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婚活の第一条件がレベルになったけど、私は絶対にレベル上げなんてしない!!  作者: 斑目 ごたく
だから私はレベル上げをしない
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最後の関門 2

「・・・彼女はもう、用済みなのでは?グラッドストン卿?」


 ガキンと響いた金属音は、グリフィンの鉤爪もまたその硬度を誇っている事を示している。

 急降下してきたグリフィンの爪をその得物で弾き返したのは、その大柄な身体を華麗に翻しているブラッドであった。


「・・・ふん。あれが最後の扉とも限らん、こいつにはまだ利用価値があるからな」


 ブラッドが剣を振り切った後に口にしたのは、マックスの振る舞いについての疑問であった。

 恐らく、最後の扉だと思われるそれは、もう開いてしまっている。

 その先は暗く様子は伺えないが、それが事実であるのならば、もはやセラフには守るだけの価値がない筈であった。

 それにもかかわらず、マックスは今も彼女に覆いかぶさり、その命を身を挺して守ろうとしていた。

 その矛盾に、ブラッドは恋慕の匂いを感じ取り、それを尋ねる。

 しかしそんな疑問にも、マックスは単にまだ彼女には利用価値があるからだと答えていた。


「・・・そうか。ともあれ、我が花嫁を助けてもらった事、感謝する」


 マックスの返答に、ブラッドが納得のいかない表情を見せたのは短い間だけだ。

 彼は自らの花嫁を身を挺してまで守ったマックスに礼を述べると、再び宙へと舞い上がったグリフィンへと目を向ける。


「不意を突き、横から割り込めばこそ弾き返すことが叶ったが・・・二度目はあるか?ウィリアム君、まだかっ!?」

「ま、待つぜよ!足が絡まってしもうて・・・いかんぜよ」


 不意打ちによって弾き返すことに成功したグリフィンはしかし、正面から狙われるとなると話が変わってくる。

 それを凌げる公算の少なさに冷や汗を垂らすブラッドは、それを楽々こなせるであろうウィリアムへと声を掛ける。

 しかし彼は、グリフィンからの圧力によって崩れてしまった足場に頭を悩ませ、そこから中々抜け出せずにいるようだった。


「もういい、コールドウェル卿!こちらは合流した!」

「・・・少なくとも、花嫁は守れた。それでよしとしよう」


 生き残れる公算が立たない事態にも、守るべきものは守れたと彼は笑う。

 冒険者の一行と合流し、その中でしっかりと守られているセラフの姿に、ブラッドは悔いはないと静かにその瞳を閉じていた。


「キィィィッ!!!」

「ブラッド!?」


 閉じた瞳に響いた声は、その主の姿を目蓋の裏に思い浮かばせてしまう。

 それはとても美しい、花嫁の姿をしていた。


「・・・それでも、私はっ!!」


 覚悟した筈の死にも、目蓋の裏に美しい花嫁の姿が浮かべば、未練も残ってしまう。

 閉じた時とは対照的に、激しく目を見開いたブラッドは技も条理も投げ捨てて、力任せにその剣を振るう。


「ふっ・・・爪先一つか、それも悪くない」


 しかしその切っ先は、グリフィンの鉤爪の先を切り裂くだけで終わる。

 余りに鋭すぎたその剣先は、グリフィンの攻撃を逸らせる事はなかった。

 しかしその事実に、ブラッドはどこか満足そうな笑みを浮かべていた。


「―――何を、格好つけていらっしゃいますの?まったく、これだから・・・男って馬鹿な生き物なのですわ!!」


 渾身の一撃に全てを振り絞り、やりきった顔で立ち尽くすブラッドに、彼の事を小馬鹿にするような声が届く。

 しかし果たして、その声は彼に届いただろうか。

 何故ならその声が聞こえたきたのとほぼ同時に、周囲の音を全て塗り潰すような爆発音が轟いていたのだから。


「エ、エッタ!?ちゃんとタイミングを合わせてよぉ!私の矢が、全然関係ない所に飛んで行っちゃったじゃん!」

「ふふん!それは仕方ありませんわ!!何故なら、アレクシアさん。貴女の弓などなくても、この大魔法使いヘンリエッタ・リッチモンド様の魔法さえあれば十分なのだから!!おーっほっほっほっほ!!!」


 エッタの魔法によってバランスを崩されたグリフィンは、地面と衝突してしまわないように慌てて制動を掛けて、再び宙高く舞い上がっていく。

 その様子に満足気に鼻を鳴らしたエッタは、自信満々といった様子で腰に手をやりながら、高笑いを漏らし始めていた。

 エッタと一緒にグリフィンを牽制する攻撃を放っていたアリーは、タイミングが狂わされたと文句をいっているが、彼女はそれを相手にしようともしなかった。


「うぅ・・・それは、そうかもだけどぉ!」

「そうでしょうそうでしょう!!アレクシアさんも認めざる得ない訳ですわね!私の実力を!!」


 見当外れな方向へと飛んでいったアリーの矢に、グリフィンを退けたのは間違いなくエッタの魔法の成果であった。

 彼女の態度が如何に傲慢であろうともそれは認めざるを得ないアリーは、悔しそうにそれを叫んでいる。

 しかしそんな彼女の態度は、エッタをさらに調子に乗らせていた。


「ふふん!見なさい!グリフィンも私を狙っておりますわ!!向こうも、誰が強敵か分かったのでしょう!!えぇ、いいでしょう・・・相手になってあげますわ!!」


 宙高く舞い上がったグリフィンは滞空の暇をおくと、エッタを狙って急降下してくる。

 それはあのグリフィンまでも自分を危険だと認識し狙ってきたのだと、さらに彼女の驕りを高ぶらせてしまう。

 そうして逃げる様子を一切見せない彼女は、得物である杖を構えるとその先端に魔力を集中し始めていた。


「これで止めですわ!!食らいなさい・・・エクス、プローーージョン!!」


 先端に溜めた魔力は炎となって荒れ狂い、それはやがて爆発と姿を変えて炸裂していた。

 その衝撃と爆煙に包まれて、グリフィンはその姿を消している。

 それはエッタにとって、勝利の証に他ならなかった。


「おーっほっほっほっほ!!見ましたか、セラフィーナさん!!私の活躍を!!お褒めいただいても構わないですわよ!!おーっほっほっほっほ!!!」


 姿を消した強大な魔物の姿に、エッタの勝利を確信した高笑いが響く。

 しかし彼女が思うほどに、それははっきりとした勝利の証ではなかった。

 今だに燻る爆煙は、その先の景色を覆い隠している。

 それは魔物の死を、必ずも意味したものではなかった。

 それを鵜呑みにし油断した者が彼女しかいなかったことが、せめてもの救いか。

 そして事実、グリフィンは死んではいなかった。


「キィィィ!!」

「・・・はれ?」


 魔法を放ったままのポーズで、勝ち誇った表情を浮かべていたエッタは、爆煙の向こうから現れたグリフィンに間抜けな声を漏らしている。

 それは彼女の驕り高ぶった性根を叩き直すには、丁度いい事態だろう。

 彼女の命が、もしあればの話であるが。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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