」
あのハゲ――っと、失礼。あのギルマスと顔見知りか? あることないこと吹き込まれやしないだろうな? 面倒なことにならなきゃいいが。
バタン!
「おいお~い、なんだよこの有り様は。いつから冒険者ギルドは子供のたまり場になったんだぁ?」
「まったくでさぁ」
「親の顔が見てみてぇですぜ」
声を張り上げながら入ってきた中年男。頬にある大きな切り傷と眼帯で覆っている片目が、歴戦の猛者を彷彿とさせられる。取り巻きも7、8人くらいいるし、実際に強いのかもしれないな。
「ハレー姉ちゃん、アイツは?」
「ベテラン冒険者のブライアントさんです~。マウンテンビートという上位クランの一員で~、クランの名前をチラつかせて他の冒険者を見下すことが多いのよ~。そのせいでためしょっちゅう揉め事を~……」
ふ~ん? 無差別にヘイトを買ってそうだな。
「けどね~、他の支部の娘から聞いた話だと~、あの性格だからクラン内でも煙たがられてるって話よ~? 久々にこっちに来たのも他の支部で問題を起こしたとかじゃないかな~」
つまりは問題児か。
「おぅガキ、ここはガキ共が遊ぶ場所じゃねぇ、目障りだからとっとと消えな」
「…………」
一番近かったヴォルトを上から見下ろすように威圧。挑発に乗るまいと無視を決め込むヴォルトだったが、それが男を逆上させてしまい……
「おいコルァ、無視すんじゃねぇ! あんま調子に乗ってっと――ん? テメェ、随分と高価そうな首飾りをしてるじゃねぇか」
男が目を付けたのは、ヴォルトが初日から身につけていたペンダントだった。
「へへ、売ればそれなりかぁ?」
「な、何をする、これに触るな!」
「るせぇ! 俺様を怒らせた罰だ、黙って献上しやがれっ――」
「おい……」
さすがに見ていられなくなり、ヴォルトの胸ぐらを掴んでいた男の腕に軽く触れる。すると……
「ぐわっっっちぃぃぃぃぃぃ! テ、テメェ、俺の腕に何しやがった!?」
「大したことじゃない。火属性をプレゼントしてやっただけだ。ちょいと熱いが攻撃力が上がるぞ?」
「ふ、ふざけんな! さっさと――ぐぅおぉぉぉぉぉぉ!」
武器とかに付与するのが本来の正しい使い道だ。人体に付与すれば燃えるように熱くなるのは必然ってやつさ。昨日グレイ兄ちゃんに試したらエラい事になって、メッチャ怒られたのを思い出したんだ。
「ブ、ブライアントのだんな、早く水汲み場に!」
「クッ! お、覚えてやがれ!」
取り巻きを引き連れ大慌てでギルドを飛び出して行くブライアントという男。そんなに急がなくても10分もすれば効果は無くなるんだが。(←それまで待てないだろ)
「大丈夫かヴォルト?」
「あ、ああ。すまないバースト」
「なぁに、仲間が困ってるなら助けるのが当たり前さ、フッ」
「!? 仲間……か」
これで少しは仲良くなれれば良いんだが。
「うわぁ、気取ってるねぇ」
「……うん。この笑顔に私はやられた」
「そうなの? エリーったら意外。あたしは戦ってる時の方が……」
「……カッコいい?」
「そうねぇ。もうダメかもって時に魔物を粉砕しつつ現れたのを一度でも見ちゃったらもうね――って、何言わせんの!」
「ファーナはん助けられた言ってたのんねぇ。戦う時は魅力的なのん?」
「もぅヤメヤメ、この話題は禁止!」
「くぅ~、アニキばっか話題にして、こればっかりは悔しいッス!」
んん? 後ろで何か話してたのか?
「何の話だ?」
「「ななな何でもない!(ッス!)」」
そんなところにギルマスを伴ったトーマス先生が戻ってきた。
「お二人の登録も完了しましたね? ではここにわたくしが選んだ依頼書がありますので、まずは現地に向かいましょうか」
「頑張ってねバーストくんたち~、ウィルくんは足を引っ張っちゃダメだよ~」
「そんな事はないッス!」
「おぅ、また帰りに寄ってくれ。頼みたい依頼が山ほどあるからよ」
背後からギルマスの声が聴こえた気がしたが……気のせいだな多分。
★★★★★
「先生、あのさぁ……」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」
「怒りたくもなるッス!」
「そうよそうよ!」
採取が終わり、冒険者ギルドに戻って来るなりトーマス先生への不満が爆発する。
「お帰りみんな~。依頼はどうだった~?」
「ちょいちょい、ハレー姉ちゃん聞いてくれよ。この先生、依頼とか言って自分で植えた薬草の採取をさせたんだぜ?」
詳しく説明すると、西の山の麓に予め遠方で採取しておいた薬草を植えておいたものを俺たちに採取させたんだ。
俺やウィルは気付かなかったが、土が妙に柔らかいことにリスティが気付き、そこから判明したってわけ。
「さっきも言いましたが、客観的に見てもらうための採取ですよ」
「でもこの付近にはない薬草なんだろ? どっちにしろおかしいやん」
「まぁ……そうとも言いましょうか」
んなもんね、目的の薬草を図鑑で見せた上で予め煎じたやつをパッと出せばよかったんよ。3分クッ○ングみたいにさ。
「……コホン。では皆さん、お昼まで時間が有りますので、それまでは自由時間とします。解散!」
ま~たサボりか。こっちも自由にするからいいんだけどな。
バタン!
「ふぃ~、ゴブリンの討伐なんざ楽勝だったなぁ。もっと手応えのある依頼にすりゃよかったぜぇ」
間が悪いことに、またブライアントとかち合ってしまった。
「あ? んだよ、ま~たガキ共が戯れてやがんのか」
「旦那、ゴブリン討伐の報酬だけじゃシケてまさぁ。ここは1つ……」
「……ああ、そうだな」ニヤリ
イヤ~な感じの顔で近付いて来やがる。
「おいテメェ、さっきはよくも邪魔してくれたなぁ?」
「邪魔だと? 何の話だ」
「ハッ、惚ける気か? 依頼の邪魔だよ。テメェのせいで腕が負傷しちまったからよ、依頼が達成できなかったんだから責任とってくれるんだろうなぁ?」
コイツら、ギルド内で金を巻き上げるつもりか。
「さっきはゴブリンなんざ楽勝だったとか言っていたようだが?」
「さぁな、空耳じゃねぇか? とにかくこっちは被害を被ったんだ。治療費として金貨100枚ほど払ってもらおうか」
誰が払うかバカバカしい。
「おっと、逃げようったってそうはいかねぇ。払えないってんならソイツの持ってるペンダントをよこせ!」
「クッ!」
身構えるヴォルトに手を伸ばすブライアント。こりゃ分からせる必要があるな。
「何度もしつこい、エアスマッシュ!」
「ブハッ!?」
強烈な空気を顔面にブチ当てて奥の壁へと叩きつけてやった。この魔法は殺傷能力は低いがノックバックの効果が大きい。壁にぶつかったダメージの方が効いてるだろう。
「おまけだ、受け取っておけ」
「あ? テメェ、俺の腹に何し――」
ギュルルルル!
「ぐおぉぉぉ!? さっきまで何ともなかったのに、急に腹がぁ!」
「お前の腹に水属性――いや、それの上位変換した属性をプレゼントした。真冬のように冷えるだろう?」
何せ氷属性だからな。腹を下した感覚に陥ってるはずだ。
「た、旦那?」
「大丈夫ですかい?」
「グググ――」
ブビ……
「うんグゥ!? ククク……クソクソクソォォォ!」
「「「旦那ぁ!」」」
悶絶した顔でケツを押さえつつ小走りで出ていくブライアント。上手くいけば社会的に死んでくれるだろう。
「も~ぅ、バーストく~ん? いくら懲らしめるためとは言え、あわやロビーでお漏らしとかは勘弁してほしいんだけど~?」
「あ~、何かゴメン」
「酒場も併設されてるんだからお酒が不味くなっちゃうよ~」
それは申し訳ない。今後は別の方法をとる事にしよう。
「バースト!」
「あ~すまんすまん。ヴォルトも良い気分じゃないよな」
「いや、そうではない。バースト、お前に大事な話があるんだ」
「話?」
真剣な表情だ。魔法科に来た理由に関係してるんだろうか。
「ねぇ、これってやっぱり……」
「……うん。信じがたいけれど、ヴォルトにはそっちの気があった」
「マズイじゃない、万が一にもバーストが受け入れちゃったら!」
「……うん、大ピンチ。早く助け出した方が良いかも。さもないと、あんな事やこんな事が……」
「そ、そうなのん!? そうなったらこの先は18禁なのん!」
こらそこ、勝手に妄想を膨らませないように。
「バースト、二人だけで話がしたい」
「「「やっぱり!」」」
「だから勝手な妄想はやめぃ!」
何やら他に聞かれたくない話のようで、放課後に聞いてみる事にした。




