とある自称犬派の少女の日記
15年5月□日
最近下僕の様子がおかしい。
放課後、いそいそと姿を消す。
私の世話をせずに放置するとか許されるわけがない。
当然私は下僕の後をつけた。
下僕の向かった先は近所の公園の片隅だった。
どうやらそこで捨てられた仔猫の世話をしている様だ。
忠誠心の強い犬ならまだしも気まぐれが売りの猫などという身勝手な生き物を可愛がる気持ちがわからない。
何より分からないのは下僕の隣にいる第一発見者と称する隣のクラスのぶりっ子女の存在だった。
ぶりっ子を餌に私の下僕を好き勝手に使う事は許されるはずがない。
私は執事のセバスチャンに仔猫の始末を命じた。
きっと明日にはあの場所から仔猫は姿を消すだろう。
15年5月◆日
今日も下僕の様子がおかしい。
問い詰めると、皆んなで内緒に飼っていた仔猫が居なくなったという。
私にまで内緒とはどういう事だ?と問い詰めると、私に話すと大人にバレるから内緒にしていたと言う。
大人の庇護下にある我々は大人への秘密を持つより、まず第一に相談して頼るべきだという事を知らないらしい。
私の下僕の癖に不勉強なのがムカついた。
心を落ち着けようと私の横でくつろぐエリザベスの背を撫ぜるとエリザベスは全くの同意だと『ニャー』と声を出した。
全く、エリザベスの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
15年7月■日
あいも変わらず下僕の様子がおかしい。
せっかく私の部屋に招待してエリザベスの可愛らしいさを教えてあげようとしたのに、以前皆んなで飼ってた仔猫の方が可愛いと言い張る。
毛並みといい体躯といいエリザベスの方が優っているのに認めようとしない。
まさか頭だけではなく視力まで悪くなっているとは思ってもいなかった。
セバスチャンに良い眼科を調べさせた。
明日から下僕を通院させる事にする。
17年9月◇日
今日は下僕が朝の迎えに来なかった。
クラスイベントの準備が忙しくて早出したとの事。
昨日は何も言っていなかった癖に。
そのせいで遅刻しそうになった。
これも全て下僕のせいだ。
19年6月△日
最近下僕の様子がおかしい。
たまに私が声を掛けても上の空でろくな返事をしない事がある。
普段ならば私に声を掛けられたくて私の側をウロウロしている癖に。
調べてみると、どうやら隣のクラスのぶりっ子にうつつを抜かしているらしい。
毎週の様に男を取っ替え引っ替えアクセサリーの様に扱っている女がタイプとか頭が悪すぎて呆れて物が言えない。
しばらく顔も見たいと下僕に接近禁止令を出した。
22年10月▼日
今日も下僕の様子がおかしい。
下級生の女に呼び出されて告白されたそうだ。
当然即答で断ったのかと尋ねたら、可哀想だから保留にしているとの事。
可哀想という意味がわからなかった。
自分に酔う様な馬鹿は近寄るなと罵っておいた。
エリザベスも同意だと『シャー!!』との掛け声と共に下僕の顔にXの引っ掻き傷をつけていた。
24年4月▲日
致命的に下僕がおかしい。
念願の彼女が出来たと叫んでいた。
結婚の約束をしていた女の存在すら忘れている頭の悪さに呆れた。
隣でエリザベスも『ニィー』と鳴いている。
26年8月▽日
救いようのない程に下僕がおかしい。
お父様の紹介の就職先を断ったようだ。
自分の力でのし上がってやる!と叫んでいた。
どうやら本気で結婚の約束をした女の存在を忘れているらしい。
彼女との仲も順調なので就職が決まったら同居すると触れ回っている。
羞恥心も無くしたようだ。
私の隣でエリザベスが大人しくしている。
29年5月◯日
どうやら下僕は頭がおかしい様だ。
私に結婚式の招待状を送って来た。
私が下僕の結婚式に出るはずがないのは知ってるはずなのに。
私の隣でエリザベスがスヤスヤと眠っている。
29年6月×日
今日は下僕の結婚式だ。
ついに下僕は私から卒業したのだ。
私から解放されたとも言える。
私は下僕の結婚式には行かなかった。
その代わりにエリザベスの墓前にいた。
エリザベスは気高く、最後まで苦しみを見せずにあの世へ旅立った。
私も気高く生きようと思う。
何度もお父様から勧められていた縁談を受けることにした。
来年の春先には私も嫁いで行く。
幼少期にした約束したすら忘れる様な薄情な男は解放してあげる。
固執するのは今日までよ。さよなら、下僕。
翻訳版
小学1年5月
幼馴染が姿を消して、先に帰った。ずっと待っていたのに。
次の日、こっそりあとをつけた。
公園の片隅で捨てられた子猫に餌をやっていた。
幼馴染に好意を振りまいているぶりっ子が隣にいる。
給食の残りのパンと牛乳を子猫にとっては猛毒だと知らずに無邪気に与えていた。
それを執事から聞いた私はすぐに子猫を保護するように命じた。
子猫の里親がすぐに見つかればいいけど
翌日
今日も彼の様子がおかしかった。
動揺してる彼に聞くと、大人に内緒にして餌をあげていた捨て猫がいなくなったという。
保護されたという考えには思い当たらないらしい。
私を仲間外れにしたのかと聞くと、大人にバレたくないから子どもたちだけで秘密を共有したという。
必要なら大人に救いを求めるのが正解だと思うのだけど、大人ぶるだけで考えることを放棄している彼にがっかりした。
昨日から増えた家族が、やっと膝の上に乗ってくれた。
二月後7月
すっかりと見違えるほどにコロコロになった家族を彼に紹介しようと自宅に招いたが、かの一件に対して薄情だと言い放ち拒絶する。
もとより仲間はずれにされていたのはこちらなのに……
頑なに思い込んだら考えを変えないところは昔から変わらない。
落ち着くまで少し距離をおこう。
寂しいけれど、もう私のそばには彼女がいる。
小学3年9月
ついに、朝一緒に登校する約束すら破られるようになった。
これでは小さい頃に交わした約束すら覚えているか定かではない。
ギリギリまで彼を待っていたので遅刻した。
自分の責任だから仕方がない。
明日は今日より5分早く出ることにする。
小学5年6月
年頃とはいえ、おませな女子たちのあざとさにすっかり虜になってしまったようだ。
以前の彼なら、こちらから話しかけてれば、少し照れて嫌々そうな顔を見せても、きちんと対応してくれていた。最近では完全に聞こえないふりをして無視をしてくる。
中学2年10月
放課後、クラスの女子と親密そうな話をしていた。
何気なく見ていると告白シーンだった。
存在そのものをいないものとして扱われていることに少しショックを受けた。
彼女が涙の跡を舐めてくれるのがくすぐったくて心地よかった。
高校1年4月
少し嬉しそうな様子で私に声をかけてくれた。
いや、誰でもよかったのだ。ただ惚気たかっただけ。
彼女ができたと嬉しそうだった。
部屋で落ち込んでいると彼女が慰めてくれた。
高校3年8月
進学しないというので、心配していたら
早く大人になるんだ
という趣旨を語っていた。
彼の頭の中は経済力だけが大人の基準のようですこし悲しくなった。
私が知っていた幼馴染はもういないんだと実感させられた。
もう彼女もすっかり円熟して昼夜問わず寝ている。
短大卒業後の5月
彼から結婚式の招待状が届いた。
すっかり疎遠になった幼馴染が出れる場所ではない。
なぜ送ってきたのだろうか?
彼女の起きてる姿はめっきり見かけなくなった……
翌月6月
彼の結婚式当日。
彼女の墓にお参りした。庭の片隅の小さなお墓。私の青春を一緒に過ごしてくれた彼女。
最後まできちんと見送ることができてよかった。
いつだって自分のプライドを曲げなかった彼女のように、私も閉ざされた檻の中で精一杯に生きることを墓前で誓った。
来春には結婚するだろう。
今は見合いで忙しい。
私自身を見つけてくれる人がいるといいのだけど。




