苦戦 2
「・・・なるほど、要は貴方ですか。ならば・・・」
そんな彼らのやり取りを、一人冷静に観察していた者がいた。
それは気配を消して、一行の中で最も重要な人物へと忍び寄ると、その刃を閃かせようとしていた。
「危ないぜよ!!アリー殿!!」
「えっ!きゃあ!?」
それを察知し、飛び込んできたのは一際巨大な人影だ。
それは彼女を突き飛ばすと、自らの身体でバルトルトの刃を受けていた。
「あわわわわ・・・今治した所だというのに。大丈夫ですか!?今、行きま・・・」
「ちょっと、何してんのよ!あんたなんかが今行ったら、一瞬でやられちゃうだけでしょ!待ちなさい!!」
アリーの窮地に飛び出して行ったウィリアムを癒したのは、ランディのポーションだろう。
再び傷を負ってしまったウィリアムに、ランディはポーションを抱えると慌てて駆けだしていこうとしていたが、それはその傍に立っていたセラフによって止められてしまう。
バルトルトの攻撃を受け、倒れ伏すウィリアムの傍には当然、それを齎した当人が存在する。
明らかに戦闘能力のないランディがその場に飛び出せば、あっという間にやられてしまうだろう。
それを恐れたセラフの行動に、ランディもまた悔しそうに項垂れると、その場に留まっていた。
「ウィリアム、どうして!?貴方は・・・」
自分を庇って傷を受けたウィリアムの姿にアリーが驚いたのは、彼が自分に対してそうまでする理由が思い当たらなかったためだろうか。
ウィリアムの想い人は、セラフなのだ。
そのため、彼がセラフのためにその命を張ったならば、そこに何の不自然もない。
しかしそれが自分のためとなると、アリーにはそれがどうしても不自然なものに思われてしまったのだ。
「わ、わしには・・・アリー殿も大事なお人ぜよ・・・そ、それを・・・傷つけさせはせんぜよ!!」
それに答えた、ウィリアムの言葉は簡潔なものだ。
彼は傷ついた身体を奮い立たせると、何とかその場に再び立ち上がろうとしている。
それは目の前の存在から、彼女を守るためであった。
「貴方は・・・なるほど、アンドレアスは敗れましたか。で、あれば・・・貴殿が一番の強敵の筈。残念です、このようなくだらない事で貴殿のような強者を葬ってしまうのは」
アリーへと向けられた刃を防いだといっても、その場からバルトルトがいなくなった訳ではない。
彼は目の前に突然飛び込んできた大男を値踏みするように眺めると、チラリと横へと目をやっていた。
そこには綺麗に真っ二つへと両断された、アンドレアスの姿がある。
自らと並び立つほどの強者を、目の前の男は一人で仕留めたのだ。
それを理解すればこそ、バルトルトは悲しげに目を伏せる。
そんな男を、こんなやり方で仕留めねばならない現実を悼んで。
「ウィリアム、下がって!!」
せめてもの礼儀だろうか、バルトルトは普段は決してしないであろう大上段に刀を構えている。
それは確実に一撃で、ウィリアムの首を落とすための構えだろう。
その姿は、アリーからもよく見えた。
「駄目ぜよ、アリー殿!!」
ウィリアムを助けようと飛び出したアリーはしかし、すぐに彼自身の手によって引き戻されている。
そしてそんな隙だらけの姿を、バルトルトが見逃す筈もない。
変わった体勢に狙いこそ違えても、それは間違いなく致命的な一撃であった。
「・・・アリー、殿・・・良かった・・・良かった・・・ぜ、よ」
アリーを遠ざけるために後ろへと振り向いたウィリアムは、背中にその一撃を食らう。
ゆっくりと再び床へと倒れ伏す彼はしかし、その視線の先に佇むアリーの姿を目にしては、嬉しそうに微笑んでいた。
「ウィリアム!?こいつ・・・!」
「甘い!それにまだ・・・止めを刺してはいない」
倒れ伏すウィリアムに、マックスはバルトルトを狙って剣を振るう。
しかしそれもバルトルトに簡単に回避されてしまうと、彼はウィリアムに止めを刺そうと前へと足を踏み出していた。
「させない!!炎よ、魔を断つ壁となれ」
マックスの剣を回避するために、バルトルトは一歩飛び退っている。
それはウィリアムと彼の間に空間を生み、そこにエッタが壁を生み出す余地を作っていた。
「こんなもので拙者が阻めると?笑止!!」
しかしそんなものでは、バルトルトが阻める筈もない。
彼はその刀を振るい、エッタが炎の壁を展開していた床ごと切り抉ると、その壁を突破してしまう。
「―――では、これはどうだ!」
渾身の狙いを持って放った炎の渦を切り裂かれたのを目にすれば、それが彼には通用しないのは理解出来る。
それでもなお、エッタがまたも炎の壁を彼へと差し向けたのは何故だろうか。
それはその炎の壁の裏に、彼を隠すためであった。
「何っ!?ぐぅ!!?」
切り裂いた炎の壁のブラインドから延びてきた剣先に、さしものバルトルトも対応しきれない。
それでも彼が何とかその場に尻餅をついて、致命傷を負わなかったのは流石というべきだろう。
「よし!後は・・・マクシミリアン!!」
「分かってる!!アレクシア、お前はウィリアムを!!」
しかしその一撃を避けたとしても、バルトルトが大きな隙を見せたのは間違いない。
それに畳みかかるようにマックスとブラッドが襲いかかり、流石のバルトルトもそれには防戦一方となっていた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。
もしよろしければ評価やブックマークをして頂きますと、作者のモチベーション維持に繋がります。