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☆☆9

 田舎者の僕は師匠を引っ張り回し、あれはなんですか? こっちは? そしてあれは? と質問攻めにした。師匠は不愛想なガイドのごとく、嫌がりつつも解説してくれた。


 あっちをウロウロ、こっちをウロウロしているうちにいくつかの屋台が開いて、師匠は僕にベーグルサンドを買ってくれた。師匠は顔をさらしてるけど、誰だか全然バレていない。

 賢者アルハーレンの素顔を知る人は少ないんだ。


 黒コショウのきいたハムと葉物のシャキシャキした歯応えが美味しい。立ち食いしながら僕たちは公園にいた。


「ヘルトには迎えに行くと言ってあるが……」

「時間は伝えました?」

「はっきりとは言ってないが、まあそろそろいいんじゃないか?」


 朝が弱い師匠だから、朝のうちに迎えに来ると思ってなかったりして。


「とりあえず近くまで行ってみましょうか」


 僕がそれを言うと、師匠はうなずいた。けど、ちょっと動きを止めた。


「近くまで行ったら俺は離れて見ているから、お前が行け」

「え? 僕だけですか?」


 ただの子供がうろついても大丈夫かな?

 でも、騎士団の中には師匠の顔を知っている人もいるからややこしいんだろうな。


「う~ん、わかりましたけど」



 騎士団の宿舎は歩いてもそう遠くなかった。

 公園を突っ切って城に向けて歩くと、近づくほどに広さを感じる城壁があって、その左側だって。右が魔術師団だから、そちらには絶対に近づかない。


 騎士団の宿舎ってどんななんだろうって僕は興味を持って見ようとしたけど、その門の手前にシンプルなワンピースを着た女性がいた。

 淡いピンクのワンピース。白い唾広の帽子と白い靴。手には籐で編んだトランク。


 膝から下だけでも輝くような脚線美。すごい美人――と思って見惚れていたら、ヘルトさんだった。

 いつもはキッチリ結い上げている金髪を下ろしている。そうしていると、ゆるく波打っていて柔らかそうだ。


 女の人ってさ、恰好が違うだけでどうしてこう別人みたいに見えるんだろうね?

 こういう格好だと、ヘルトさんは深窓の令嬢にしか見えない。勇ましい騎士だなんて誰が思うだろう?


「ヘルトさぁん!」


 僕が大声で呼ぶと、ヘルトさんは顔をこちらに向けて少しだけ笑った。昨日の晩なんていっぱい考えることがあってろくに寝れなかったかもしれないけどさ、とりあえず今は笑ってる。それでいいよね。


「レフィくん、おはよう。今日はありがとう」


 この時、ヘルトさんは僕が背負う荷物に気づいたみたいだ。だから僕はすかさず言った。


「あの、実はですね、皆で旅行に行こうってことになりました」

「え?」

「諸事情で家を空けなくちゃいけなくて。ね、師匠?」


 近づいてきた師匠に振ると、仏頂面でうなずいた。ヘルトさんは口元を押さえ、軽く首を傾げる。


「そうなのですか? ちなみにどちらまで?」


 無計画の思いつきだから、それを言われると困る。


「それは……あとのお楽しみです。師匠にかかればどこにだって行けますから」


 僕が簡単に言ったのが気に入らないのか、師匠に睨まれた。遠くに飛ぶにはそれなりに下準備が要るんだったっけ?


「どこか希望はあるか?」


 一応、師匠はヘルトさんに向けて柔らかく問いかけた。いつもよりも少しだけ気を遣っているのがわかる。

 ヘルトさんにもそれは伝わったのかな。小さくうなずいた。


「そうですね……。コーレインの丘なんてどうでしょう? この季節、フェナの花が満開だそうですよ」

「ああ、いいですね! 行きましょう!」


 僕たち男性陣が花に興味なんてないとしても、この旅行はヘルトさんファーストで行われる。だから、どんな要望にもふたつ返事だ。

 師匠はヘルトさんの荷物を持った。僕の荷物は持ってくれないのに。


「அருகிலுள்ள மலைக்கு பறக்கவும்」


 師匠が呪文を唱えると、僕たちを柔らかな光が包む。

 コーレインの丘ってどこだったかなと考えるけど、多分僕は最初から知らない。僕の故郷の近くじゃない。もしかすると、ここからそう離れていないところなのかも。


 師匠にしてみたら、二人も三人もそんなに差がないのかな。いつもと変わりない感覚がして、僕の体はまた飛んだんだ。本日二回目。ちょっと疲れる。

 でも、一番疲れるのは師匠かな。あんまり無理させないようにほどほどにしないとね。

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