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シーシャはアートだ。

「…ということがあったんですよ。」

私は先日香水系のシーシャを作ったことをオーナーに話し、鼻が利かなくなっていることも話した。

「なるほどね…。」

オーナーは何かを考えている。どきどきした。もしかしたら、クビ?香りの分からない人間なんていらないだろう。

「よくがんばったね。」

オーナーは微笑んだ。

「今はボクさんにとってすごく大変な時期かもしれないけど、でも僕は牧さんを信じてるよ。」

「えっ、それってクビにはしないってことですか…?」

思わず聞くと

「クビ?考えたこともないよ。」

キョトンとした顔でそう言われた。

「頼りにしてるよ。」

温かい顔でそう言うオーナーが神様に見えた。

そういえば、ふと思う。

「オーナー、新しいメニューを考えたんですけれど、聞いてもらってもいいですか?」

「うん?どんなの?」

「バタフライピーっていうお茶なんですけど…。」

「バタフライピー?」

「はい。お湯を注ぐときれいな青い色のお茶なんです。一応、ハーブティーの部類なんですけど、レモンを入れるとピンクに変わるんですよ!」

「それは…おいしいの?」

「味というよりは、見た目を楽しむハーブティーですね。けどこの店の雰囲気にも合ってると思いますし、レモンも生のレモンだと原価が高そうですが、レモン汁のポーションも売っていますし…。」

私はアピールした。この店はそもそもお客様が少ない。だったら客単価を上げた方がいいのではないだろうか。原価計算をしていたオーナーが顔を上げた。

「うーん、ポーションでも少し高いし、そもそもバタフライピー自体も高い。一日どのくらい売れる計算してる?あといくらくらいで売る予定?」

「値段は800円くらいかな、と。一日どのくらい出るかまでは計算していません…。」

「800円だとうちで出してるアルコール類と同じ値段だね。ノンアルコールでその値段を出すお客様って何人くらいいると思う?」

「それは…。」

そこまでは考えていなかった。

オーナーはお店の利益をほとんど追求しない人だ。

私だったらもっと営利目的にするのに。

「そこまで考えて、僕を納得させられたなら、バタフライピーを出してもいいんじゃないかな。」

オーナーはにっこりしてそう言った。

「この店は居心地の良さを追求してるから、それを第一に考えたいんだ。」

オーナーは、そうぽつりとつぶやいた。


オーナーとは古くからの知り合いだ。昔の店にいた頃から一緒に働いていて、二人とも上の指示に従うのが苦手だった。そんなオーナーが独立を決めた時、一緒に店をやらないか、と誘ってくれたのだ。

その時の店長は営利ばかりを追求したシーシャ屋さんを運営していて、その店長が

「もっと効率的にやろう。」と言ったのに対し、今のオーナーが

「シーシャはアートであって、数字じゃない。」と反論した。当然大げんかになり、他のスタッフたちが二人を止めたことは言うまでもない。

私もどちらかと言えば営利も追求したいタイプだが、同時においしいシーシャを作ることに妥協したくはない。その考え方があったので、今のオーナーについてきた。それに、オーナーの言葉が心に残っていた。

「シーシャはアートであって、数字じゃない。」

確かに作る人によって、同じフレーバーを同じグラム数使っても全く違う味になるのがシーシャだ。それは、同じ絵の具を使っても描き手によって全く違う絵が描けてしまうように、まさにアートだった。そうだ。私はオーナーのそういう考え方に惹かれたんだ。

お客様がやってきた。私はフロアに出て接客をし、オーナーはパソコンを使って仕事を始めた。

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