プロローグ
「お~いバースト、そろそろ起きろよ」
「う~ん……」
まだ夢心地だった俺の身体を揺するのは我が家の四男ルドラス。俺の2つ上で歳が近いこともあってか、何かと普段から気にかけてくれる優しい兄貴だ。
けど悪いな、俺はまだ寝ていたい。まだ眠たい盛りの13歳(←歳は関係ないだろ)だし朝には弱いんだ。生まれ持った体質だから致し方なしだね。
「また寝ようとする……。もう半分起きてるだろ? 早く起きなきゃ母上が来るよ」
あ~母さんなぁ。寝坊すると強制的に素振り百回を課してくる厄介者だ。恐らく我が家で一番の脳筋女だろう。
しか~し、そんなことで我が眠りを妨げることは出来ぬ!
「…………」
おや? 急に静かになったな。まぁ諦めてくれたのなら幸い――
バチーーーン!
「いっでぇぇぇぇぇぇ!」
寝返りを打ったら俺の脛に強烈な痛みが! 手で探ってみれば、ネズミ捕りのような罠が脛をキッチリサポート! これで脛へのガードも安心だね――ってやかましいわ! 脛が腫れ上がっちまったよ! こんな幼稚な事をする奴は1人しかいない!
「にしししし♪ 引っ掛かったわねバカバースト!」
「くぅぅぅ、アイリ!」
意地の悪い笑みを浮かべているのは1個上の四女アイリ。隙を見ては俺にトラップを仕掛けてくるクソガキだ。
「ったく、朝っぱらからろくでもない事しやがる。兄貴も教えてくれよ」
「いや、その……アイリからの無言の圧力がね……」
「もぅ、ルドラスのせいにしないの。さっさと起きないアンタが悪いのよ。悔しかったらあたしよりも早く起きなさい。ま、超がつくほどの非力で体力の低いアンタじゃ無理でしょうけどね~♪」
クソッ、勝ち誇りやがって。だが俺だってやられっぱなしじゃないぞ? アイリから奇襲を受ける度に少しずつ運動神経ってもんが身に付いてきたんだ。お陰でスニークスキルはかなり上がってきたし、今なら気付かれないようアイリの背後に回り込むことだって……
「食らえ~~~ぃ!」
ブスッ!
「ンンンギャァァァァァァ!?」
ンギャァァァだってよクククク。まぁ作戦は成功。異世界からやって来た勇者が繰り出したとされる伝説の技――千年殺しだ!
「こ、このぉ、バーストのくせにやってくれたわね!?」
「先に仕掛けてきたのはアイリだろ」
「キーーーィ! そうやってアンタは生意気なのよ! そもそもね、あたしはアンタの姉なんだから、敬意を持ってお姉様と呼びなさい!」
「アイリだってルドラスを呼び捨てにしてるだろ」
「アンタもでしょ!」
「だってルドラスは兄貴扱いするには頼りない感じがするし」
「え……」
「それには同意するわ。ったく、ルドラスがしっかりしないからバーストがひねくれるんじゃないの。しっかりしなさいよ!」
「なんでボクに飛び火するの!?」
ドタドタドタ――バタン!
「こらぁ~我が子たち~~~! 朝っぱらからな~にを騒いでんの~~~!?」
一番騒がしいだろと突っ込みたい気持ちに駆られる騒々しさでママンが登場。50手前だってのに元傭兵だった勇ましさは健在で、風紀の乱れにも敏感だ。
「いや違うって! 騒いでんのはアイリの方で――」
「うっさい! 他人のせいにするな!」
「…………」すぅ~~
「お黙りぃぃぃ!」
「「「ヒッ!?」」」
「言い訳なんざみっともない! 3人とも中庭で素振り100回! 終わるまで朝飯は食べさせないよ!」
「ボクも!?」
★★★★★
「「「い~ち、に~い、さ~ん……」」」
ご覧いただけただろうか? これがここ最近の俺にとってのルーティンというやつである。珍しく今日は哀れなルドラスが追加されたけどな。
「ほ~らバースト、他の3人よりペースが落ちてきてるぞ? しっかり気合い入れる!」
「は~い……」
肝っ玉母ちゃんからの激が飛ぶ。これも俺が非力だと分かった上でのことだ。
ちなみに3人というのはだ、俺とルドラスとアイリ以外にも素振りをしている奴がいるってことな。その人物とは……
「ハッハッハッ! そうだぞバースト。これくらいでへばってるようじゃ俺に付いてくるなんざ百年早いってもんよ」
そう言って豪快に笑い飛ばすのは4つ上の二男グレイバム兄ちゃん。細かい事は気にしない性格で人当たりも良く、学園でも友達が多いらしい。
ちなみに素振りをしているのはペナルティではなく、単に身体を動かしたいからである。物好きだな。
「グレイ兄ちゃんと一緒にしないでくれ。そもそも付いてくなんて言ってないし」
「ダメだ。お前はそこらの人間より非力なんだから、俺が鍛えてやらなきゃだろ? 将来は俺のパーティに入れてやるからな。楽しみにしとけよ~、ガッハッハッ!」
「うげぇ……」
そういやグレイ兄ちゃんは冒険者志望だっけな。どうせ後を継ぐのは長男だからと気楽に考えてるんだろう。それにしたって俺を巻き込むなって話なんだけど。
「ちょっと待ちなさい」
「ん? なんだアイリ、お前も俺のパーティに入りたいのか?」
「違うわよ! バーストはトレジャーハンターになって世界中を駆け回るのよ、あたしと一緒にね。だから冒険者なんかやらせないわよ」
「えっ?」
不機嫌そうに割って入るアイリ。
トレジャーハンターってのは世界中に眠っているお宝を発掘して回る連中のことだ。冒険者と違って魔物退治や採取依頼なんかは受けない。でもってアイリのことだ、マジックアイテムを駆使したトラップ戦法を得意とすることから、お宝の獲得は自身の強化にも繋がると考えてるんだろう。
それにしたって俺を手下の如く使ってほしくはないが。
「待ってよ2人とも。バーストはボクが面倒を見るんだから、勝手に話を進めないでよ」
「「「えっ?」」」
「将来は騎士団に入るつもりだから、ボクの権限でバーストも入団させるよ。2人で帝都の平和を護ろう!」
「はぃ~~~い!?」
ついにはルドラスまで割って入る。しかも騎士団? コネで騎士団入りとか絶対周りから白い目で見られるやつやん!
「真面目なルドラスらしいけど……なぁ?」
「そうね。遊び心が足りないわ」
「酷っ! バーストからも何か言ってやってよ!」
「俺も騎士団だけは勘弁だな」
「そんな!?」
ショックを受けるルドラス。いや、冒険者やトレジャーハンターも無理ッスよ? だって自他共に認める非力野郎だもん。
「ハハッ! なんだいルドラスは振られちゃったかい。でもまぁアレさ、傭兵に成りたいんなら私に言いな。口利きくらいはしてやる」
「勘弁してください、お母様」
さて、そんなこんなでやっとこさ素振りを終えて食卓に着くと……
「ふひぃ……」
食卓につくなりテーブルに突っ伏している俺がそこに居た。素振りをしていた他3人はとっくに食べ終わり外出している。残っているのは紅茶両手に談笑している姉3人と、分厚い本を読みふけっている三つ上の三男アドセルト兄さんだけ。
が、アド兄はタメ息と共に本を閉じ、得意気にメガネをクィと持ち上げると視線を俺に向け……
「はぁ……。バースト、たかだか素振りの百回くらいでその様とは情けない」
そのたかだかが俺にとっての重労働なんだってば。
「死んでしまうとは情けないと言われるよりマシかと」
「何を訳の分からんことを……。そんな体たらくじゃ我輩の助手は勤まらんぞ」
「はっ? ……助手?」
「そうだ。今のお前じゃ大成できん。我輩が道場を開いた暁には特別にお前を助手として雇ってやる」
ま~たこの兄貴も妙なことを……。確か前にも剣術道場を開くって言ってたし、アレって本気だったんだな。
「俺が道場に入ったって何も出来――」
「そう思っている内はまだまだ未熟だ。コレを読め。まずは座学から始めよう」
テーブルに積まれていた本の一冊を俺に差し出してくる。いやいや、食事時にそんな分厚いもん見せられたら胸焼けしまっせ。読み終わるまで何年かかるやら。
「謹んで遠慮します」
「読まず嫌いはよくないぞ? 何なら私が読んでやろう」
「いや、赤ん坊じゃあるまいし」
「遠慮するな」
「遠慮します!」
そんなくだらん押し問答を繰り広げているところへ別の声が割り込む。
「おやおや、朝っぱらから兄弟仲がよろしいようで」
「あらあら、バーストが困ってましてよ?」
「まぁまぁ、ここはもう少し様子を見ましょう」
傍観していた3人、上から長女のイルフィーナ姉さんに二女のフレデリカ姉さん、そして三女のラミエル姉さん。俺から見て9歳8歳7歳差だ。3人一緒のことが多いけどアイリとは歳が離れてることから、あの悪魔は俺を構ってくるのだと思う。なんつ~傍迷惑な……。
いや、それよりも俺をそっちのけでアド兄と三姉妹の言い合いが過熱しそう。
「姉さんたちは黙っていただこうか。これは我輩とバーストの問題なのでね」
「おやおや、私たちは除け者かい? バーストの将来を案じているのはキミだけではないよ」
「イル姉様の言う通りですわ。これでもわたくしたちは未来の将軍候補ですもの、若くして隊長の座を射止めたのは運だけではありませんわよ」
「まぁまぁ、そういう事です。バーストを私たちの側近として迎え入れれば何も問題はありません」
「国軍に入れる気か? 危険過ぎる! やはり我輩の道場で――」
「あらあら、少々過保護すぎですわよアドセルト」
過保護なのは皆同じだけどな。しかもこの3人の姉さんたちは武術も上々。将来は恐妻家で間違いなしってか?
ここまで言うと端からでも理解できただろう。そう、俺の家族は武家として恥ずかしくない実力を持っている。俺以外はね。
けど俺だってこのままで良いとは思っちゃいない。何とか皆を見返したいさ。そこで俺が思い付いたのが……
★★★★★
「――ん? 誰か来たと思ったが……気のせいか」
書斎で筆を走らせている父上ラインハルト男爵の目を盗み、とある鍵をゲット! すぐさま書斎を後にし、宝物庫へと急ぐ。
そう、俺がくすねたのは宝物庫の鍵だ。
「誰もいない……な。よし!」
誰にも見られてないことを確認し、宝物庫へと侵入。目当ての物を探し始める。何でも身に付けた者の能力を最大限まで引き出してくれるマジックアイテムが有るらしいんだ。
「確か【覚醒の腕輪】っていう七色に光る腕輪だったはず……けどそれっぽい物は見当たらないなぁ。あ、まさかアイリの奴、俺にガセネタを掴ませたか?」
唯一の不安が情報の出どころだ。あんだけ自信満々に語ってたからには本当だと思いたいが。
しかし手当たり次第にいかにもな木箱を開けて回るも、どれも空振り。
「はぁはぁ……、疲れてきた。ちょっと一休みするか。ちょうど飲み物もある事だし、休憩休憩っと」
近くに有った赤い液体の入った薬瓶を手に取り壁に寄りかかる。
「宝物庫に有るくらいだ、とてつもなく美味に違いない。ンク、ンク――」
喉が渇いていたこともあり、一気に飲み干す。そして空になった薬瓶を床に置こうとしたその時!
ドクン!
「ヒグッ!?」
一際大きな鼓動を感じて息が詰まる。まるで自分の中で別の生き物が呼吸をしているかのような感じだ。けれど異常はそれだけじゃない。同時に身体全体が強烈に熱くなり、激痛まで走る。
ズキズキズキズキズキズキズキズキ!
「アガッ……ガガ……」
このままじゃマズイ、最悪は死んでしまうかも! でも助けを呼ぼうにもまともに喋れず、やがて激痛によって意識を手放してしまうことに。
が、しかし、これこそが俺にとってのターニングポイントというやつであり、次に目覚めた時には底知れぬ魔力が身体中を纏っているのであった。
登場人物紹介
名前:バースト・J・キルロード
性別:男
年齢:13歳
種族:人間
備考:本作の主人公。武家であるキルロード家の末子。生まれつき身体が弱く非力なため、家族からは猛烈に庇護されている。その反面、他貴族からはキルロード家の出来損ないという目で見られており、同世代の友人は少ない。
ある日、自宅の宝物庫に有った怪しげな薬を飲んだ影響で、驚異的な魔力を有するようになる。
名前:ルドラス・J・キルロード
性別:男
年齢:15歳
種族:人間
備考:バーストの2つ上の兄でキルロード家の四男。物腰が柔らかいためか、バーストやアイリからは舐められている節がある。正義感が強く、将来は騎士団入りを果たして帝都の平和に貢献しようとしている。
名前:アイリ:J:キルロード
性別:女
年齢:14歳
種族:人間
備考:バーストの1つ上の姉でキルロード家の四女。年齢の近いバーストやルドラスをからかったりトラップでイタズラしたりと小悪魔的な性格。自作でマジックアイテムを組み合わせたトラップ戦術を得意としており、その才能はピカイチ。将来は世界中を旅するトレジャーハンターに成りたいと思っている。あまり知られていないがキルロード家では一番の才女でもある。




