セラフィーナ・エインズワースと愉快な仲間達 3
「そうか。なら、俺と組まないか?今日はこれから、第五階層を回るつもりなんだが・・・流石に一人では、厳しくてな」
「わ、私と!?その・・・いいのかな、私なんかで?」
自らと一緒にダンジョンに潜らないかと誘うマックスに、アリーは大袈裟に驚いていた。
それは彼らの実力差と、立場の違いからくるものだろう。
武門の家に生まれ、幼い頃から訓練と実践を重ねていたマックスは、レベル上げがブームとなる前から相応の実力を身につけていた。
その実力は当然、それがブームになってからレベル上げを行っているアリーとは比べ物にならないもので、彼らの家柄の違いもあってアリーにとって彼はすっかり遠い存在となっていたのだ。
そんな存在が急に誘いを掛けてくれば、戸惑ってしまうのも当然というものだろう。
しかし伏目がちにマックスへと視線を向けるアリーの表情は、どこか嬉しげに頬を上気させていた。
「ふっ、謙遜するなよアレクシア?随分、腕を上げたと聞いているぞ。お前なら、あれと違って足手纏いにはならないさ・・・それで、どうする?」
「い、行く!行きます!!ウィリアムも、それでいいよね!?」
遠い所に行ってしまったと思っていた幼馴染が、自らの頑張りを見ていてくれた。
その嬉しさに頬を温めていたアリーは、マックスの決断を促す言葉に慌てて了承を返していた。
「アリー殿がそれでいいなら、わしに文句はないぜよ」
アリーが今後の予定を決める決断に、同行者であるウィリアムにも同意を求めたのは、彼女に残った最後の理性が為せたものか。
明らかに同意しか求めていないアリーの問い掛けに、ウィリアムはあっさりと頷いて見せている。
ウィリアムは今だにマックスのことを警戒する様子を見せていたが、それでもアリーの意見を覆すほどには彼の事を嫌ってはいないようだった。
「そうか、なら急ぐぞ。余計な事で時間を取られたからな」
「う、うん!分かった!!」
確認の取れた同意に、マックスは軽く頷くとすぐに踵を返してダンジョンへと歩みを進めている。
その素早い動きに、アリーも慌てて小走りに駆けだし、彼の背中を追い始めていた。
「・・・ごめんね、セラフ。私、やっぱり・・・よーし、頑張るぞ!」
マックスの背中を追い掛ける途中、セラフは僅かにそのスピードを緩めると、先ほど通り過ぎていった親友の姿を思い浮かべる。
そうして彼女の呟いた言葉には、一体どんな意味が込められていたのか。
湿って霞んだ雲もすぐに消えて、後には何も残らない。
そこには一人、何かを決意するように両手を握り締めた女性が一人いるだけ。
「ところで、第五階層とはどういう所ぜよ?わしは初めて行くぜよ」
「お前達が今まで行った事があるのは、どの辺りだ?第三階層辺りか?そことはレベルが違う・・・油断していると、足元を掬われるぞ?」
「おうっ、そりゃ楽しみじゃのう!!アリー殿には悪いが、今まではちょっと手応えがなかったぜよ!」
アリーが僅かに歩みを緩めた間にマックスへと肩を並べたウィリアムは、彼に初めて行く階層の事を尋ねている。
マックスはそんなウィリアムの事を脅かすように、わざとおどろおどろしい口調でそこの脅威を語るが、それは彼のやる気を逆に駆り立てる結果となっていた。
「ふん!その余裕がいつまで続くか、見物だな」
「任せるぜよ!久しぶりの本気っちゅう奴を見せてやるぜよ!楽しみにしてるぜよ!!」
脅しを掛けたつもりが、逆に気合を滾らせる結果となってしまった。
その事実に不満そうに鼻を鳴らしたマックスは、ウィリアムへの嫌味を漏らしている。
しかしそんな言葉も、ウィリアムに掛かれば期待の現われと変換されてしまっていた。
「そういう意味で言ったんじゃないんだがな・・・まぁいい。ところで、その得物はどうした?何故そんな、おんぼろな得物を使ってる?」
見当外れのウィリアムのリアクションに肩透かしを食らった様子のマックスは、彼の背中に括りつけられているおんぼろな斧へと目をやると、何故そんなものを使っているのかと尋ねていた。
「これぜよ?わしも買い換えたいんじゃが、いかんせんこの身体じゃろう?中々、いいのがないんぜよ・・・」
「そうか。それなら、俺がいい鍛冶屋を紹介してやろうか?この剣を作った奴でな、腕も悪くない」
「おおっ!本当ぜよ!?お願いするぜよ!!いやー、助かったぜよ!!」
「ふっ、任せておけ」
ウィリアムが背中に括りつけた斧は、彼の体格に見合った巨大なものであった。
冒険者は己の筋力を自慢するためか、大柄な武器を好む傾向があったが、それでもその程のものとなると早々お目にかかれるものではないだろう。
そのため買い換えることが出来ないと嘆くウィリアムに、マックスは自分の知り合いの鍛冶屋を紹介すると提案している。
自らの得物をチラリと覗かせてはその腕前を証明して見せたマックスに、ウィリアムはすぐさま飛びつくと素直に感謝の声を上げていた。
「あ、あれ?もしかして・・・狙いは、そっち?」
先ほどまでの一触即発の雰囲気が嘘だったかのように和やかに会話している二人に、アリーは一人蚊帳の外の気分を味わっている。
その疎外感は、マックスの狙いが自分ではなく、ウィリアムにあった事を示していた。
確かにウィリアムほどの強者は、この辺りでも滅多に見かけることはない。
ましてやそれが自らと同年代ともなれば、その存在は皆無といってもいいだろう。
そんな存在の登場に、武門の家の出であるマックスが興味を覚えない訳がない。
そう考えれば、今目の前で繰り広げられている光景は当然の結果ともいえた。
「そ、それでも!!折角、貰ったチャンスだもん!頑張るぞー!えいえい、おー」
完全に出しに使われた形のアリーはしかし、それでもこのチャンスを生かして見せると気合を入れる。
彼女は先に進む男二人に聞こえないように、潜めた声で覚悟の掛け声を上げる。
それはこの昼下がりの青空に、溶けるようにして消えていってしまっていた。
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