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セラフは新たなる道を模索する 3

「人を雇う、ですか・・・それは、確かですか?またいつもの、浪費癖ではないと?ケイシー?」

「わ、私もその・・・初耳です」

「ふむ・・・お嬢様?ケイシーは、こう申しておりますが?」


 流行に敏感で、お洒落に命を掛けていたセラフは、当然それに相応の額を注ぎ込んでいた。

 それは浪費癖として周りに認識されており、今回の彼女の発言もそうした狙いを誤魔化すための言葉なのではないかと、ベンジャミンから疑われる事となる。


「さっき思いついたんだから、初耳に決まってるでしょ!!もういい!私が言っている事が嘘じゃないって事は、彼女が証明してくれるわ!!ほら、エッタお願い!!」

「えっ、えっ!?私ですの!?」


 人の家の事情ならば、口を挟まないのがマナーというもの。

 ベンジャミンとセラフのやり取りが始まって以降、その会話に関わらないように存在感を消していたエッタは、急に彼女から引っ張り出されて戸惑いの声を上げる。


「ヘンリエッタ様、お久しぶりでございます。近頃、その美しさにますます磨きが掛かったとのご評判。このベンジャミン、思わずお見惚れ致すところにございました」

「ま、まぁ!当然でございますわね!!おーっほっほっほ!!!」


 落ち込んでいた心には、その丁寧な賞賛の言葉が沁み込んできてしまう。

 丁寧にお辞儀をしながら、エッタの美貌を褒め称えるベンジャミンの言葉に、彼女は思わず気分が良くなってしまっていた。


「はい、当然の事でございます。ところで、先ほどのお嬢様のお言葉・・・その真偽のほどは如何ほどでございましょうか?」

「うっ、それは・・・まぁ、嘘ではないわ。確かに人を雇うためにお金が必要なのだけど・・・無理をするぐらいなら―――」


 煽てられた解された心の隙間には、その鋭い問い掛けの言葉が容赦なく入り込んでくる。

 エッタの警戒が解かれて瞬間を見計らって本題へと話題を移したベンジャミンに、彼女はそれを誤魔化すことが出来ずに、不本意な事実について正直に話してしまっていた。


「ほら見なさい!エッタもこう言ってるでしょ!!さっさと、隠してるお金も出しなさいよ!!」


 エッタに残った良心が、そのやり方は余り良くないと話している。

 しかしその声も、もはや言質は取ったと途中で口を挟んできたセラフによって遮られてしまっていた。


「ふむ・・・ヘンリエッタ様がそう仰られるなら、お嬢様が適当にでっち上げた話ではないようですね。では、これを」

「?こんなんじゃ、全然足りないんだけど?」


 エッタの話に、セラフの言葉が彼女が適当にでっち上げたものではないと確認したベンジャミンは、懐からさらに袋を取り出してはそれを差し出している。

 それをすぐさま奪い取ったセラフはしかし、その思っていたほどでもなかった重さに怪訝な表情を浮かべていた。


「こんな事もあろうかと、追加の資金はお嬢様の宿の方へ運んでおきました。冒険者の方を雇うのでしたら、頭金はその程度でよろしいかと」

「何よ、最初から分かってたんじゃない!流石は、ベンジャミンね!よーし、そうと決まれば・・・早速行くわよ、エッタ!!」


 セラフの疑問にベンジャミンは余裕たっぷりに答えると、既に手配は済んでいると語っている。

 その手腕は、普通であるならば驚くべき所であろう。

 しかしその程度の事には慣れているのか、セラフは彼に軽くお礼を述べるだけでそれを済ませると、今だに戸惑った様子のエッタの手を掴む。


「わ、私は・・・セラフィーナさん、やっぱり私こういうのは・・・」

「ほらほら、急がないと時間がなくなるわよ!!若いうちなんて、あっという間なんだから!」


 失敗した経験が、幼馴染もそれに巻き込む事を嫌っている。

 一刻も早く自分が雇っていた冒険者の下へと向かおうとしているセラフに、エッタは今だに難色を示し、抵抗する姿勢を見せている。

 しかしそんな躊躇いなど、すっかりエンジンの掛かった今のセラフが気にする筈もない。

 彼女は掴んだ手を無理矢理引っ張り上げると、そのままエッタを引き摺って走り始めていた。


「あ、そうだ。エッタ、貴女が雇ってたあの人達って、今どこにいるの?」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・え、それは・・・確か、向こうの方ですわ」


 エッタを無理矢理引き摺るセラフは、急に立ち止まると自分が目的地も分からず走り出していたことに気付く。

 強制的な道行きに呼吸を乱してエッタは、それを整えるのに必死で、その言葉が持つ意味に気付く事なく、反射的に答えを返してしまう。


「向こうか!よーっし、行くわよー!!」

「セ、セラフィーナさん!も、もう少し休んで・・・ひぃぃぃっ!!?」


 エッタによって目的地が示されたセラフは、もう止まらない。

 例えその手に握った人物の息が、どれほど切れかけていても。


「・・・良い茶葉を持って来ております。久々に、貴女が淹れてくれたものが飲みたいですね。お願いしてもよろしいですか、ケイシー?」

「は、はぁ・・・その、よろしいのですかベンジャミン様?」


 慌しく立ち去っていく主人達を見送りながら、ベンジャミンは何事もなかったかのようにケイシーへと声を掛ける。

 その余りに平静とした彼の様子にケイシーは逆に戸惑い、彼へと疑問を投げかけてしまっていた。


「えぇ。何も問題ありませんよ、ケイシー。それで、先ほどの件はお願いしてもよろしいでしょうか?」

「は、はい!勿論でございます」

「結構。では、宿に向かいましょうか。届けた荷物の整理も致しませんと」


 ケイシーの疑問ににっこりと笑い、何も問題はないと話したベンジャミンは、その瞳の奥でもう何も聞くなと語っている。

 その瞳に射竦められたように肩を跳ねさせたケイシーは、慌てて了承の声を上げる。

 彼女のそんな反応に満足気に頷いたベンジャミンは、地面へと下ろしていた荷物を拾い上げるとセラフ達が逗留する宿へと向かう。

 そのすぐ後ろをトコトコと、雛鳥のような足取りでケイシーが付き従っていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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