お見合いの場へ
「はぁ・・・結局ここまで来ちゃったよ。何で勝手に進めちゃうかな、もう・・・」
深々と溜め息を漏らすセラフの周りには、豪華な装飾で飾られた室内が広がっている。
それはここが、貴族の館である事を示していた。
彼女の口ぶりからも、恐らくここはお見合い相手の館なのだろう。
そんな場所でありながら、セラフの周りにケイシー以外の姿が見られないのは、これからお見合いに向かう彼女に対する配慮だろうか。
つまり先方は、ここで十分に用意を整えてくださいといっているのだ。
「お嬢様、お急ぎください!!ただでさえ、ここまで遅れているのですから!!」
「えー?もう良くない、このままで?だって、どうせ断るんでしょ?」
「そうだとしても!これは、礼儀の問題でございます!!」
しかしそんな場所を用意されたにもかかわらず、セラフは一向に身形を整える様子を見せない。
彼女の今の格好は十分に煌びやかなものに見えるが、それでもやはり馬車での旅を想定した動き易い格好であることは否めない。
それから早く着替えるべきだと促すケイシーに対して、セラフはかなり面倒臭そうにそれに抵抗を示していた。
「いいのよ、そんなの適当で。どうせ相手のおっさんなんて、私の身体しか見てないんだから。このぐらい露出が多い方が、喜ぶでしょ?」
「いけません、お嬢様!!あぁ・・・間に合わなかった」
旅に向いた動き易い服装は、着飾った貴族の衣装よりは確かに肌の露出が多い。
その露出した部分を見せ付けるようにポーズを決めたセラフは、それに満足するとそのまま目の前の扉を押し開く。
一切の躊躇いなく、その先へと進んでいくセラフの姿にケイシーが慌てたのは、そこがお見合いの会場だからだろう。
そんな場所に、使用人に過ぎない彼女が足を踏み入ることなど許されない。
セラフが潜り抜けた扉に、ケイシーはそこにバリアが張られているかのようにピタリと足を止めてしまっていた。
「あぁ・・・お嬢様。どうか、どうかエインズワース家の名誉を汚すような事だけは、なさらないでくださいませ」
閉まってしまった扉に、もはやその先の景色は目にすることも叶わない。
彼女はその扉へと手を添えると、祈るように目蓋を閉じる。
彼女がそうして呟いた言葉が、少しばかりその主に対して失礼な内容だったとしても、それを聞き咎める者はここには存在しなかった。
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