8_弱者の味方
ノアとセシルは子供たちが乗せられた幌馬車を、半日ほどかけて隣の村の街道沿いにそっと放置して、アストリアへと進路を戻す。
幌馬車を引いていた1頭の馬はよく鍛えられておりアストリアへ到着する時間を大幅に削減してくれた。
アストリアまであと徒歩で半日ほどの距離まで来て、乗っていた馬を野に返した。
ただ荷を運ぶ馬にしては筋力がつき、体格が立派すぎる。
どう見ても軍用の馬だ。アストリアに入る際、検問であらぬ疑いを受けることは避けたい。
「子供たちは無事保護されたでしょうか……」
「大丈夫だろう。あの村には教会があったようだしな」
セシルは道中に置いてきた子供たちに思いを巡らせる。
アストリアまで運んでくる選択肢もあったものの、今のノアとセシルの境遇を考えると、
なるべく目立つ行動は避けたかった。
それを提案したのはノアだったが、セシルもすんなりと賛同した。
弱者の味方。
ノアの、セシルへの評価はそれに尽きた。
敗走の兵には慈悲を。
無抵抗の村人へ危害を加える兵には死を。
そして、争いは好まないが、それを止めるためなら実力行使をいとわない。
そういった一種の矛盾をはらむ正義感と共に持ち合わせた、目的への合理性をノアは気に入っていた。
「お前軍人向いてるぞ」
「え?どういうことですか?」
ノアは低く笑いながら、セシルの問いには答えず歩みを進める。
セシルは持ち合わせた矛盾に気づいているのだろうかと思いを巡らせる。
行き詰まりだった、ノアの目的に、一筋の光が差したことを確信し、改めてノアは笑みをつくった。