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二つの選択肢 1

「・・・時に、お嬢様。お嬢様の現在のレベルは、お幾つなのでございましょうか?」


 地面に蹲っては、自分がしでかしてしまった事について嘆いているセラフを見下ろして、ベンジャミンはそっとある事を尋ねていた。

 それは彼女のレベルが、今現在幾つであるかという事であった。


「そ、それは!」

「ケイシー、私はお嬢様にお尋ねしているのです」

「も、申し訳ありません・・・」


 酷く落ち込んでいるセラフは、ベンジャミンのその声にも虚ろな目を向けるばかり。

 そんな主の状態を慮った彼女の侍女、ケイシーは思い切って声を上げると、自分が変わりに答えると前へと踏み出している。

 しかし彼女のそんな振り絞った勇気も、ベンジャミンのその穏やかな表情の奥の冷たい瞳に射抜かれれば何も言えなくなってしまう。


「・・・9よ」

「?申し訳ありません、お嬢様。良く聞き取れませんでした、もう一度お願いしてもよろしいでしょうか?」


 ベンジャミンの眼光に、怯えるように肩を跳ねさせ慌てて頭を下げた引き下がったケイシーの姿に、セラフはぼそりとそれを呟いている。

 彼女が呟いたそれをベンジャミンが聞き取れなかったと聞き返したのは、果たして本当の事だろうか。

 わざとらしく身を屈め、耳に手を添えているその姿はどこか、芝居がかった仕草に見えていた。


「だから!9よ9!!悪い!?まだそれだけしか上がってないの!!笑いたければ、笑いなさいよ!!」


 ベンジャミンのわざとらしい仕草に腹を立てたセラフは、完全に開き直ると自らの今のレベルを繰り返し叫んでいる。

 そんなセラフの姿を、彼女の後ろに控えるケイシーがどうしたらいいのか分からない表情で見守っていた。


「ふむ・・・聞き間違いではありませんでしたか。しかし、9とは・・・聞けば、二桁になって初めて、冒険者としては一人前と耳にしましたが?」

「えぇ、そうよ!!あれだけお金を使ったのに、それにすら届かなかったの!!そうお母様に報告すればいいわ!!!」


 あれだけの金額を潤沢に使いながらも、今だに二桁にすら届いていないセラフのレベルに、ベンジャミンは頷きながらも信じたくなかったと顔を顰めている。

 そんな彼の表情にセラフはもうどうにでもなれと開き直ると、もはや言い訳はしないと地面へと身体を投げ出し、そこへと横たわっていた。

 それは後は好きにしろという、彼女なりのサインなのだろう。

 そんな彼女の姿に、ベンジャミンはニヤリと僅かに唇を歪めていた。


「お嬢様。お嬢様には二つ、選択肢がございます」

「二つの選択肢?何よ、もったいぶらずにさっさと話しなさいよ!どうせ私は、それに従うしかないんだから!!」


 それが動物であるのならば、お腹を上に向け曝け出しているその姿勢は、まさに降伏の姿だ。

 そんなセラフにベンジャミンはそっと囁くと、彼女に選択肢を提示する。

 プライドが高く、何事も自分で決めなければ収まりがつかないセラフがあっさりとそれを認めたのは、それだけ彼女の心が折れてしまっているからか。

 ベンジャミンに早く話を先に進めなさいと促すセラフは、少なくともその言葉に逆らう様子をみせる事はなかった。


「左様で。ではまず一つ目の選択肢を。これはこのままお嬢様にここに残ってもらい、レベル上げに励んでもらうというものです」

「何よ、それじゃ今までと変わらないじゃない?」


 早く続きをと促すセラフに、ベンジャミンは軽く一礼を返すと早速とばかりに、用意された選択肢を提示する。

 しかしその内容は、今までの彼女の生活と何一つ変わらないものであった。


「お嬢様、お話はまだ終わっておりません。こほん!しかしながら資金は使い果たしておりますので、滞在費用は自分で稼いでもらう必要があります。そしてケイシーにも引き上げさせます、資金がないのですからこれは当然ですな。そういった訳で今後、お嬢様には一人で生活してもらう事となりますが・・・よろしいですね?」

「はぁ!?そんなの無理に決まってるじゃない!!私に、ケイシーなしで暮らせっていうの!?無理無理!!却下よ却下!」


 有り得ないほどの好条件はしかし、そこで終わりの筈はなかった。

 軽く咳払いしてはセラフに遮られた続きを話すベンジャミンは、その選択肢の詳細について述べる。

 それは一見それほど厳しい条件にはみえなかったが、身の回りの事を全て侍女であるケイシーに任せてきたセラフからすれば、絶対に受け入れようのない話であった。


「そうでございますか?私としては、かなり寛大な条件に思えますが?」

「そういうのいいから!ほら、さっさと次いって次!!」


 傍目からみれば破格の好条件に思えるその選択肢に、それを頭ごなしに拒絶するセラフが信じられないと、ベンジャミンはわざとらしく驚いて見せている。

 それは彼の芝居がかった仕草に、始めから分かっていた反応だろう。

 事実、セラフもそんな小芝居は止めて、さっさともう一つの選択肢を聞かせろと彼に促していた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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