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誰かの日記 二冊目

 何故、こんなことになったのだろう。


 何故、こんな目に遭わなければならなかったのだろう。


 彼なら、この村を上手く導いてくれただろう。けれど、奴は、その責務を果たそうとはしない。なのに、奴の働きのせいで、この村の者たちは堕落してしまった。

 金はある。仕事もある。後は娯楽があれば完璧だった。しかし、村にやって来るのは行商だけだ。当たり前だろう、この村は、金のなる木なのだから。だから、金に目のくらんだ奴らが集まってくる。奴の作り出す数々の薬は、多くのものを魅了したからだ。

 だから、奴さえ入れば、この村の者は、生活が出来てしまう。それくらい、潤ってしまった。


 なのに、なのに! やるべきことは牧場なのだ! 家畜を育てなくてはならないのだ! 何もせずに、ただ奴の恩恵だけを受けて生きていられる奴らが、そんな仕事になんか熱を持つものか! 奴の顔を立てるだけに、表面上はやっているだけだ!

 なのに、なのに! 我々にとってはやってもらわなければならないのだ! 何かミスがあれば、何か不都合があれば、人よりも多く群れている家畜たちが、次々に魔物へと身を堕とせば――。


 だから、奴らには働いてもらわなければならない。働いてもらうためには、私は、私達は――、道化を演じなくてはならない。


 何故、こんなことになったのだろう。


 彼は知識を持っていたから、当然その危険さを解っていたから。自分がいれば大丈夫だと過信を持ってしまったから。だから今、一人で責任を背負っている。愛するものを手放してでも、この村の平和を守っている――。



 ベッドで眠る彼女は、穏やかな顔を見せている。この時だけだ。平穏は、この時だけなのだ。そっと、彼女の大きくなった腹を撫でる。せめて、この子の幸せを。


 私は、もう駄目だろう。彼も、もう抜け出すことは出来ないだろう。だから託そう。聡明な子だ。きっと、いつか、この町を変えてくれる。どうか、彼のことを。彼が旅立った時の気持ちを思い出せるよう。


 あとは、託そう――。

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