入学
「――という訳でですね、今日から皆さんの担任となりますトーマス・リーウットと申します。どうぞお手柔らかに」
俺たち新入生の前で優雅に一礼して見せたトーマス先生。陰キャっぽい黒淵メガネかと思いきや、数年前まで宮廷魔術師だったと言うのだから驚きだ。これから3年間、この人からみっちりと教わることになる。
「さてさて、事前に説明は受けていると思われますけども、ここは1つおさらいという事で、再度説明させていただきますね。当校のクラスは軽撃科、重撃科、遊撃科、魔法科の4つに分かれているわけですけれども、ご存知の通りここは魔法科になるんですね~。詳しくは次の通りですよ~」
軽撃科……剣士を目指す奴が多く集まる最もオーソドックスなクラス。伝説の勇者をイメージしやすいし、一番人気のクラスでもある。
重撃科……斧やハンマー、大剣を振り回す奴が集まるクラス。そこそこ人気ではあるが、実力不足を痛感した生徒が途中から軽撃科に移るケースも割と多い。
遊撃科……弓や短剣が主体のクラス。が、何より素早さと分析能力が求められる。時には後方に立ち時には前方支援と、目まぐるしく変わる状況に逐一順応する必要に迫られる。サポート役だがやる事も多いことから人気はいまいち。
魔法科……戦況を一気に覆す可能性のある魔法士を目指すクラス。無駄撃ちはせず、必要に応じてサポートするのを求められる。そもそも魔法を使いこなせる者が少ないため、者も殆どいないという一番不人気なクラスでもある。
今年は俺というレアケースが出てきて、俺に影響を受けた3人も同じクラスを希望したというのだから、校長や担任はさぞ驚いたことだろう。
ん? そういや校長を見てないな? まぁ会わなくてもいいんだけど。
「ちなみにわたくしトーマス・リーウットが校長も兼任しております」
あんたかよ!
「いやね、魔法科ってぶっちゃけ不人気じゃないですか。毎年1人いるかいないかくらいなもんですよ。だから今年も楽勝かな~とか思ってたらコレですよ。何ですかね、これが天変地異ってやつですかね。もうしばらくは楽したかったんですけどねぇ。あ、いつもの癖で教室に来るのを忘れるかもしれませんので、その時は屋上まで呼びに来てください。普段はそこで昼寝してますので」
やっすい天変地異だなぁ。というかこの校長サボり魔かよ。
「ではでは、手前から順番に自己紹介をお願いしますね」
「はいッス! 自分はウィルッス! 特技は特になしッス! 長所も多分ないと思うッス! これから宜しくッス!」
懸賞品の応募要項に書いたら絶対に当たらないであろう自己紹介をかましていくウィルを始め、次々と自己紹介が進んで行く。
とは言え俺たちのクラスは魔法科で、毎年の希望者が極めて少数なのが当たり前。俺を含めて6人しか居ないってのは何とも寂しい限りだ。
「え~と、次で最後かな? 」
「はい。ウチはリスティって言いますん。実家は商会を営んでまして、パルソン商会って聞いたことありますん? 貴族様の御用商人ってのをやってますんで、けっこう有名かな~なんて思っとりますん。あ、有名って言えば、貴族の――」
「あ~はいはいストップストップ。今日は自己紹介を済ませたら速やかに解散だから、手短にね」
「――って、もう終わりますん? まぁ貴族関連の裏話とか気になったらいつでも聞きに来て構いますん(←構うのか構わないのかどっちなんだ……)」
何ともお喋り好きな商人の娘だ。
「なんかグイグイ来る感じッスね」
「賑やかで良いじゃない。エリーはあんま喋ってくれないし、あたしは好きだよ」
「ホントにぃ? ならファーナはん、今後とも良しなに~♪」
「オッケ~♪」
さっそく意気投合しとる。 まぁ衝突するより100倍マシか。
ジィ~~~~~~
そんな彼女たちとは別にひたすら視線を送ってくる――と言うより睨んでくる人物が1人。
「……俺に何か用か?」
「……いや、別に」
「…………」
この少年の名はヴォルト。犬系の獣人らしいが、当然俺とは初対面のはず。
それとも自己紹介を省いたから怒ってるとか?(←メタな事は言わない) う~ん、よう分からん。
「はいはい。自己紹介は終わりましたので、本日は解散ですよ~。明日も遅れないで下さいね~」
半ば追い出されるように教室を出る俺たち。日没までは時間もあるし、どうしようかと話していたら……
「なら仕事手伝ってくれますん? お駄賃として水くらいは出しますん」
「「「割に合わんがな!」」」
「連れないなぁ」
リスティを軽くいなしつつフと思った。
「そうだ、せっかくだし腕試しでもしないか? 授業がない日でも学校の訓練施設は使えるはずだしさ」
「「やる!」」
「――うぉう?」
エリーとファーナの食い付きが凄い。2人とも強さを求める姿勢は貪欲だからなぁ。
「もち俺もやるッス。魔法でバーンするところを教えてくれるんスよね!?」
「一応な」
覚えれるかどうかは別だけどな。
「フッフッフ~。どうやらウチの実力を見せる時が来ましたのん。何故ウチが魔法科を選択したか教えてあげますん」
「って事はリスティって相当な実力者?」
「そう思ってもらって構いますん(←だからどっちなんだ……)」
そりゃ楽しみだ。ようやく本気を出せる相手と巡り会えたかもしれない。(←台詞がラスボスのそれ)
ってな訳で、中庭の訓練施設へと足を運んだ。ここでは四方八方が魔力シールドで覆われていて、校舎へのダメージは通らないようになっている。また訓練中に瀕死に陥りそうになった場合、救済トラップという機能が発動し、強制的に医務室へと転移されるのだとか。だからつい本気になっても大丈夫だと聞かされたよ。
「…………」ギラリ
いやいや、ヴォルトも来るんかい。
「ヴォルトって魔法使えるのか?」
「……得意ではない」
「得意じゃないのに魔法科を選んだのか?」
「…………」
ふむ。何か事情がありそうだな。それほど親しくはないから聞かないでおこう。
「……それより見ろ、中庭が他のクラスに占拠されているぞ。これでは腕試しが出来ないのではないか?」
ヴォルトの言う通り、斧やら大剣やらを振り回している連中が広く場所を取っているため、他のクラスが隅に追いやられていた。
「重撃科の連中だな。ちょっと空けてもらえるように話してくるか。――お~い、悪いんだが――」
ブンッ!
「あっぶね!」
「へぇ、よく避けたなぁ?」
重撃科の1人が俺の接近に反応し、ハルバードを回転させてきやがった。
「おい、訓練施設とは言え、いきなり襲ってくるのはどうなんだ?」
「なんだ、不満か? せっかく相手になってやるってのによぉ」
「頼んでねぇよ。それより場所を空けてくれ。こっちはこっちでやりたいんでね」
「あ? 遠慮すんなよ。どうせお前ら魔法科なんざ1分も持たねぇんだからよ、ケヘヘヘヘヘ!」
「「「アッハッハッハッ!」」」
野郎、バカにしてやがんな?
「へ~ぇ、1分ねぇ。1分以上持ちこたえたらどうする? 土下座でもすんのか?」
「ああ!? んなもんするわきゃねぇだろ! だいたいテメェら1年だろうが。こっちは3年だぞ? 負ける気もしねぇぜ!」
「負ける気がしないのに土下座は出来ないと? はっ、所詮は口先だけだな」
「は?」
大人げないとは思ったがコイツらを捩じ伏せてやらないと気が収まらない。こんな輩をのさばらせちゃ北クラウンを避けた意味がないからな。
「口先だけじゃないなら実力で示してみせろよ。こっちが負けたら土下座でもなんでもしてやる」
俺は実戦経験もあるからな、本気でかかれば負けることはほぼ無いと思っている。
「い、言ったなコイツぅ! なら俺たちが勝ったら在学中は一生俺たちの奴隷だかんな、絶対だかんな!」
「ああいいとも。その代わり、お前らが負けたら在学中の掃除当番は全部お前らな」
「へっ、どうせ負けてもあと1年だかんな。いいぜ、やってやんよ!」(←負ける事を前提にしないように)
よし、上手く挑発に乗ってくれたな。後はコイツらを倒しちまえば――
「オラよ!」
「ヒィ!? い、いきなりは無しッスよ!」
「そうよ、卑怯じゃない!」
「は、勝負にいきなりも何もあるかよ」
勝負が決まったか否かのタイミングで急に斧を振り下ろしてきやがった! ファーナがウィルの腕を引いたからよかったものの、遅れてたら一撃離脱だったぞ。
「はん! やっぱ1年は甘っちょろい奴らが多いなぁ。不意打ちなんざ珍しくもないってのによ」
「ああ。敵は待ってはくれないってのにな」
「しかも魔法科だぜ? 肝心の魔法はどうしたって話だよなぁ」
「「「アハハハハハ!」」」
フン、面白い。そっちがその気なら容赦はしない。
シュッ――バキッ!
「グヘェ!」
俺より先に怒りを表したのはエリー。バンビーボールが重撃科の1人に命中し、その場で顔面を押さえて悶絶し始める。
「卑怯な奴ら、許さない」
「や、やりやがったなコイツぅ! お前ら、全員でコイツらを袋叩きだ!」
「「「おぅ!」」」
ザッ!
さて、いつの間にか周囲を囲んでやがったか。なら一気に――
「フッフッフ~、ウチの実力を見せる絶好の機会なのん。いでよ障壁、サークルシールド!」
ガガガン!
「クソッ、障壁で斧が!?」
「これじゃ手が出せない!」
仲間と認識した者のみを円形に囲うシールドだ。四方を敵に囲まれた時には絶大な効果を発揮する。
「助かったけど、これだとこっちからも手が出せないよ?」
「フフ~ン、ファーナはん甘いのん。こっちからは攻撃が通りますのん」
「ホントに!? ――せぃ!」
ガスッ!
「いってぇぇぇ! 何でシールドを貫通すんだよ!?」
「それがサークルシールドの強みなのん。他の障壁とは違って攻勢に転じれるのん」
生き延びる知恵ってやつか。面白いな、この魔法も覚えとこう。
チカッ、チカカカッ、
「ア、アニキ、シールドが消えそうですぜぇ!?」
「おいリスティ」
「お察しの通りなのん。この魔法、長く続かないのが欠点なのん」
そうなりゃ最後は俺の出番ってわけだ。せっかくの訓練施設だし、最大限の力でブッ放してやる。
「よ~し、もうすぐだ、もうすぐシールドが消えて――ん?」
ゴゴゴゴゴ……
「な、なんだ、地震か?」
「地震じゃない、み、見ろあの野郎を!」
「あの野郎って……ヒッ!?」
邸で装飾品やらに影響を及ぼしてから、出来る限り魔力の漏洩を抑えてはきた。だがここなら遠慮はいらない。今の自分にどれ程の魔力が有るのか、それを知る良い機会だと思ったんだ。
「ちょ、バーストの全身が光ってる!」
「ホ、ホントッス! いったい何が起こってるッスか!?」
「ファーナにウィル、落ち着いて。バーストが本気を出そうとしてるだけだから」
そう、エリーの言う通り、本気を出せばどうなるかを知りたい。純粋にそう思ったんだよ。思えばスナイパーJを撃退した時ですら全力を出していなかった――いや、出す状況にまで追い込まれなかったというのが正しいか?
「こ、この震動、魔力だけで大地を震わせていると言うのか? 普通の人間が成せる事じゃないぞ!」
「ヴォルトはん、えらく感情的なのん」
「……す、すまない、少し取り乱した」
さて、そろそろいいか? 魔力は充分に集まった。後はこれを――
バチバチバチ――バキン!
「な、なんだ今の音は?」
バキッ――バキバキバキン!
「しょ、照明だ、中庭を照らしてる照明が破裂していく!?」
「いや、それだけじゃない、校舎に張られた結界が!」
メキメキメキ――パキィィィン!
校舎のダメージを防ぐための保護結界。それがメキメキと剥がれ、光の粉となって消え去っていく。
「お、おい、これってヤバくないか?」
「バッキャロー! 勝負を挑まれたのに逃げろってのか!?」
「るせぇ! 俺は逃げるぞ」
「お、俺も!」
おっと、逃がすわけにはいかないな。
シュバ!
「「「ヒィィィ!?」」」
「瞬間的に回り込まれた!?」
宙に漂う魔力を上手く辿ることで瞬間移動することも可能だ。まぁ範囲は限られてるし、今みたいに魔力を集めなきゃならないしで少々面倒だが。
「一撃だ、一撃で終わらせてやる」
「まままま待て、お、俺たちが悪かった!」
「あ、謝るから許してくれ!」
「もう遅い。これが実戦なら生きて帰れないのは分かるだろう? じゃあな、マットプロミネ――」
パシィ!
「――っと、そこまでです」
「誰だ! ――って先生!?」
俺の腕を掴んでいたのは、あのやる気のなさそうな校長兼担任のトーマス先生だった。
「ご覧なさい。結界が崩壊した今、そんな物騒な魔法を放たれては校舎がメチャクチャになってしまいます。続きをご所望なら別の機会に。いいですね?」
校長だもんな。やはり生徒に怪我はしてほしくないんだろう。ま、俺も大人げなかったかもしれん。
「いいですよ。殺し合いじゃないし、ここは矛を収めましょう」
「フッ、良い返事です。いやね、怪我人の詳細報告や校舎の修繕依頼とか、何かと面倒なのですよ、給料にも影響しますしね。理解してくれて助かります」
そっちかい。やっぱロクでもねぇ校長だ。
「アニキィ、さすがッス! 重撃科の奴らみ~んな逃げて行きましたぜ!」
「……でも周りからの視線が痛い。みんな怖がってる」
エリーの言うように他の生徒からは遠巻きに見られるのみで、近寄ろうとすらしない。
「ま、何はともあれ実力は示せましたのん」
「燃費の悪い魔法だったけどな」
「下げ発言はノンノンですのん」
しっかしこの校長、気配を全く感じなかったぞ。俺が集中し過ぎたせいか?




