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婚活の第一条件がレベルになったけど、私は絶対にレベル上げなんてしない!!  作者: 斑目 ごたく
だから私はレベル上げをしない
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マックスの演説

 あれだけ降り続いていた雹も今は止み、それは氷の欠片や水溜りとなって名残を残すばかり。

 今、誰かに蹴飛ばされて水面を乱した塊も、やがてはそれに同化して消え去るだろう。

 それを蹴飛ばした人物も、この場所に集まった多くの人々の一人にしか過ぎない。

 彼らはざわざわと騒ぎながらも、皆一様に同じ方向を気にしている。

 そこは冒険者ギルドの二階に設けられた、テラスのようなスペースだろう。

 緊急事態に、多くの人達へと呼び掛けるために設けられたそのスペースは、今まさにその役割を果たそうとしていた。


「あのグラッドストン家の御曹司が、今回の異常気象について説明してくれるって話だが・・・一体何を話してくれることやら」

「しっ!前の当主が死んで、今は彼がそのグラッドストン家の当主だ!下手な事を言うと、首を跳ね飛ばされるぞ」


 ざわざわと騒いでいる人々は、どうやらマックスの登場を待っているようだった。

 そこには期待と不安が入り混じっている様子であったが、この集まっている人の多さが、彼の冒険者としての実力を示していた。


「おい、どうやらお出ましのようだぞ」

「へぇ、お手並み拝見と―――」


 何やらばたばたとギルド内から聞こえてきた物音に、彼らが感じた予感は間違いではないだろう。

 ギルドの建物に設けられたテラス、その奥から誰かが現れてきているようだった。

 その姿を目にしては、皮肉気に唇を歪めていたのは、屈強な身体を誇る熟練の冒険者であろう。

 彼は自分よりも全てに恵まれたマックスに対して、どこか嘲るような呟きを漏らす。

 しかしそれは最後まで、言い切る事は出来なかった。


「キャー!!マクシミリアン様ー!!こっち向いてーーー!!!」

「見て!マクシミリアン様の登場に合わせて、雲が晴れていくわ!!天も彼を祝福しているのよ!!」

「あぁ・・・眩しい日差しに目を細める、マクシミリアン様・・・貴方様のお姿こそ、眩しすぎますー!!」


 屈強な冒険者のおっさんも、若きアイドル冒険者を追っかける女性達のパワーには敵わない。

 彼女達の勢いに突き飛ばされた彼は、最初こそ本能的に食って掛かろうとしていたが、そのゾッとするほどのエネルギーに気圧されて、おずおずと引き下がってしまっていた。


「・・・んんっ!まずは、これだけ多くの人数が集まってくれた事に感謝を述べたい」


 あれだけ騒いでいた女性達の存在にも、マックスがした咳払いの音が不思議と聞こえてくる。

 それは彼が話し始めたと察した途端、口を噤んだ彼女達の統率が為せる業だろう。

 強めの咳払いで喉の調子を整えたマックスは、ギルドの前に広がる広場に集まった人々を見下ろし、その数に感謝するように軽く頭を下げていた。


「さて、本来であればここから長々と前置きを述べる必要があるのだが・・・皆も早く聞きたいだろう、この異常気象の事を。そのため、それは省かせてもらう・・・この事は、我が領地の者には内密にしてくれると助かる」


 貴族として、ましてや歴史ある名家の現当主としては、このような多くの民衆に語りかける場面において、格式ばった挨拶の言葉を述べるが常であろう。

 しかしマックスは、この緊急事態にそれを省くと宣言する。

 それに貴族特有のそういった言い回しが嫌いな冒険者達から、まばらな拍手が上がっていた。


「ありがとう。さて・・・皆はまず、この異常気象について聞きたいと思うが・・・はっきり言おう、これは単なる異常気象などではない!」


 上がった拍手に軽く手を上げて応えたマックスは、バルコニーの手すりへと手を掛けると、身を乗り出すようにして観衆に語り掛け始める。

 彼は最初に、彼らが一番気になっているであろう、この異常気象の事についてはっきりと断言していた。

 これは単なる、異常気象などではないと。


「単なる異常気象じゃないだって・・・?じゃあ、一体全体これは何だっていうんだ!!まさか本当に・・・天変地異の前触れだっていうんじゃねぇだろうな!全く、勘弁してくれよ!」

「貴方・・・まだ信じていないのですか!!?だから先ほどから言っているじゃないですか!!これは、世界が滅ぶ前兆なのだと!!」

「はっ!そんな訳がねぇだろ!!」


 先ほどまでの降りしきる雹が、単なる異常気象ではないと言い切ったマックスの言葉に、観衆の中の一人が疑問の声を上げていた。

 彼はマックスの言葉が、この異常気象を受けて騒ぎ始めた終末論者のものと似ていると指摘し、勘弁してくれと嘆いている。

 それにその説を唱えている当の本人が食って掛かっていたが、彼はそれを相手にしようともしていなかった。


「ふっ・・・世界の終わりか。あながち、それも的外れではないかもな」


 しかし彼らの言葉に、マックスは同調するように呟きを漏らす。

 それは彼の幼き頃より訓練された声によって、意外なほどに遠くまで響いてしまっていた。


「何だって・・・?あんたまさか、本当に・・・」


 マックスの呟きを耳にした彼へと食って掛かっていた冒険者は、絶望したように目を見開いている。

 それもそうだろう、何か有用な情報が聞けるとここにやってきた彼が聞かされるが、頭のいかれた男の戯言なのだから。


「おぉ!!分かってくれましたか、マクシミリアン様!!歴史に名だたる名家、グラッドストン家の当主がそう仰ってくれるなら心強い!!さぁ、私と共に皆を―――」 


 マックスの発言に固まってしまった冒険者の男と反対に、終末論を振りかざす男は歓喜に震えて彼を見上げている。

 彼からすれば、意外な所でとてつもなく心強い味方を得られたのだから、その反応は当然の事だろう。


「悪いが、お前とは一緒には行けない。何故ならこれは、世界の破滅の前兆などではないからだ」


 しかしその願いは、裏切られる。

 こちらへと歓迎の視線を向ける男の事を見下ろしたマックスは、それをはっきりと否定する言葉を告げる。


「はっ・・・?今、何と?」

「お前は妄想を振りまくだけの、イカレ野郎だといったんだ」


 当然それは、その男に驚きを齎している。

 マックスの言葉に信じられないと言う表情を見せる男に、彼はよりはっきりとした否定の言葉を告げる。

 その身も蓋もない内容は、終末論に頭をやられた男にも届くだろう。


「皆、聞いてくれ!!確かにこれは、世界が滅ぶ前兆などではない!!しかしこのまま放っておけば、いずれそうなってしまうかもしれない危険な状況なのは間違いないんだ!!だから、どうか俺に力を貸して欲しい!!」


 バルコニーから身を乗り出すだけでは飽き足らず、より近くでその先にいる彼らへと語り掛けようとしているマックスは、気づけばそれに足を掛けていた。

 そうして身振り手振りも交えて語り掛ける彼は、最後には懇願するように彼らへと頭を下げていた。


「そりゃ、本当にそういう状況ってんなら協力するのもやぶさかじゃないが・・・結局、何が起こるってんだ?」

「あぁ・・・そうだったな。先にそれを話さなければならないな・・・皆は知っているか、このダンジョンの本当の名前を?」


 ここに集まった多くの一般人からすれば、天上人にも等しいマックスの必死な振る舞いに、多くの者は協力自体には前向きな姿勢を示していた。

 しかし彼らは何よりも、マックスが何に対して協力して欲しいのかを知りたがっている。


「あのダンジョンの本当の名前?『レベル上げに丁度いいダンジョン』が、そうじゃなかったのか?」

「いや、確か・・・そうだ!『魔人の封穴』!『魔人の封穴』だ!!」

「へぇ、そんな名前だったのか・・・ん?魔人だって?」


 彼らが知りたがっている理由について、マックスはそれを示唆する言葉を囁いている。

 それはこの街そのものといっても過言ではない、ダンジョンの名前についてであった。

 皆が便宜的に、レベル上げに丁度いいダンジョンと呼んでいたそれは、本来別の名前がある筈である。

 それを思い出そうと口々にそれを話し合う者達は、やがてその名前に辿りついていた。

 そう、魔人の封穴という、その名前に。


「そう、あのダンジョンの本当の名前は『魔人の封穴』。かつて暴れ周り、人類を滅亡の寸前まで追いやった魔人が封じられている場所だ。いや、場所だったと・・・いうべきかもしれないな」


 彼らが自力でその答えへと辿りつくのを待っていたマックスは、彼らが導き出した答えに頷くとそれで間違いないと口にする。

 マックスはあのダンジョンが、かつて人類の脅威となった魔人が封じられていた場所だと補足するが、それももはや過去のものだとその最後に示唆していた。

 それは、つまり―――。


「お、おい・・・それって、まさか?」

「そうだ、魔人の封印が解かれた」


 魔人の封印が解かれたと、彼はそう口にする。

 それは誰しもが知りたいと望み、そして聞きたくなかった言葉だ。

 その内容に、集まった者の誰しもが表情を青くし、不安そうな顔を浮かべている。


「あの雹は、その前兆で間違いない。お前達には、その魔人の討伐に協力してもらいたい!頼む、俺と共に人類を救う手助けをしてくれないか!!」


 マックスほどの大貴族が、ただの民衆にこんなにもはっきりと頭を下げる姿など、早々お目にかかれるものではない。

 しかしそんな姿を目にしても、誰一人喜びの声も驚きの声も上げる事はなかった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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