1_ノア・スティングレイ
「グランガルーダか……こんな人里が近い森に」
青年は鳥型の魔獣にと相対しながら、そうつぶやく。
怪鳥と呼ばれ、翼を広げた状態の大きさはおよそ3馬身ほどの肉食性の魔獣だ。
国家所属の軍、一個小隊で討伐任務が組まれる難易度を有している。
本来であればもっと魔族領に近い地域に生息する魔獣である。
このような、帝国や宗教国が近い地方で発見されることはそうそうあることではない。
かつての魔族戦争時くらいのものである。
鳥型の魔獣に共通して言えることは、接近戦闘ができない点だが、
それに加えグランガルーダは鋼の翼を持つともいわれ、
極度に硬質な羽に覆われている。
青年、ノア・スティングレイは、
そんな怪鳥を目の前に、落ち着いた様子で構えた大剣をゆらゆらと左右に揺らしている。
「これでしばらくの食料と路銀にはなりそうだ」
人語を理解することはない魔獣だが、
ノアの言葉に苛立ったかのように咆哮をあげ、
上空からノアに向かって滑空する。
「よしよし、これで剣が届くな」
身の丈ほどある刀身は、傷だらけで刃の鋭さも失われているが、分厚く、超質量である。
人間が振り回すような代物には見えない。
グランガルーダの滑空に合わせ、その大きく広げられた翼に刀身を”ぶつけた”。
振り下ろされた大剣は、
怪鳥の翼を”もぎ取り”、勢いそのままに地面に突き刺さり、砂埃を上げた。
怒りか、怖れか、痛みによる悲鳴か。
もしくは、それらすべてが混ざったような慟哭を上げてのたうち回るグランガルーダの姿が、
そこにはあった。
残った片翼を地につき体制を整えようとしているが、
体の大部分を占める翼の半分が失われたことにより、
うまくバランスが取れていない。
ノアは軽々と大剣を担ぎ上げると、
いまだ立ち上がることすらできないグランガルーダに向かって跳躍した。
ノアと大剣の自重と、そんな大剣を軽々と振り回すことができる膂力をもって、
グランガルーダの首が宙を舞った。
またもや、刀身は地面に突き刺さり、翼をもぎ取ったときとは比にならないくらいの轟音が森へと響く。
「よし、鈍ってはいないようだな」
ノアは手に握られた大剣と、自分の腕を交互に眺める。
遠くの方で、魔獣ではない小さな鳥たちが一斉に飛び立っていくのが見えた。
ノアの鬼神のごとき精彩におじけづいたのか、
ただ単純に轟音に反応して逃げ去っていったのかはわからない。
「さてと……」
大剣と腕から目を離したノアは、
目の前に転がった怪鳥だったものに視線をくれる。
「こいつは腿は食えたはず……。あと嘴と羽は買い取ってくれるところがあるだろう……」
そう、ぶつぶつと独り言ちながら、
一度、怪鳥に手を合わせ、解体を進めはじめた。