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☆☆18

 ライニールさんが僕たちを連れていったのは礼拝堂だった。そこに避難してきた人が犇めいている。

 でも、その中の椅子をライニールさんは丁寧な対応で譲ってもらっていた。そこにヘルトさんを寝かせる。


 ヘルトさんはまだ意識がなくて、ライニールさんは心配そうにヘルトさんを見ていた。

 副官だもん。特別だよね。

 改めて見ると、二人とも汚れてるけど絵になる。ここが礼拝堂だからか余計に二人は一枚の絵画みたい。

 ほんとは師匠以上に似合うのはわかってるけど、ライニールさんにその気がないんだから。


「どうしてヘルトがいるんだ?」


 ライニールさんがボソリと言った。

 あなたがお見合いするとか言ったから、僕たちが傷心旅行に付き合ってたんですよって言ってやりたいけど、それをグッと押えた。


「……ヘルトさん、休暇の使い道がないって言うから、僕と師匠と三人であちこち出かけていたところです。それがたまたま、こんなことになって」


 それだけ言うと、ライニールさんは黙った。

 なんとなく怒ってるような?

 もちろん、その怒りは僕に向いたものじゃないけど。


「リュークと合流してくる。君はヘルトについていてくれ」

「駄目ですよ! ライニールさんこそヘルトさんについていてください」

「だが――」

「いいから、いてください!」


 僕は勢いで礼拝堂を出てきた。

 ――痛い。腕が痛い。歩くと響く。

 こんな状態で何をしようって言うんだ、僕。


 でも、外へ出た途端に空の上で繰り広げられている戦いが見えた。上空で風が渦になってクラ―ケルを巻き上げている。クラ―ケルたちに火がつき、火炎が車輪のようにして輪を描いた。


 空が、明るい。

 師匠の仕業だろうなぁ。

 あんなことができる人、そんなにいないだろうし。


 僕が礼拝堂の正面でぼんやりと空を見上げていると、クラ―ケルを呑み込んだ火炎が消えた。灰さえも残さず駆逐した。

 この時になって、師匠がフッと僕の前に現れる。


「レフィ」

「ししょぉ……」


 師匠の顔を見た途端、堪えていた涙がまた溢れそうになった。師匠もさすがに疲れたみたいだったけど、この時、師匠だけじゃなくて余計な人まで湧いて出たんだ。

 フッと、師匠が現れる時と同じような感じで僕の背後に湧いた。


「緊急事態だというから飛んできたら、こんなところに君がいるなんて」


 ねっとりと嫌な声が。

 振り向かなくてもわかる。ルーベンス団長だ。

 嫌な時に出てきたなぁ。師匠の顔が一瞬でげっそり、疲れ倍増したよ。


「他の連中は長距離移動なんてできないし、いくら私でも一人で飛ぶのが精いっぱいだ。君みたいに他人まで運べないよ。近くの砦に駐屯している騎士団の連中がこちらに向かっているそうだけど、遅い上に役立たずだから一人でどうしようかと思っていたところに君がいた。さすがと言うよりないね」


 たまたまです。

 別にここに危機が訪れそうだから来たんじゃない。巻き込まれただけなんですって。


 そんなこと言っても、団長さんは都合のいいようにしか解釈しないんだろうけど。師匠、もう細かい説明とかする気なさそうだ。ひたすら嫌な顔をしている。


 団長さん、僕のことなんて目に入ってないんだよね。ちょっと脇に逸れていようかと思ったら、急に首根っこをつかまれた。


「い、痛いですよっ!!」


 僕は思わず喚いた。ほんと、涙が出るほど痛い。

 腕が痛いんだって!

 でも、団長さんは顔をしかめた。


「大げさな子供だな。まあいい、お前を魔術師団に入れてやると言っただろう?」

「はっ?」


 言ったかもしれない。適当に流したかもしれない。

 痛みで頭が朦朧としてきた。冷や汗が滲む。

 団長さんはそんな僕に構わず、師匠に向かって言った。


「ほら、この子供も魔術師団に入れるから。だから、戻ってきてくれ」


 しつこい。

 ほんと、しつこい。

 僕は痛みに耐えながら、渾身の力を込めて団長さんを突き飛ばした。


「師匠が嫌だって言ってるんだから諦めてください!」


 団長さんはあっさりと僕の首根っこを放し、僕は地面に転がった。言うまでもなく、気を失うほどの激痛が走って、僕は悲鳴を上げたんだと思う。ちょっと、自分でも意識が曖昧だ。

 でも、すぐにこの痛みから師匠が解放してくれた。


「குணமடையுங்கள்」


 疲れているのに、すいません――。

 まったく、世話の焼ける、とかそんなことを言われると思ったのに、師匠はいつになく優しい表情で僕の頭に手を置く。


「よく頑張ったな」


 褒めてくれた。

 痛いの我慢したよ。すっごく。

 師匠、ちゃんとわかってくれてるんだ。


「し、ししょぉ……」


 なんか気がゆるんでわんわん泣いてしまった。でも、いいよね。僕、まだ十三歳だし。


 師匠が僕の頭をポンポンと慰めるように叩いている間、ルーベンス団長が物欲しそうな目をしていた。なんか、代わってほしそうだけど。

 そういうのが気持ち悪いって言われるんだって。

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