ミッドナイト・ロマンス
珈琲ポットにお湯を注ぐと、コクのある珈琲の香りが漂い始める。ぽた、ぽた、と焙煎した珈琲が一滴ずつカップへ落ちてゆく。
豆球が仄かに部屋を照らしている。
窓からは月光が静かに差し込む。
小さな骨董品をコレクションした棚にはラジオを置いている。そのラジオをいじって、丁度音楽を垂れ流している局に合わせた。
ノイズが混じって聴き取りにくい。
『I─Iove,so ──went you─』
それをBGMに、豆球の元、小説を広げて読み耽る。
そろそろだろうか、と珈琲ポットを覗いてみると、いい感じに出来ていた。
まだ温かい珈琲をマグカップに注いで、啜る。ホッとして溜息が零れる。
本に視線を戻し、再び読み耽る。
ラジオの音楽コーナーは終わり、パーソナリティが雑談をしている。
『That's right──when─goin─fo─』
※
私は珈琲について全く詳しくない。
骨董品を集めるほどお金に余裕は無いし、ラジオも通勤時の車内でしか聞かない。
『皆さんから頂いたお便りを紹介致します』
このコーナーを聞いていると、時たまかなり面白いものがある。とはいえ、わざわざラジオを聞くためだけの時間を作ろうとは思わない。仕事の色々でそんな余裕は無いからだ。読書も然り。
『ラジオネーム○○さんからのリクエストです』
その言葉に続き、最近流行りの音楽が流れ始める。
『I─Iove,so ──went you─』
しんみりとしたオシャレな曲だが、歌詞の内容は一切分からない。聞き取れないところも多々ある。英語は学生時代の苦手教科だった。
それでも、私のロマンは夜の海外にある。
今夜も和室で独り、敷布団に寝っ転がって、妄想してみる。