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シスター ・コンプレックス  作者: 都筑耿介
1/8

兄貴が語る

お兄ちゃん


年齢がものを言う世の中だ。


兄弟ともなれば、長子はおおいなる期待を受け、下の手本となるよう言いつけられる。


つまり兄貴は妹よりも優秀であれと、そう言う話だ。


しかし読者の皆さん思い出してみてくれ。兄姉よりも下の妹弟の方が器用で頭が良くて、その上容姿端麗で人付き合いも上手い、そういうことが多いとは思わないだろうか。


私は思う、おおいに思う、そうとしか思えない。陰謀に違いないと声を上げて主張する。


だから、良いお兄ちゃんであれなど、無理な話であるのだ。兄貴とは恵まれない星の元に生を受けた、生まれながらに可愛そうな存在なのであるから。





さて、前述からなんとなく察せられるように、私はお兄ちゃんであり、三つ離れた妹がいる。


この妹の経歴を聞いて驚くなかれ。

幼い頃より神童とご近所の爺婆にちやほやされ、公園に群がる少年たちをめろめろの骨抜きにし、県内最高峰の高校に首席で合格し、高校男児どもをめろめろの骨抜きにし、今度は日本最高峰の大学に合格し、現役でインテリずらした野郎どもをめろめろの骨抜きにしている。


妹は頭がいい、その上かわいいのだ。


ここまで聞くと、なんだか私がシスコンの変態兄貴に思われるかもしれないが、そんなことはない。


私は妹を恨んでいる。


一体これまで妹のせいでどれだけ私が損をしてきたことであろう。


親戚が集まれば当然のように比較され、兄貴なのにお年玉の額を同じにされ、妹目当てのイケてる系男子に媚びを売られ、そのキラキラしい姿に怯える高校生活を余儀なくされた。まだまだある、こんなもんじゃない。


私が何をしたというのだろう。罪人の如きこの扱いが妥当であるわけがない。


究極はこれだ、小学生の時の私のあだ名が「シスコン」だったという話だ。




当時から妹の聡明さと美貌は有名であった。


妹のプライベートの姿を一目見ようと、学年問わず溢れんばかりの少年たちが我が家に集っては気持ち悪い歓声を上げた。

おかげで私の部屋はいつもむさかった。


そんなわけであるから、私は小学生にして妹を疎ましく思っていた。


そんなある日である、妹の可愛らしさ故に、クラスのとある少年が私にこんなことを言った。


「お前って シスコンだよな」


心得違いも甚だしい、真実はその真逆である。


しかし私は当時、全くもって無知な少年であった。俗世の汚れに一切触れていない少年であった。

故に「シスコン」の「コン」が、コンプレックスの「コン」であることを知っていながら、コンプレックスという言葉の意味を知らなかったのである。


いいや、知っていた。しかし私が知っていたのは、小学生向け国語辞典に載っていた「劣等感」という意味のみであったのだ。


ここでいうコンプレックスとは、愛着や執着を示しているわけだが、そんなこと小学生向け国語辞典に載っているはずがない。


私はそうとは知らずに大きく頷いた。ここに私をわかってくれる奴がいたのだという喜びのあまり、首がもげそうになるほど強く頷いた。

「妹が可愛くていいな」などという妹のファンたちよ、見よこれが私の心だ、夢から覚めるがいいという念を込めて頷いた。


そんな熱い思いを持って頷いたにも関わらず結果はどうだ、流石お兄様と肩を叩かれ笑われ、女子には白い目で見られ、翌日からあだ名が「シスコン」になった。


そのあだ名を、中学を卒業するまで呼ばれ続けたのである。




さて、ここまで語っておいて何が言いたいのかというと、何も言いたいことはない。


ただここに、苦しい運命のもとに生まれながら、もがき抵抗し、結局何も成し得ることができなかった男がいることを、知ってほしいだけである。


ともかく、私の物語を聞いてほしい。



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