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二つの選択肢 2

「それでは・・・もう一つの選択肢の説明に移らせてもらいます。と、言いましてもこれに関しては私から話す事はございません。全てはここに記されておりますので・・・お嬢様、これを」

「?何よ、これ?」


 セラフに促されて、もう一つの選択肢の説明に移ったベンジャミンはしかし、何も話す事はないと述べると懐から一枚の封筒を取り出していた。

 それを受け取ったセラフは、不思議そうな表情を浮かべながらもその封を解く。


「ふむふむ・・・お母様からの手紙ね。えーっと・・・な、何ですって!!?」


 彼女が解いた封には、間違いなくエインズワース家の家紋が刻まれていた。

 それはその手紙が、それを使うことが許された人物がしたためた事を示している。

 そしてそれはセラフの母親、リリー・エインズワースである事が彼女の口から示されていた。


「私は嫌よ、こんなの!!幾らお母様の言いつけだって、嫌なんだから!!」


 手紙の内容に目を落とし、それをしばらく読み耽っていたセラフはある時、大声を上げて騒ぎ始める。

 それはその手紙の内容が、彼女の気にそぐわないものであったからだろう。

 彼女は手にしていた手紙をぐしゃぐしゃにまとめると、それに不満をぶつけるように思いっきり地面へと叩きつけていた。


「な、何が書いてあったんですか?」


 地面へと叩きつけた手紙を、それだけでは収まりがつかないとセラフは何度も踏みつけにしている。

 そんな彼女を押し退けて、その内容を確認することは難しいだろう。

 ケイシーは気になるその内容を、既に知っているだろうベンジャミンへと尋ねていた。


「別に、どうという内容でもありませんよ。ただお嬢様にお見合いのお話があると、それだけの内容です」

「お、お見合いですか!?それは・・・」


 ケイシーから手紙の内容を尋ねられたベンジャミンは、どうという事もないとその内容について口にする。

 しかしその内容に、ケイシーは思わず言葉を失ってしまっていた。

 お洒落である事を追求し、自分を磨く事に命を掛けてきたセラフからすれば、その自らの魅力でいい男を捕まえる事こそが己の使命だと考えていただろう。

 実際、貴族としての彼女の立場を思えば、それは正しい考え方だった。

 そんな彼女がお見合いによって相手を決められてしまうなど、屈辱に他ならない。

 手紙の内容を知り、彼女が怒り狂うのも無理はないと口元を押さえたケイシーは、その視界の端に豪華な作りの馬車が止まるのを捉えていた。

 それはどこか、見覚えのある姿をしていなかったか。


「貴女が幾ら嫌と言おうが、これは決まったことなのですよ、セラフ」

「っ!?お、お母様!!?」


 その豪勢な馬車が下りてきたのは、眩い日差しを避けるように日傘を翳した妙齢の美女、リリー・エインズワースその人であった。

 予想だにしない母親の登場に、乱れ散らしていた自らの服装を慌てて整えたセラフは、まるで何事もなかったかのように澄ました表情でそこに佇んでいる。


「ベンジャミン。この子にはちゃんと話したのでしょう、あの選択肢の事を?」

「はい、奥様。そして一つ目の選択肢は絶対に無理との、お嬢様のお言葉も頂きました」

「ベ、ベンジャミン!!それはっ!!?」


 先ほどまでの荒れっぷりを誤魔化そうとするセラフも、リリーのその冷たい視線からは逃れられない。

 彼女の服についた汚れに鋭く目を向けた彼女は、それにつまらそうに目を細めると、ベンジャミンへと進捗を尋ねている。

 彼女から事の成り行きを尋ねられたベンジャミンは、深々と頭を下げると自らの仕事の完遂を告げる。

 つまり、セラフから言い訳の出来ない言質を取るという、自らの仕事を。


「よろしい。ならばお見合いの件、了承したという事でよろしいのね、セラフ。では帰るわよ。お見合いの席まで、余り日取りがないのだから」


 しっかりと言質を取った事をベンジャミンから確認したリリーは、軽く頷くと早速とばかりにセラフの腕を掴み取る。

 そうして彼女は無理矢理、セラフを自らが乗車していた馬車へと引き摺っていってしまう。


「い、いやーーー!!私はお見合いなんてしないだからー!!助けて、助けてケイシー!!!」


 必死に助けを求めるセラフの声はしかし、誰も応える事はない。

 それは彼女を心配そうに見守っている、ケイシーも同様であった。

 エインズワース家そのものを牛耳っていると過言ではないリリーは、彼女にとっても逆らいがたい存在である。

 そんな天上人と、直属の上司でベンジャミンに睨まれればもはや、彼女には何もいうことが出来なくなってしまっていた。


「私達も、帰りますか」

「・・・はい」


 主二人が乗る馬車は、早々に馬を走らしていく。

 それを見送った使用人二人は、静かに歩き出すと彼らもまた帰郷の道を急いでいた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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