ジークベルト 2
「そ、それがどうした!!確かにお前の技量は、俺様の今の力を凌ぐ!!しかしお前では決して、俺様を傷つけられないのだ!!」
向かい合ったマックスに、不意打ち気味に攻撃を放ったジークベルトはしかし、それをあっさりと弾き返されてしまっていた。
それは今の彼の実力がマックスのそれとは大きく差があると、はっきりと示している。
それをまざまざと見せつけられたジークベルトはしかし、マックスに指を突きつけるとそんな事には意味がないと断言していた。
「・・・それは、どうかな?セラフィーナ、やれ!!」
「うるっさいわね!いわれなくても、分かってるっての!!」
ジークベルトの攻撃を弾き返したマックスは、そのまま彼へと踏み込んでいく。
しかし彼の攻撃は、ジークベルトには通用しないのだ。
それなのにかかわらず、致命の一撃を加える間合いへと踏み込んだ狙いはどこにあるのか。
それは彼の背中から飛び出てきた、セラフの姿に答えがあった。
「っ!その程度ぉ!!」
マックスがギリギリまでその背中で隠した不意打ちはしかし、ジークベルトが何とか凌いでしまう。
彼はそれを必死の形相でこなしていたが、決して偶然で躱した訳ではないだろう。
ならばやはり、彼の言う通りセラフの実力では、その身体に一撃をいれる事は不可能なのだろうか。
「ちょっと、外しちゃったじゃない!!あんたの言う通りにしたけど、やっぱり―――」
「セラフィーナ、すぐに剣を返して足を狙え!!」
折角素直に指示に従ってマックスの言う通りにしたのにもかかわらず、振るわなかったその成果に、セラフは唇を尖らしては文句を零している。
しかし何も、マックスはその一撃のためだけに動いた訳ではなかった。
すぐに次の一撃の指示を出すマックスに、セラフはきょとんとした表情を浮かべている。
「えっ、えっ!?こ、こう?」
まさか次の一撃があるなど考えてもいなかったセラフは、マックスの指示に戸惑いながらも何とかそれを振り下ろしている。
それは当然、鋭くも素早くもない一撃となっていた。
「っ!?ぐうっ!!こ、小癪な!!」
しかしその一撃は、ジークベルトの足を軽く薙ぐことに成功していた。
それはダメージとしては、掠り傷でしかないだろう。
しかしここにきて始めて傷つけられた自分の身体に、ジークベルトは苦しそうに表情を歪めると、マックス達の事を睨みつけていた。
「や、やった!!やったわ、私!!ねぇ、見てたでしょマックス!!私やったわ!!」
ようやくの成果にこぶしを握り、その場で軽くぴょんぴょんと跳ねては、セラフは喜びを示している。
彼女のはその喜びをマックスとも共有しようと、そのキラキラと輝く笑顔を彼へと向けていた。
「ふんっ!まだまだだ。あのタイミングなら、奴の片足を使えなくさせる程度はやれる筈だったからな」
「はぁ!?何よ、それ!!私のやり方が悪かったっていうの!?失礼しちゃうわ!!」
しかしセラフの一撃が齎した結果に満足のいっていないマックスは、彼女の言葉に鼻を鳴らすと不満を漏らしている。
それははっきりと、セラフの対応が悪かったから結果が出なかったのだと話している。
そんなマックスの言動にカチンときたと青筋を立てるセラフは、噛み付くような距離で彼へと文句を叫んでいた。
「・・・そういったつもりだが?」
「むきぃー!!何よそれ!?そんなの、あんたの指示が分かり難いのが悪いに決まってるでしょうが!!私に文句をいうなら、もっと分かりやすい指示を出してからいいなさいよね!!」
「あれより分かりやすく?ふっ、赤ん坊を相手にした方がまだましだな」
「なぁんですってーーー!!!」
もってまわった言い方をしていない駄目だしに、まるで自分に責任がないとでも言いたげな反応をするセラフ。
そんな彼女にマックスはもはや発言を誤魔化すつもりはないと、首を傾げて見せていた。
そのマックスの反応は、さらにセラフの怒りを加速させて、彼女の声を高くしてしまっている。
それにマックスも引く様子を見せなければ、口論へと発展してしまうのも致し方ないだろう。
しかし二人は忘れてはいないだろうか、彼らがまだ戦闘中であるという事を。
「正気か?す、隙ありっ!!」
始めてつけられた傷に警戒を強めていたジークベルトは、その目の前で口喧嘩を始めた二人の姿に、目を見開いては戸惑ってしまっている。
しかしそれも、僅かな間の話だろう。
彼は気を取り直すと、自分に取ってより脅威となるセラフへと狙いを定めると、その爪を振り払っていた。
「っ!セラフィーナ!!」
「分かってるわよ!!」
セラフに向かって振り払われた爪にいち早く気がついたマックスは、その軌道を逸らすと共に彼女へと声を掛けている。
それに答えるまでもなく、セラフもまた彼と左右に別れるようにして動き始めていた。
「二手に別れて、かく乱したつもりか!?俺様にとって敵は、あんただけなんだよお嬢ちゃん!!」
敵の目の前で二手に別れるという行動は、その狙いを混乱させるためには有効な手段だろう。
しかしそれは、今回には当てはまらない。
何故ならジークベルトにとって、警戒すべき相手はセラフだけだからだ。
逆方向へと回り込もうとしているマックスを完全に無視して、ジークベルトはセラフへと狙いを定めると、再びその爪を振り下ろそうとしていた。
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