1 坂道町
冬童話2021応募作品です。
よろしくお願いいたします。
本日中に3話更新、明日0時すぎに3話更新して完結します。
海の近く。
坂道がおどろくほど多いこの町は「坂道町」と呼ばれていました。
そこに坂道をとことこ歩く一匹の猫がいました。
白い毛並みに全身であんこを食べたようなブチ模様と、長いかぎしっぽが自慢の子猫です。
「にゃーん。お母さーん!」
ブチ助はひと月ほど前にお母さん猫とはぐれて一人ぼっちでした。
いつもお母さんを探し続けてずっと坂道を歩き続けていました。
ある日のことです。その日は朝からどんより分厚い雲が空を覆っていて、この町にしては珍しく雪が降りそうな寒い日でした。
「お前さん、ちょいとお待ちよ」
と、茶色くて長い毛並みの猫に話しかけられました。
しゃがれた声と白い毛が混ざった弱々しい身体。
その猫がずいぶんお年寄りなのだと分かります。
「おばあさん、だあれ?」
ブチ助が尋ねると茶色い猫は首元の赤いリボンを揺らして答えました。
「あたしにゃ茶々(ちゃちゃ)っていう名前があるよ」
茶々ばあさんはブチ助の頭をすんすん嗅ぎました。
「あたしはね、人間がめんどくさくて逃げてきたんだ。お前さん、ここいらで住みやすい場所を知っているかい?」
ブチ助もすんすんと茶々ばあさんの頭を嗅ぎました。
「知ってるよ。この町は猫に優しいんだ」
そうやって二匹は並んで坂道を歩き始めました。
ありがとうございました。
3話更新します。