バルトルト 2
「それが狙いか!しかしその程度・・・むっ、これは!?」
頭上から襲いかかってきた刃に、刀の軌道を切り替えてそれを受け流そうとしていたバルトルトはしかし、その途中で違和感を覚えていた。
それは単純な話で、頭上から振ってくるその刃が余りに速く、鋭すぎたのだ。
「速い!?これは拙者でも・・・むぅぅぅぅんんん!!!」
降り注ぐ一撃の余りの凄まじさに、それを受け流すことは不可能だと即座に見抜いたバルトルトは、すぐさまそれを切り替えると両手を刀へと添えている。
それはもはや、形振りを構わぬ防御の姿だ。
ぶつかり合う金属に響いた耳障りな音は、今や火花になって弾け始めている。
それはやがて、骨の軋む音と床が崩れる音と変わって、その鍔迫り合いの激しさを物語っていた。
「今ぜよ、ヘンリエッタ殿!!わしごと炎で焼き払うぜよ!!」
「はぁ!?そんな事、出来る訳ありませんわ!!」
空から落ちた大柄な人影、ウィリアムはさらに力を込めてはバルトルトを押し込んでいる。
それは彼を防御一辺倒にし、完全にその動きを拘束していた。
その状況ならば、彼の言う通り間違いなくバルトルトを焼き払うことが出来るだろう。
しかしそれは、エッタに拒まれてしまっていた。
「安心するぜよ!わしは、わしは死なん!!だから、気にせずやるぜよ!!」
「死なないって・・・貴方、さっき死に掛けたばかりじゃありませんこと!?」
味方を巻き込めないと拒絶するエッタに、自分は死なないからとウィリアムは叫んでいる。
それは彼の異常な力を思えば、ある程度説得力はあるかもしれない。
しかし先ほど死に掛けたばかりという事実が、その言葉から説得力を奪っていた。
「エッタ、お願い!彼の言う通りにしてあげて!!」
奪われた説得力を補うのは、誰かの願う言葉しかない。
アリーが叫んだその言葉は、彼が願ったがためのものだろうか。
「ヘンリエッタ!構うな、やれ!!」
「あぁもう!!私、知りませんわよ!!」
重ねて命令してきたマックスの言葉は、先ほどの彼の判断からぶれる事はない。
そうして周りからの声に折れたエッタは、その杖に魔力を灯す。
それがウィリアム達の足元へと転移するのに、それほど時間は掛からなかった。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!!!」
「ちょ、ちょっと思ったより熱いぜよ・・・!しかしここは我慢、我慢ぜよ・・・むぅぅぅ!」
バルトルトの足元から吹き上がった炎は、そこに留まっていた二人の身体を焼いていく。
しかしウィリアムはバルトルトに対して、上から覆い被さる形で斧を押し付けている。
そのため彼に身体に襲いかかる炎は、バルトルトのそれと比べると圧倒的に少なく、その熱も何とか耐えられるものとなっていた。
「ぐあぁぁぁぁっ!!熱い、熱いぃぃぃ!!!」
「ぐぅぅ!!暴れるなぜよ!!むぅ、力を込めると炎が・・・熱っ、熱いぜよ!!」
ウィリアムと違い、エッタの魔法をもろに食らっているバルトルトは、その猛烈な痛みに激しく暴れ始めている。
その無秩序な動きは、ともすればウィリアムの振り下ろしている斧をそのまま通してしまいそうであったが、それで切り取れるのはバルトルトの四肢の一部という程度だろう。
それよりも今はこの状態を維持して、バルトルトの身体を焼き尽くした方が得策だと考えたウィリアムは、何とかその動きに合わせて彼を押さえ込み続けようとしていた。
「放せ!!放せぇぇぇぇ!!!」
「ぬぅ!?し、しまったぜよ!?」
不規則な動きは、彼の身体を焼きつかせる炎の動きをもそれに従わせている。
それは時に、ウィリアムの身体を激しく焼きつかせ、その痛みに押さえこむ力が緩むと、バルトルトは隙を突いて逃げ出してしまっていた。
「待つぜよ!!熱っ、熱ち!!?ヘンリエッタ殿!!こ、これを消して欲しいぜよ!!」
「えっ!?もうよろしくって?」
逃れたバルトルトに、ウィリアムは慌ててそれを追いかけようとするが、その進行方向にはエッタの炎が燃え盛っていた。
咄嗟の動きでそこへと飛び込んでしまったウィリアムは、それに激しく炙られると早くこれを止めてくれと懇願している。
その言葉に、エッタが意外そうな反応を返したのは、彼女がその姿を目にしていなかったからだろう。
了承した事とはいえ、やはり仲間ごと燃やすのは嫌だった彼女は、それを見たくないとギュッと目を瞑っていたのだった。
「ウィリアム、お前はもういい!!休んでいろ!!」
「そう、ぜよ?マクシミリアン殿が、そういうなら・・・そうする、ぜよ」
目を開いたエッタのよって即座に炎は消されていたが、そのダメージは浅くはないだろう。
それはバルトルトを押さえるために負ったダメージの方が多かったかもしれないが、ウィリアムはそんなボロボロの身体で、尚も彼を追いかけようとしていた。
しかしその無理な行動は、マックスによって制止させられる。
彼の声に安堵したように、ゆっくりと力を失っていくウィリアムの身体は、そのまま床へと倒れ伏してしまっていた。
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