セラフの誤算 2
「エッタちゃん、今いいかな?」
「貴方達は・・・何ですの!?お金なら、ありませんわよ!!」
それはセラフ達が多額の金を支払って雇っていた、凄腕の冒険者達であった。
彼らがわざわざ自分に声を掛けてくる用事など、金の無心以外考えられない。
そう察したエッタは、彼らが何か言ってくる前に先制で拒絶を告げる。
「それは、あれを見りゃ分かるさ。そうじゃなくて・・・俺達はあんたを誘いに来たのさ」
「私を?」
お金はないからもう雇えないと叫ぶエッタに対して、冒険者達もそれは分かっていると彼女の背後にいるセラフ達の事を指差している。
それが分かっているならばどうして来たのかと、いぶかしげな表情を見せるエッタに、彼らは腕を伸ばすと彼女を自分達のパーティへと誘う。
しかしそれは、彼女の眉間の皺をさらに深く刻ませる事になってしまっていた。
「それは、一体どういう事ですの?ご存知の通り私には、もう出せるお金は残っていませんわよ?」
「いやなに、パーティの魔法使いが引退しちまってね、代わりの奴を探したんだが・・・いいのが見つからなくてね。そんな時に、エッタちゃんがいたなと思い出してさ・・・それでどうだい?一緒に来てくれるのかい?」
散々、お金を搾り取られた経験から彼らを警戒するエッタに対し、冒険者達は困ったように顔を見合わせている。
そうしてお互いを突っつきあい押し付けあった彼らは、その中の一人である小柄で年嵩な男を押し出すと、事情を説明し始めていた。
その内容は、引退した魔法使いの代わりの人員が中々見つからないというもので、その代わりとしてエッタをパーティに加えようというものであった。
「私、もう何も買ってあげられませんわよ?それでもよろしいの?」
「全然全然!!それで大丈夫!入ってくれりゃ、それで!!」
彼らが話した切実な事情にも疑り深く、すぐにはそれを信用しないエッタに、男達は彼女が加わってくれるだけでいいと強調している。
見栄を張るためだけにお金を使い、一度破滅を経験したエッタは、彼らと再び冒険を共にする際にひたむきに努力を続けていた。
それは気付けば、彼女を一端の冒険者、魔法使いへと成長させていたのだ。
「ふ、ふ~ん・・・ま、まぁ?そこまで言うのでしたら、入ってあげてもよろしくってよ」
「おおっ、そうかい!そりゃ、助かる!!よし、それじゃ早速ダンジョンに向かおう!!」
これまで、必死にお金を貢いで何とか繋ぎ止めていた男達に、今度は頭を下げられてまで加入する事を懇願される。
そのシチュエーションはエッタの心を高揚させ、彼女本来の高飛車な一面を覗かせてしまっている。
しかしそんな振る舞いなど問題にもならないと男達は喜ぶと、彼女の腕を掴んでは早速とばかりにダンジョンへと向かおうとしていた。
「ま、待ってくださいまし!セラフィーナさん、セラフィーナさんは?一緒に連れて行ってはいけませんの?」
「あー・・・あの子はねぇ。流石に足手纏いだよ、エッタちゃん。お金を払ってくれるならまだしも・・・」
男達に引っ張られ、その場を後にしようとしているエッタも、今だに地面に蹲ったままのセラフを置いてはいけないと声を上げる。
しかし雇った男達にちやほやされる事に満足し、碌にレベル上げを行っていなかったセラフなど、彼らからすれば足手纏いにしかならない。
既に支払える資金も尽きた彼女に、今更連れて行く価値はないと彼らははっきりと口にしていた。
「エッタちゃんがどうしてもあの子も連れて行きたいっていうなら、この話はなかった事にするけど・・・どうする?」
「それは・・・」
頻りにセラフを気にしては、そちらへと視線を向けているエッタの姿に、男達も選択を迫らざるをえない。
つまり彼女を取ってこの場に残るか、彼らと一緒にダンジョンに向かうかという選択を。
「ごめんなさい、セラフィーナさん・・・私にも、守るべき家名というものがあるのですわ」
迷う瞳は揺れ動き、決断に結んだ唇は固い。
エッタは誰にも聞こえない小ささで、確かな決意を呟いていた。
「えぇ、構いませんわ。行きましょう、皆さん」
「そうこなくっちゃ!!それじゃ、エッタちゃんの気が変わらないうちに急ぐぞ、お前ら!!」
そうして彼女は未練を断ち切るように顔を上げると、彼らについて行くと告げていた。
その決断に嬉しそうに歓声を上げた男達は、彼女をもう逃がさないと取り囲むと、そのままダンジョンへと足を急がせていた。
彼女が最後に振り返ったのは、そこに未練の姿を見ていたからか。
その先に佇むセラフは今だに、地面に蹲っては唸り声を上げているだけだった。
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