セラフの流儀 1
進めた足に跳ね返る感触は硬く、それは自然に踏み固められた地面などのものでは有り得なかった。
それもその筈だろう、その足が今踏みしめたのは綺麗に敷き詰められた石畳なのだから。
所々に乳白色に輝く魔法の明かりが灯されたここは、ダンジョンの第三階層。
打ち捨てられた古代の遺跡といった様相のそこには、番人が如く立ち塞がるゴーレムの姿と、それに戦いを挑んでいる冒険者達の姿があった。
「そこよ、そこっ!!あぁ、もう!!どうして、そうなるよの!!後一歩って所だったのに!!」
そんな必死にゴーレムへと挑んでいる冒険者の一行の中で、一人だけ武器も構えずに大声を上げては騒ぎ散らしている者の姿があった。
それはその見事な黒髪を振り乱しては不満そうに唇を尖らしている美女、セラフである。
彼女は思い通りにならない戦いの推移に石畳を踏みつけては、不満を表していた。
「無茶いわんでくださいよ、セラフィーナさん!?あれ以上踏み込んだら、死んじゃいますって!」
「そこを何とかするのが、あんた達でしょう!?あぁもう、また外した!一体ここを突破するまでに、どれくらい掛けるつもりよ!!」
ゴーレムの巨体から繰り出される一撃は重く、熟練の冒険者といえどまともに食らってしまえば命はないだろう。
そのため、慎重に立ち回らなければならない戦いの進行は遅い。
それは傍目から見ている分には、ダラダラとひたすらに長引かせているだけに見え、セラフの不満は頂点に達してしまっていた。
「どれくらいっていわれてもな・・・これでも、結構削ってるんですぜ?」
「ならさっさと止めを刺しなさいよ!さっきから退屈なのよね、地味っていうか。もっと、こう・・・一発で、バーンと決められないの?」
ゴーレムとの戦いは、ひたすら相手の攻撃を耐えていなしては、隙を突いてちょっとづつ削っていくというものだ。
それは確実で安定した戦い方ではあるが、全く派手さはない同じことの繰り返しでもあった。
それを眺めているのが退屈なのだと不満を示すセラフに、冒険者の男は困ったような表情で頬を掻く。
彼女が雇用主であるという事を考えれば、その願いはなるべく叶えるべきであるが、そんな事のために命まで張る理由はない。
それはつまり、こうしてグチグチと彼女の小言を聞き続ける事しかないということを示していた。
「皆さん!お引きになって!!」
「!おぅ、エッタちゃん!後は任せたぜ!!」
ぐだぐだと言い争いを続けているセラフと男に、鋭い声が掛かる。
その良く通る甲高い声の主は、こんなダンジョンの中でもきらりと光るおでこを持った金髪の美少女、エッタだろう。
彼女はそのやたらと細かい装飾の施された杖を掲げると、それをゴーレムへと向けている。
それを目にした冒険者達は、一斉にゴーレムから遠ざかると、彼女の射線を確保していた。
「よろしくってよ!!食らいなさい、マジックボルトーーー!!!」
冒険者達からの声に自信満々に答えてみせたエッタは、その杖の先端を輝かせると稲妻のような光を打ち出していた。
それは物凄いスピードで一直線に、ゴーレムの頭へと向かっていく。
そこには僅かに露出した宝石のようなものが埋まっており、恐らくそれがこのゴーレムの核なのだろう。
「―――!!」
ただの兵器に過ぎないゴーレムに、発声器官のようなものは備わってはいない。
しかしそれでも雄叫びを上げるような仕草をみせたそのゴーレムは、必死に急所を庇おうと腕を掲げる。
その速度は今までの鈍重な動きとは比べ物にならないほどに速く、ゴーレムの太く無骨な腕はそれ故に掲げるだけで盾として機能するだろう。
そのためそのままであればエッタの放った魔法は、容易に防がれてしまう筈であった。
しかし、そうはならない。
「・・・やった?やった、やりましたわ!!」
冒険者達がコツコツと重ね続けていたダメージは、ゴーレムが無理な動きをした瞬間に表面化する。
普段にはないスピードで動かそうとした腕は、だからこそ異常な負荷がかかり、それはひび割れた身体の一部へと集中して、そこを破損させる結果へと繋がっていた。
それはやがて、ゴーレムの腕を根元からポッキリと折ってしまっている。
腕を掲げて防ごうとしていた魔法は、それが根元から折れてしまった今に、無防備に食らってしまう結果へと繋がっている。
動力源となる核を射抜かれ、機能を停止したゴーレムはゆっくりと前のめりに倒れ付してきていた。
「見ましたか、セラフィーナさん!私、やりましたわよ!!」
事切れたゴーレムは、先ほどまで冒険者達が集まっていた辺りに倒れ付していた。
その姿を目にして拳を握り締めたエッタは、それを高く掲げては自らの勝利を誇っている。
彼女はその喜びを伝えようと、嬉しそうにその顔をセラフへと向けていた。
「やるじゃん、エッタ!」
「え、えぇ!これぐらい軽いものですわ!!おーっほっほっほ!!!」
賞賛を期待した眼差しも、素直に賞賛の言葉が返ってきてしまうと戸惑ってしまう。
エッタが見せたパフォーマンスを、セラフは素直に賞賛し軽くその手を打ち合わしている。
想定していたりアクションと違う彼女の振る舞いに思わず戸惑ったエッタも、すぐにそれを受け入れると、顔を真っ赤にしては喜びを見せる。
その甲高い高笑いは、そんな気恥ずかしさを誤魔化すための照れ隠しだろうか。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。
もしよろしければ評価やブックマークをして頂きますと、作者のモチベーション維持に繋がります。