神話の戦い
弾けた火花に轟く轟音が、僅かに遅れて聞こえるのはそれが余りに凄まじい一撃であるからか。
大柄なウィリアムが相対しているのは、そんな彼でも見上げるほどの大きさの巨人であった。
その巨人は先ほどの武人と共に、マックス達一行を簡単に蹴散らした者達である。
しかしウィリアムは、そんな巨人に対して一人で挑み、それと互角に戦って見せていた。
「・・・おまん、中々やるぜよ」
圧倒的な力を秘めるウィリアムが、その全力を振るえる相手が今まで、一体どれほどいただろうか。
それは数得るほど、いや数得られるほどにもいなかっただろう。
そんな相手が今、目の前にいる。
その嬉しさに、思わずニヤリと唇を歪めたウィリアムは、相手を褒め称える言葉を漏らす。
「・・・オマエも、ナ」
そしてそれは、その相手である巨人、アンドレアスも同じであった。
伝説に謡われるほどの存在であったその巨人はそれ故に、その全力振るえる相手に巡り合うことは少なかっただろう。
それは彼の数百年、もしくは数千年とも思われる長い生涯においてでもだ。
そんな稀人似た存在に、彼もまた歓喜の笑みを零している。
「惜しい、惜しいぜよ・・・おんしのような男と、決着をつけんといかんとは」
彼らがお互いに言葉を交わしたのは、決着の気配を感じ取っていたからか。
吹き出る汗も流れ出る血潮に拭われるほど、互いにボロボロの身体を引きずっている二人は、もはや長くは戦っていられないだろう。
それを理解しているウィリアムはしかし、終わってしまうことが惜しくて堪らないと、残念そうな表情を浮かべていた。
「・・・それは、チガウ。ヨロコベ、ケッチャクをつけられることを」
しかし同じ気持ちを抱いている筈の巨人、アンドレアスは彼と真逆の言葉を返していた。
彼はその薙刀か矛のような武器を床へと打ちつけると、覚悟の篭った視線をウィリアムへと向けている。
それはウィリアムと、最後まで決着をつけようという彼の覚悟の表れだろう。
「・・・そうじゃな、その通りじゃ!ほんに、おんしの言う通りぜよ!!わしは恥ずかしい!おんしとの決着を惜しんだ自分が!!」
アンドレアスの言葉に、雷に打たれたように硬直していたウィリアムは、やがて細かく震え始めると、その両方の瞳から涙を流し始める。
それをグイと拭って男泣きに変えた彼は、引き締まった表情で自らの不甲斐なさを嘆くと、今度はしっかりと得物を構え直していた。
それが先ほどのものよりも、さらに一回り大きく思えたなら、それが全力を振り絞る最後の一撃だからだろう。
そのウィリアムの姿に満足気に頷いたアンドレアスは、自らも同じように全力を振るうを構えを取っていた。
「これで、最後ぜよ」
「あぁ、楽しみダ」
最後に交わした言葉、別れを告げるものではない。
それは喜びを謡う言葉だろう。
短く告げられたそれよりももっと、最後の一撃は短い。
それは神速の速度で交わされるからか。
そうして一人の英雄がここに死に、一人の英雄がここに生まれた。
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