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魔力は垂れ流すもの!  作者: 南国ブラックベア
10/17

アゼルの番人

「聞いたぜバースト、お前さん南クラウンに入学するんだって?」

「まぁね」

「俺ぁてっきり北クラウンに入るもんだと思ってたんだがな。そんなに他の貴族と交ざるのが嫌か? それかもっと別の理由か?」


 どこから聞いたのか、資料室に入るなりギルマスのオッサンが肩を叩きながら詮索してくる。


「理由? そりゃもちろん、エリーと一緒に通うためさ」


 貴族じゃないエリーが北クラウンに入学したらどんな目に合うか考えたくもないね。


「私は……バーストが一緒ならどこでも」

「――って思うじゃん? でもな、貴族のイビりは半端ないぜ?」


 中には家畜同然の扱いをする奴もいる。モルゴメスなんかとは比較にならないゲスもいるだろうし、美顔を妬んだ女共がエリーを亡き者に……なんて事があったら自分の制御が出来なくなるだろう。


「とにかく、北クラウンの入学だけは絶対になしだ」

「そうかい。ま、ウィルも喜ぶだろうし、バーストなら平民に紛れて上手いことやるんだろうな。今日はそんなお前にな、ちょいと早い入学祝いを用意したぜ」

「マジ!?」


 そう言って手渡してきたのは一枚の紙――というより依頼書だった。


「なんだこれ……」

「緊急の依頼だ。元は北支部の依頼だったんだが誰も引き受けないもんだからよ、こっちに泣きついてきたってわけさ。追加報酬を出すから早くしてくれ……だとよ」


 西の山にのみ生息していると言われている樹木――アゼル。そのアゼルの木の実を取ってこい――と。

 これだけ見ると簡単そうに見えるだろうが、現実は違う。山と言っても山道は無く、絶壁を登るような感じかな。登山愛好家も避けて通ると言われてるのが西の山なわけで、仙人の修行でもない限り誰も寄り付かないことで有名だ。


「これが入学祝い? 笑わせるな。しかも期限が明日までとか、完全に俺をあてにしてるだろ」

「そう言わずに頼むよバースト。学業が始まったらギルドに顔出す機会も減るだろ? その前に……な?」

「何が……な? なのかさっぱりだが」

「いや、マジで頼むって。壁を登れる奴なんてお前さん以外に思い付かないんだよ」


 壁を登る――ねぇ。そもそも普通の冒険者でも出来なくはないんだよな、かな~り面倒なだけで。


「あ、そうそう、なんでも依頼主は懇意にしてる貴族を招いて晩餐会をやるらしい。そこで提供する料理に必要なんだとさ。バーストにも関係あるんじゃないか?」

「ま~た都合の良い解釈を」


 けどまぁ何だ、何か新しい発見が有るかもしれないし、引き受けるのもありか。


「分かったよ。但し入学祝いなんだから、たんまりと弾んでもらうぞ?」

「おぅよ! 今回は特別に金貨100枚出すぜ!」

「そりゃ太っ腹だな」


 なら日が落ちる前にチャチャッと行ってくるかな――というタイミングで、何かを思い出したハレー姉ちゃんがポンっと手を叩くと……


「そういえばギルマス~、その依頼って~、3日前に引き受けたパーティが~」

「「なにぃ!?」」

「言ってなかったっけ~? ウィルくんも荷物持ちとして参加したパーティなんだけど~」


 そういやウィルの奴を見ないなぁと思ったよ。しかし3日前か。まだ戻らないってことはトラブルでもあったか?


「いまだ戻らず……か。悪いがバースト」

「分かってる。救助が必要かもしれないし、今すぐ行ってくる!」



★★★★★



 こ、こちら、現場のウィルッス。何とか急斜面を登り切ったんスけど山の上は天候が不安定で、暑くなったかと思えば急激に冷え込んだりと夏と冬が同時にやって来た~みたいな感じッス。


「べっっっくしょい! うぅ~寒。こんなに厳しいなんて聞いてないッスよ!」

「だから言っただろう? キミの軽装じゃ厳しいと。たかが採取依頼と侮った結果だな」


 痛いたころを突いてくるのはパーティリーダーのザックさん。冒険者を始めて20年以上のベテランッス。


「な~に言ってんだい。駆け出しの頃のアンタにそっくりじゃないか。毒草を採取するのに手袋も持たないで現場に向かったりとかね。お陰で丸1日無駄になったし、あん時の苦労は忘れもしないよ」


 ザックさんに突っ込みを入れるのは奥さんのジェシーさん。パーティメンバーがくっつくのは冒険者あるあるッスねぇ。


「ボクとしてもね、今の親父からは想像も出来ないんだよねぇ。知識も豊富で剣の腕も一流だし――と、どうやらお客さんだ。ブッシュウルフが3体だな」


 注意を促すのは息子のデュラントさん。現在は20歳でルーキーを脱した一人前って感じッス。


「うっわ、もう10メートル近くまで接近されてるッス!」

「ウィルくんは下がっててくれ。行くぞ!」

「あいよ!」

「おっけい!」



 ザスッ――ザスザスッ!



 家族なだけあって見事な連携で狼を斬り伏せていくッス。


「さっすがベテランッス! 狼なんか全然相手にならな――」

「ウィル、うしろっ!」

「――え?」


 ファーナの怒声に思わず硬直。辛うじて動いた首のおかげで間近に迫る狼が視界の隅に! 反応出来ずに腕で視界を覆うも狼の攻撃は来ず、代わりに肉が潰れるような嫌な音が……



 ドヂュ! グジャ!



「こ、この音は……」


 恐る恐る手をどけて見れば、胴体に大穴をあけて更に頭部が潰された狼が横たわっていたッス。やったのはもちろん……


「ったく、警告したんだから撃退しろよなぁ」

「ご、ごめんッスファーナ。そして助かったッス」


 彼女もまたザックさんの娘さんでファーナって言うッス。不器用だからって理由で武器は持たず、なんと素手で戦うって言うから驚きッス。


「これでよし。狼の素材は回収したッス」

「お疲れさん。けど我々の目的はアゼルの実だ。あれを採取しないことには依頼は達成できんのだが……」


 ザックさんが木陰から顔を出す。視線の先にはアゼルの木が群生し、その下には全長10メートル近くはある巨大な岩の塊が鎮座してるッス。

 これがかなりの曲者で、意思を持った岩の塊――いわゆるゴーレムってやつッスね。このロックゴーレムがアゼルの木を護ってるみたいで、近付こうものなら容赦なく殴りかかってくるッス。


「何とかならないッスか?」

「それが出来たら3日も浪費しとらんよ。無駄な戦闘は避けて生存率を上げてこそベテランってもんだ」


 そう言って3日も待ったもののロックゴーレムは一向に動こうとはせず、こっちの食料事情が危うくなって来たッス。


「どうするんだいアンタ、食料はもう無いんだ、今日を逃したら……」

「撤退するしかない……か」


 撤退するには険しい崖を降りる必要があるッス。あれだけでも1ヶ月分の体力を使うんスから勘弁してほしいッス。


「こ、こうなったら俺が囮をやるッス!」

「「「え!?」」」


 あのゴーレムは微動だにしない。ならわざと注意を引いて誘導してやるッス。


「それは危険だウィルくん。失敗したら踏み潰されて終わりだぞ? とてもじゃないが賛同しかねる」

「そうだよウィル。アンタはまだ若いんだ、命を粗末にするもんじゃない」

「でもジェシーさん、それだと依頼は失敗に……」

「母さんの言う通りだよ。アンタは一番弱っちぃんだから大人しくしてなって」


 何気にファーナの一言がグサッとくるッスけど、俺だってアニキに認められたいんス。

 でも思えばアニキと一緒じゃなきゃ何も出来てないんスよね。


「はぁ……。こんな時にアニキがいてくれたら、あんなゴーレムなんか一撃で粉砕してくれるのに……」

「いやいや、無理無理。ボクの知る限りじゃあんな巨大なゴーレムを倒した日にゃ一躍ヒーローさ。高位の魔法士でもない限り、倒すなんて不可能だよ」

「同意。それにアンタのアニキって言われるととてもじゃないけど……」


 デュラントさん、それにファーナまで胡散臭げに見てくるッス。ここはアニキの名誉のためにもガツンと言う必要があるッスね!


「な、なんスかファーナ! 言っとくッスけどアニキはとんでもなく強いッスよ!? いつもギルマスに褒められてるッスから、あんなゴーレムちょちょいのちょいっと――」

「あ~、はいはい」

「ちょっと~! 信用してないッスね!?」


 こうなりゃ自棄ッス。悟○、早く来てくれ~! ――じゃなかった、アニキ~、早く来てくれッス~!



 グルルルッ!



「唸り声スか? それも複数……」

「父さん母さん、これまでにない数のブッシュウルフだ! しかもアレ!」


 デュラントさんが指す方向には一回り大きいブッシュウルフが!


「ブッシュウルフリーダーか! こりゃ本格的にマズイ、各自で臨戦態勢を!」


 互いに背を向け周囲を警戒。特にリーダー狼の動き要注意――



「――って、ブッシュウルフリーダーが消えた!?」

「違う、側面よ、死角から来る!」

「クソッス!」


 手下の狼に紛れて移動してやがったッスか!



 ゲシッ!



「フン、甘いよ!」


 ファーナのフォローが間に合い、蹴りを受けて後退するリーダー狼。けれど大したダメージは入ってなさそうッス。


「グルルルル……グルァッ!」

「クッ! コイツゥ、ウィルはともかくあたしまで弱いと思ってやがるな!? 上等だよクソ狼が!」


 そこからリーダー狼とファーナのデュエルが始まったッス。接近されては払いのけを繰り返すも、徐々にファーナは息を切らし始め……


「ハァハァ……、父さんに母さん、援護に回れない?」

「ダ、ダメだ、さっきから保守的な動きしかしてこない。殲滅するのはしばらくかかりそうだ」

「そんな!」

「けどどうしても持たないと思ったらアンタらだけでも逃げなさい。あたしと父さんで食い止めるから!」

「それは絶対に嫌!」

「わがまま言うんじゃない。頼んだよデュラント!」

「分かった、覚悟は決めとくよ」

「兄さんまで!」


 万事休すッスか。こうなったら意地を見せるッス! せめてファーナが息を整える時間を稼いでみせるッス!


「ここが正念場ッス! くたばれ、クソ狼めぇぇぇぇぇぇ!」

「ウィル!?」


 無謀を承知でリーダー狼に突っ込んだッス。一瞬驚いた様子だったッスけど、すぐに牙を剥き出しにして向かってきたッス。

 でも甘いッスね、簡単には死なないッスよ?



 ガキッ!



「ええっ!?」


 噛みつこうとした瞬間を狙い開いた口に剣を突っ込もうとしたものの、難なく爪で防がれてしまったッス! そしてリーダー狼の口が俺の顔目掛けて――



 ボォン!



「「「え……」」」


 斬りつけようとしたらリーダー狼の頭が消し飛んだッス! 俺も皆も狼も、何が起こったのか理解出来ずに呆然ッス。そして次の瞬間、癒しとも言える声が耳に届いたッス!


「危ないことするなぁ。腕を食われたら俺でも治せないぞ?」

「ア、アニキィィィィィィ!」


 待ちに待ったアニキが来たッス。これで形勢逆転ッスよ!



★★★★★



「な、何……今の……」


 あたしはファーナ、ウィルよりは多少は強い冒険者。あたしを含む4人家族のパーティとウィルが危機に(ひん)した時、ウィルが自棄を起こして突撃をかました。あわや食われるかと思ったその時、ブッシュウルフリーダーの頭がフッ飛んだんだ。そして現れたのは……


「ア、アンタがウィルの言っていた……」

「アニキって呼ばれてるな。まぁ詳しい話は後だ、コイツらを殲滅する。エリーはそっちの大人たちを援護してやって」

「分かった」


 そこからも信じ難い光景が広がった。多数のブッシュウルフが彼の魔法によって一方的に蹂躙(じゅうりん)されてくじゃないか。

 それにエリーというエルフの子も凄い。一見おもちゃに見えるボールを巧みに操り、一体ずつ確実に仕留めていく。そのお陰でものの数分で狼を殲滅。ようやく一息つけるようになった。


「バースト、全部終わった」

「サンキューエリー」


 バーストにエリーか。あたしと大した変わらないであろう歳でここまでやるなんて、この2人、絶対に只者じゃない。


「バーストくんにエリーくん、と言えばいいかな? お陰で助かったよ、ありがとう」

「あたしからも礼を言わせておくれ。2人の助太刀に感謝するよ」

「ボクにも言わせてくれ。もう少しで両親を見殺しにしなきゃならないところだった。本当にありがとう!」

「言うてウィルが足を引っ張ったんでしょ? コイツ剣の腕はからっきしだし」

「正論パンチは卑怯ッスよアニキ!」


 う~ん、見れば見るほど強そうには見えない。というか本当に強い? でも放っていた炎は間違いなく魔法だったし……


「こらファーナ、助けてもらったんだ、お礼くらい言いなさい!」

「え? あ、ああ……ありが、とう?」


 いけない。心の中の疑問符が口に出ちゃった。



 ズゥン! ズゥン! ズゥン!



「ん? この音は……」

「しまった、ロックゴーレムだ、今の戦闘でこちらに気付いたんだ。早くこの場を離れなくては」


 一難去って何とやら……ね。いくら魔法を使えてもファイヤーボールじゃあの巨体を燃やしたりは出来ない。だけど……


「あ~、なるほど。あのゴーレムのせいで3日もかかってるのか。ならチャチャっと倒しちまおう」

「「「はぁ!?」」」


 何の冗談かと思った。ロックゴーレムを倒すって? ベテランの両親ですら逃げるという選択をするモンスター相手に? けどバーストは自信たっぷりに……


「喜べ木偶(でく)野郎、覚えたての魔法をお見舞いしてやる。かつてあまりの威力のために禁呪にしようかと議論された魔法――」



 バーストが両手を掲げた瞬間、とてつもない魔力が彼の手に集中し始め……



「――マットプロミネンス!」



 ジュワーーーーーーッ!



「「「…………」」」


 全員言葉が出なかった。ロックゴーレムは跡形もなく溶け、余波を受けた大地は巨大なスプーンですくったかのような形状を残していた。冒険者をやっている魔法士でもここまでの威力は出せないだろう。というか何で冒険者なんかやってるのか不思議なレベル。


「これで邪魔者は居なくなったな。さっさと木の実を採取するぞ」

「は~い」

「任せろッス!」


 うん。あのエリーって子とウィルは全く気にしてないね。ここまでくると気にしてるあたしがバカみたいだ。


「いや~、参ったねぇ。ボクもだいぶ強くなったと思ってたのに、彼には逆立ちしたって勝てそうにはないよ」

「…………」

「ん? ファーナ? ――はは~ん、一目惚れしちゃいましたってか?」

「べ、別にそんなんじゃない」


 そうじゃないけど、これ程の強さを見せつけられちゃ、黙ってられない。あたしら家族は国を跨いで旅をしてるけど、次にバーストのような奴に出会える保証はない。バーストと居れば不器用なあたしでも強くなれそうな気がする、うん、そうに違いない。


「父さん、母さん」

「ああ、言いたいことは分かる。彼の元で修行したいんだろう? しばらく滞在するのも悪くはない。頑張って口説いてこい」

「え、口説くって……」

「なんだい、彼に惚れたんだろ? だったら正面から――」

「違うって!」


 両親の許可は取った。後はバーストの許可よね。


「バースト、1つお願いが……」

「ん? 何だ?」



「ふ、ふつつか者ですが……よ、宜しくお願いします!」

「はひ?」


 その後、メチャクチャ勘違いされた。


登場人物紹介


名前:ザック

性別:男

年齢:47歳

種族:人間

備考:世界中を旅しているベテラン冒険者で、パーティメンバーは全て肉親という珍しい構成をしている。自身はリーダーを勤め、行き先や依頼などを選別している。面倒見の良い性格で、急遽加わったウィルのことも気にかけていたようだ。


名前:ジェシー

性別:女

年齢:45歳

種族:人間

備考:夫のザックをリーダーにしたパーティの冒険者。他の仲間も自身の子供という珍しい構成をしている。――というのも冒険者がパーティメンバーを裏切るというのは当たり前に存在するため、信頼するメンバーを望んだ結果が現状と言える。


名前:デュラント

性別:男

年齢:20歳

種族:人間

備考:家族でパーティを組んでいるという珍しい冒険者。ベテランの父と母から鍛えられた甲斐もあり、若年でありながらも剣の腕は一人前である。しかし妹のファーナは不器用なため武器を扱えないので、そこは不憫に思っている。


名前:ファーナ

性別:女

年齢:13歳

種族:人間

備考:家族でパーティを組んでいるという珍しい冒険者。父と母はベテランで兄は早くも一人前という状況からか、もっと強くなりパーティに貢献したいと常に思っている。そんな彼女もバーストの魔法の才を目の当たりにし、自分に足りないのはこれだと意気込み、しばし帝都に滞在して同じ学校に通うようになった。


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