いつか英雄と呼ばれる者達 2
「マルコム!!助かった、恩に着るぞ!」
「そう思うなら、敵前で痴話喧嘩をするのは控えて欲しいものですね・・・次はもう、持ちませんよ!」
自分達の前へと割り込んだ神官風な男、マルコムに対して礼を述べるエドワードは、慌てて自らの得物を構え直している。
しかしその格好は、アシュリーに揺すられたことで乱れたままだ。
その様にチラリと目をやってはマルコムは首を振ると、こんな時に痴話喧嘩するのは止めてくれと小言を漏らしていた。
「ガアァァッ!グガァッ!?」
エドワード達の前へと割り込み、ケルベロスの攻撃を弾き返したマルコムも、それはその牙を受け流したに過ぎない。
そのためケルベロスはすぐに再びマルコムへと牙を剥き、今度は彼もそれを押さえるだけで精一杯となってしまう。
エドワードはそんな彼を助けようとその大剣を構えるが、それよりも早くケルベロスの横っ面を炎と爆発が襲っていた。
「あぁ、もうっ!!ケルベロスには炎なんて効かないのに・・・焦って間違えちゃったじゃない!!」
その炎と爆発を齎したアシュリーはしかし、悔しそうに地面を踏みつけている。
それは自らも炎のブレスを吐く魔物であるケルベロスが、炎に対して耐性を持ち合わせているからだろう。
彼女はそれを知っていながら、焦りによって間違ってしまったと悔やんでいるようだった。
「助かりました、アシュリー!ですが魔力は貴重です、余り無駄遣いはしないように」
「分かってるわよ!!」
それでもその爆発は、衝撃によってケルベロスの体勢を崩し、マルコムを脅威から救っている。
その事実に礼を述べる彼はしかし、彼女に苦言を呈する事も忘れてはいなかった。
「何だ、やっぱり何とかなりそうじゃん。よーしそれじゃ、さっさとこいつをやっつけておいしい所で乱入してやろうぜ!!」
アシュリーとマルコムのやり取りにいつもの空気を感じ取ったエドワードは、どうやら今回の敵も問題なくこなせる程度の相手だと、気楽な表情を浮かべている。
彼はそれよりもこの相手を倒した後に、丁度いいタイミングでマックス達の救援に向かう事の方が重要らしく、表情を緩めては楽しみそうにしていた。
「何、気の抜けた事いってんのよ!!まだ戦いは始まったばかりでしょうが!あんたはいつもそうやって・・・もっと真面目に戦いなさいよね!!」
「そうですよエドワード、アシュリーの言う通りです。貴方は実力は確かなのに、どうも手を抜く癖がある・・・それをどうにかしなければ、マクシミリアン殿に追いつくなど夢のまた夢、不可能ですな」
エドワードの気の抜けた発言は、当然残る二人から猛反発を受けることとなる。
彼らからすれば目の前の相手であるケルベロスは、エドワードがいうような余裕ある相手ではなかった。
しかしそれ以上に、彼らはエドワードの態度が気に食わないのであろう。
エドワードのその余裕ある態度は、彼の実力に端を発していることは間違いない。
アシュリーとマルコムの二人はそれを知っているだけに、彼の怠けた態度が気に食わないようだった。
「追いつくじゃねぇ!追い抜くだ!!間違えるなよ、マルコム!!」
「はいはい、そうでしたね。それにはまず、目の前の相手を倒しませんと・・・貴方に出来ますか、エドワード?」
「はっ、いってろ!」
しかし彼らの言葉もまた、エドワードの癇に障っていた。
マックスに追いつくのではなく、追い抜きたいのだと自らの野望を語るエドワードに、マルコムはその言葉を軽く流すと、その意気を目の前の相手へと誘導していた。
「・・・流石だな。あれだけ気を散らしながらでも、あの相手と互角に戦えている・・・あれが一流の、いやそれ以上の所に到達した冒険者の姿か」
今だに、ごちゃごちゃと何やら言い争いながらケルベロスと戦っているエドワード達の姿に、先ほどからずっと必死にグリフィンを押さえている男達が羨望の眼差しを向けていた。
それは、決して自分達には辿りつけない領域に立っている者達へと向ける視線だろう。
それはエドワード達と彼らの間に、決して埋まらない隔たりがあることを示していた。
それでもと、彼らは思う。
それでも、自分達にも役割はあるのだと。
グリフィンが暴れるたびに抜け落ちる杭は多く、それを打ち直す作業は不毛にも思える。
それでも彼らはそれを繰り返し、確実にグリフィンへとダメージを積み重ねていった。
それが止めに到るまで、一体どれほどの時間が掛かるだろう。
「しんどいなぁ。ま、でも・・・こんぐらいはこなさねぇとな」
疲れに、吐き出した溜め息は重い。
それでも彼ら見据える視線の先には、希望が満ちていた。
それはその先に進んだ、マックス達の勝利を彼らが信じていたからだろう。
「・・・頼んだよ、エッタちゃん」
願いの言葉は短く、祈るような囁きに消える。
それでも、その言葉に込められた思いまでをも消え去る訳ではない。
そうして彼は再び鉈を握ると、それを振るう。
それに切り裂かれ、噴き出した血と舞った羽根は多く、それはグリフィンの力がまだ十分に残っていることを示していた。
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