表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニセ賢者の弟子になりました  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ☆☆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/41

☆☆7

 少し抜け出してきただけのようで、師匠が追い払うと団長さんはさっさと帰った。その代わり、師匠は真冬に半袖で過ごしているのと同じくらい寒そうに身震いしていた。


 魔術師団にいたら、ずっと団長さんと一緒だもん。本気で嫌だったんだろなぁ。

 いくら好きでもしつこくしたら嫌われるって、僕が言ってあげてもいいんだけど、その後でかえって面倒くさい大惨事になるから言わない方がいいかな。


「最初はあんなじゃなかったんだ。高飛車で、とにかく傲慢で、自尊心の塊だったから、その矜持をへし折ってやった。嫌われたり恨まれたりするのは別に平気なつもりだったんだが……」

「変な方向に行っちゃったんですね?」


 師匠はこっくりとうなずく。


「ヤツはこれを『尊敬』だと言うが、絶対違う」

「う~ん」


 師匠の才能を認めて、尊敬して、すっごくして、でもって尊敬と愛情との区別があんまりないくらい好きっていう。


「そういえば、ライニールさんが、団長さんに敵視されてるって言ってましたね。師匠と親しいからですか?」

「そうだ」


 まさかのヤキモチ。

 この時、僕はちょっと困ったことになる予感がした。


「明日からヘルトさんが来るんですけど、団長さん、きっと明日も来ますよ?」


 男のライニールさんにまで嫉妬するんだから、美人のヘルトさんがここに泊まるって知った時、なんか怖いことになりそうなんだけど?

 師匠もそこに思い至ったようだ。軽く目を閉じ、身震いした。


「ヘルトに来るなって言った方がいいな」

「えっ、駄目ですよ。ヘルトさん、一人で部屋に籠ってシクシク泣いちゃうじゃないですか」


 そこで師匠は黙った。多分、師匠にもどっちがマシなのかがよくわからないんだと思う。

 でも、僕は違う。はっきりと言える。


「来てもらったらいいんです。で、皆で出かけましょうか」


 僕の提案は師匠にしてみたら突拍子もないことだったのかもしれない。ぽかんと口を開けた。


「ヘルトさんの休暇中、三人で旅行しませんか? その間、長老のことを預かってくれるところがあればいいんですけど」


 シェルトの町なら、師匠の山羊だって言えば面倒を見てくれそうな人がいそうだし、なんとかなるんじゃないかな?

 でも、師匠は長老を預けたくはないみたいだった。


「長老はデリケートなんだ。ストレスで乳の出が悪くなるぞ」


 ――デリケートかなぁ? 結構いい性格してると思うけど。


 僕がここへ来たての頃なんか、何回頭かち割られそうになったことか。

 なんてことを僕が考えているのを長老に覚られでもしたら、明日から乳絞りが大変なことになる。だから僕はソウデスネって答えた。


 師匠は少し思案するとうなずいた。


「よっぽど離れなければ俺が戻ってきて餌をやったり世話はできる。数日のことならなんとかなるかな?」

「わぁ、それじゃあ決まりですね!」


 旅行だ、旅行!


「お前の故郷は? 寄ってもいいぞ」


 故郷に未練なんてないって言いきってしまおうかと思ったけど、父さんの墓参りくらいはした方がいいのかもしれない。


「じゃあ、墓参りだけ」

「ああ。どこだった?」

「フローレクです」

「ド田舎だな」


 えっと、未練がないはずの故郷なのに、バカにされるとカッチンと来てしまうのはなんででしょう?


「そういう師匠の故郷はどこなんですか?」

「ウーレンベック」

「え? どこですか、それ」

「…………」


 もしかして師匠って、僕より田舎の出なの? 聞いたこともない地名だ。


「団長さん、朝が早いですから、僕たちはさらに朝早く動かなくちゃいけません。僕が荷造りをしておきますから、師匠は自分の身の回りのことだけ整えてください」

「夜逃げみたいだな」


 ある意味夜逃げかもしれない。


「ヘルトさんを迎えに行って、王都で鉢合わせしないといいんですけど」

「騎士団の宿舎と魔術師団の宿舎は離れているが、気をつけるに越したことはないな」


 ふむ、と師匠は唇に指の節を当てながら考える。そうしていると普通――いや、普通というのがまず似合わない美形にしか見えない。中身が伴っていないとしても。

 そうだ、僕は大事なことを師匠に言うのを忘れている。


「ああ、師匠、身支度も大事ですけど、気落ちしているヘルトさんにかける言葉は用意してくださいよ」

「うん?」

「まさか僕に任せっきりで何ひとつ慰めないつもりじゃないでしょうね?」


 嫌な顔をされた。さっき見た目だけは心の奥底で褒めたのに、台無しだ。


「相手がライなんだから、慰めてどうにかなると思うか?」


 わかってる。鈍いライニールさんだから、また何度でも無意識にヘルトさんのこと傷つける。その都度僕たちがこうして慰めていくわけには行かないんだ。


 ――そうじゃなくて、僕が言いたいのは、優しく慰めてヘルトさんの気持ちが師匠に向けばいいんだってこと。師匠はライニールさんとは違って、わかっててはぐらかしてる。


「僕はヘルトさんには幸せになってほしいんです」


 この僕の純粋な気持ちを前に、師匠は鼻面に皺を刻んだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ