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桜と君と僕

作者: 雨水 音

皆さまどうも。お久しぶりです、雨水音です。実は四月頭から、作者は新しい環境に身を置き始めました。何やら新しいシステムだとか生活リズムだとかになり、全く慣れず、家に帰って早々寝るという生活を繰り返していたため、執筆する時間が全くと言っていいほどありませんでした。それもようやく慣れのおかげか余裕ができ始め、ちょこちょことこの短編を進めていました。奏くんと涼ちゃんの物語です。連載していた「海へ」のほうも、また少しずつネタが思い浮かんできたので、もしかしたら近いうちに最新話を投稿できるかもしれません。それでは、本編どうぞ。

 登場人物


夏目(なつめ) (すず)

本好き根暗ド陰キャ。引っ込み思案で気が弱く、人と深くかかわることを恐れている。

冬崎(ふゆざき) (そう)

物静かな読書少年。クラスでは目立つタイプではなく、ひっそりと生きている。

 桜と君と僕


これは、僕と涼が二年生に進級する直前の話。

その日は交際を始めてから、三カ月。僕たちは県内の桜の名所に足を運んでいた。夜はライトアップされて、デートスポットにぴったりなのだそうだ。今日をとても楽しみにしていたし、もちろん今現在、とても幸せな気分に満たされている。けれど、心のどこかに何かが引っかかっていた。

最近僕の思考はおかしい。涼に会う度、更に好きになるし、誰にも見せたくないと思ってしまう。ずっと僕だけの涼でいてくれれば、それでいいと。僕以外の異性と話しているのを見ると胸のあたりがもやもやする。いわゆる、独占欲という奴だろうか。これまで知らなかった感情に戸惑うばかりだ。しかも、どうやらこの感情は制御がとても難しいらしい。涼は気付いていないけれど、かなり顔に出ていると思う。 

涼は僕と出会ってから、少しずつ変わり始めた。光のなかった瞳には柔らかな明かりが灯り、ただ真っすぐだった美しい髪は、緩く巻かれるようになった。黒っぽい私服が多かったけれど、白や水色みたいな、爽やかな服を着るようになった。なにより、笑顔が増えた。僕に向けて微笑みかけるその笑顔は、花が開くみたいだった。性格も少しずつ明るくなって、クラスメイトにも徐々に心を開くようになった。最近、親友と呼べる友達が出来たらしい。

それは僕としても嬉しいことだし、段々可愛くなっていく涼を見るのはとても楽しい。けれど、その分不安になる。いつか涼が、僕の隣からいなくなってしまうんじゃないかと。

そんなふうに思っていた、最中のデート。

「見て、奏くん!桜、すごく綺麗だよ!」

彼女が本当に嬉しそうに笑うから、僕もつられて笑った。

その時、風が吹いた。春風が桜の花弁を攫って、空へと消えていく。と同時に、僕は不安に駆られた。この風と、桜と共に、もし涼が僕の目の前から消えてしまったら。そう思ってしまった。咄嗟に涼の細く白い手首を掴む。

「……奏くん?」

足が震える。指先が冷たくなる。嫌だ。怖い。涼がいなくなるなんて耐えられない。涼がいない人生なんていらない。その細く脆い手首だけでは涼を繋ぎ留められないような気がして、僕は涼を抱きしめる。涼がこの腕の中からいなくなってしまうことが無いように、強く、強く抱きしめる。

「へぁ……⁉そ、そそ、そ、奏くん⁉あの、えっ、……奏くん?」

「……ごめん。涼が、いなくなっちゃいそうで。怖くて……、そんな訳ない、のに。ごめん。こうでもしないと、涼が消えちゃいそうって、思った……」

ああ、僕らしくもない。こんなに取り乱すなんて。それぐらい、今の僕はどうやら情緒不安定らしい。指先の冷たさが治らない。頭の中が不安でぐちゃぐちゃに埋め尽くされる。もういっそ、涼がいなくなってしまう前に、僕が、この手で。

ふいに、頭に何かが触れた。涼のもう一方の手だった。涼が、僕の頭を撫でている。

「ねぇ、奏くん。私はいなくなったりしないよ。ずっとずっと、貴方の隣にいる。大丈夫だよ。だから、……そんなに、泣かないで」

涼の言葉が飲み込めなかった。泣かないで?誰が、泣いている?その時、頬が濡れていることに気が付いた。視界が滲んでいることに気が付いた。ああ、そうか。僕は、泣いていたのか。どうして泣いているんだろう。どうして、涙が止まらないんだろう。涼と出会ったあの日、あの時みたいだ。でも、あの時と僕たちの立ち位置は逆転している。

「奏くん。こんな時に言うのは変かもしれないけど……私ね、一生、死ぬまで奏くんの隣にいたいよ。奏くん以外なんて考えられないよ。絶対、奏くんの隣からいなくなったりしないから」

僕はさっき、優しさの塊のような彼女になんてことを考えていたんだろう。「この手で」という言葉の先が恐ろしくて仕方がない。涼に謝りたかった。でも、僕の口からは嗚咽しか出てこなくて。涙が枯れるまで、僕は鈴の腕の中で静かに泣き続けた。

それから僕は地面に頭を擦りつける勢いで謝罪の意を示した。いや、実際には涼に止められたけど。そういえば、ここ最近涼が他の男と話しているのを見る機会が多かった気がする。自分でも気が付かないうちに、不安が降り積もっていたのかもしれない。

日が沈みかけたころ、涼を彼女の家まで送り届けた。

「……奏くん」

名前を呼ばれて振り向く。すると、僕の目の前に涼の漆黒の瞳が映っていた。唇に、柔らかくて甘い何かが触れていた。十秒経たないくらいで、それは離れていった。そして、僕の耳元で、小さな囁きがひとつ。

「愛してるよ」

その言葉で、全てが満たされていく。仄暗い感情も、自己嫌悪も、全部消え去っていく。彼女の一言で、救われる。ああ、やっぱり。僕には、彼女しかいない。







神様がいるなら、どうか、どうか、これから先も、僕と涼を一生隣に居させてください。


ヤンデレ重めな奏くんが書きたかった。

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