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一章 ――二――

 牧場の町〈グラスポート〉。広大な山の裾野に建つその町は、幾つかの牧場に囲まれた町だった。

 川沿いに造られた木製の門を抜け、目に着いたのは乗り合い馬車の駅。待機していた馬は壮健でがたいも良く、食べても美味しいとタケシュが言っていた。この町の名物の一つだそうだ。

 その馬が引く馬車は町の中を回るものらしく、なだらかな丘を切り開くように出来た町を自由に移動できるよう、力のある馬を使っているのだという。馬車は人が乗る座席よりも荷物を置くスペースの方が広く、主に牧場へと向かうのに利用することが多い。観光客も利用できるが利用料金が高く、乗らなければ移動できないほど広い町でもないため、利用は専ら料金が免除される町民くらいとのこと。

 如何にこの町は凄いのか、それを延々と繰り返して自慢をする彼に内心うんざりとしながら、私達は町の北側に建つ教会へと辿り着いた。


「初めまして、神父様。祈祷の旅をしているイノリと申します。こちらは護衛のタンと、冒険者のミユです」


 出迎えてくれた神父に自己紹介をして、この町にやって来た経緯を説明する。テキパキと部下に指示しているのを見ると、ここに配属されて長いのだろう。伸びた白い髭はその年月を表しているかのようだ。


「まだ若いのに祈祷の旅とは。余程優秀な回復魔法を扱えるのでしょう。回復魔法は祈りとは違い、性別、才能、修練に左右されますからな。男はこうして神父となり教会へ。女性は年を取る毎に力を増して旅から旅へ。しかし私も若い頃は男でありながら才能に恵まれ、旅に出ることを許されたものです。仲間は前衛後衛バランス良く選びまして――」


 神父様の執務室に通された後に始まった話は、とても長くなりそうだった。私はバレないように手をかざして小さく欠伸をしながら、本屋があったらよってみたいと、今後の計画を立てる。

 この長い話を聞いていると思う。近所のお爺ちゃんは話が短かったと。昨日の晩御飯は何を食べたのと聞けば、なんだと思う? と返される。唐突なクイズかと悩んだ末に、野菜炒めだと答えてみれば。――正解は憶えていない、とさ。話は短いのに少々クセがある。長い話を聞くのとどちらがマシなのかは、ちょっと答えに困るかもしれない。


「――そうだそうだ。少し頼まれごとを引き受けてはくれないものか」


 そう唐突に言葉をかけられたのは、落ちようとするまぶたと格闘を繰り広げていた真っ只中であった。慌てて居住まいを正すと、両隣に座っていた仲間が笑いを零すのが横目に見えた。


「なんでしょう?」

「ところで、毎年教会の本部、大聖堂にて行われる献肉(けんしし)の儀についてはご存じですかな?」


 なにを当たり前のことを、と思ったが、わざわざ訊くということは、睡魔と闘っていたことはバレていたのだろう。こちらにボールを投げて、しっかりとキャッチボールをしたいとの考えがあるようだ。コホンと咳払いをした後に、私は声高らかに説明を始めた。


献肉(けんしし)の儀とは、神の大好物だと伝わる肉を献げる儀式である。その肉は毎年品評会で入賞したものが選ばれ、聖職者の試食を持って決定となる。まぁ、儀式に使われるのは、同じ生産者が育てた家畜なのですけど。儀式自体は華やかなもので、春の風物詩としても人々に知られていますね。その時期には肉がよく売れるとか」


 おまけに、選ばれた牛を生産した者は、その年を代表する――いわゆる年男、年女と呼ばれる存在になり、その人が住む町には神の加護が与えられるとされている。とても栄誉なことであり、その町の発展は約束されたようなものだ。


「素晴らしい。まだ若いのに勉強熱心ですな」

「私はもう十八です。見た目ほど若くはありません」


 別段背が低いことは気にしていないが、子供扱いを甘んじて受け入れるほど達観はしていなかった。可愛いね、と言われて、どこが? と問い掛けた時、サイズ感等と言われれば思わずスネを蹴り飛ばすほどに。


「では酒は大丈夫ですかな? 十八を過ぎれば、月毎の献酒(けんしゅ)の儀で飲むこともありましょう」


 両隣から笑いが漏れた。顔を赤くして口数が減る姿を思い起こしたしたのだろう。それくらい酒には弱かったから。

 しかし、酔って暴れたり絡んだり、面倒なことにならないだけマシだと思う。私は静になるのだよ? 笑うことも泣くこともなく、静にお酒を飲むだけなのだ。自分的には周りに迷惑をかけているわけではないのだけど、……心配になるから気を付けてくれ、とのこと。自分と他人の温度差ほど、難しいものはない。


「回復魔法の影響でしょう、聖職者は様々な異常に対して耐性を持つ。それは年を重ねる毎に増すのであって、酒で酔うならまだまだ若い証拠。そこは意地を張らずに受け入れることです」


 説教臭さに口を尖らす私の姿は、まさに子供のように見えたことだろう。神父様は笑顔を浮かべながら、咳払いをしてようやく本題へと入ってくれた。


「まさに今日が試食の日なのです。ですが、町の者が亡くなった日の夜には、神父が教会にて祈りを捧げるのが決まりなのです。ご存じですかな?」


 存じております。なんてことをムキになってストレートに言ってしまえば、また子供扱い受けるのだろう。私は静かに頷き、わかりましたと返事をした。若い聖職者と会話をするのは久しぶりなのだろう、言葉の端々に試すような物言いが含まれているような気がする。

 要は、自分の代わりに試食をして欲しいという話なのだ。そうでなければ、わざわざ儀式の話をする必要なんてない。道中タケシュが言っていた特別なものが食べられるかもしれない、と言う話も、ここに繋がっているのだろう。

 場所は町長が住む屋敷にて行われ、様々な調理法を持って鮮やかな料理となったこと肉を食するのだという。護衛の二人も一緒でいいそうなので、昼食を抜きにした甲斐があったというものだ。失礼な言い方ではあるが。後は宿の手配をするだけか。……いや、晩御飯てして見て良いんだよね?


「試食会って初めてなんですけど、どのくらいの量を食べるんですかね? 腹八分目くらい?」

「食べ切れなければ残しても良い、というくらいか。もっと食べたければ、おかわりをねだってもいい」

「なるほど。……因みにこの町の飲食店って、夜でも開いてます?」

「え、どんだけ食べる気?」


 もしもの時のことなので、他意はないです。多分満足できるだろうけれど、お肉ばかりだと別腹が疼くと言いますか。せめて杏仁豆腐やらサイダーやらと言った、さっぱりしたデザートや飲み物が欲しくなる。


「この子、食事をすると別腹が疼くと言って、甘いものや甘い飲み物が欲しくなっちゃうんですよ」ミユが呆れたように言う。

「むしろ、食事より大量に食べてしまいます。菓子類の保管場所には頭を悩ませておりまして……」これまたタンが呆れたように言う。

「若いですなぁ」そして神父が朗らかに言う。


 そうは言うけど大人だって、酒を飲んだ後に締めのラーメンを食べるじゃないか!

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