セラフは新たなる道を模索する 1
「笑いたければ、笑えばいいのですわ!!えぇ、可笑しいでしょう!!あれだけ威張り散らしていた私が、これほど落ちぶれているのですもの!!」
エッタがセラフに思うがままに引っ張られていた距離は、彼女がショックから立ち直るのに必要な時間を示している。
それが長くなったのは、それだけ彼女がそれにショックを受けていたからか。
それでも長い時間を経て、セラフの手を振り払ったエッタは開き直ったように見える。
彼女のその大きな瞳の端に浮かんだ、一筋の涙を無視すれば。
「笑わないよ、エッタ。笑わない・・・でも、出来れば聞かせてくれない?何で、あんな事に?エッタの家は私の家と同じぐらい・・・うぅん、それ以上に裕福だった筈でしょう?」
貿易の要衝である港を押さえているセラフの家と同じ以上に、エッタの家は裕福である筈である。
それはエッタの家が、この国でも有数の金鉱を有している事からも明らかであるが、その事実と先ほどの彼女の振る舞いは、どう考えても矛盾したものであった。
「そ、それは・・・本当に、笑いませんの?」
「笑わない、笑わない!私なんて、マックスと喧嘩した挙句、アリーにまで暴言を吐いちゃったんだよ?そんな私が、エッタを笑える訳ないじゃん?」
セラフの問い掛けにエッタは言葉を詰まらせると、彼女に窺うような視線を向けている。
そんな彼女の視線をセラフは軽く笑い飛ばすと、自分もまたやらかしてきたところなのだと語っていた。
「マックスって、あのマックスですの!?今のあの方は・・・ふ~ん、一緒に冒険したのですか・・・羨ましいこと」
「えっ、なに?何か言った?」
「な、何でもないですわ!!」
セラフが語る失敗談にも、エッタはその内容よりもそこに出てきた名前の方が気になっているようだった。
彼女達共通の幼馴染であるマックス、しかしエッタはそれをまるで遠い存在かのように口にする。
そんな彼女が羨んだ相手は、目の前のセラフか、それとも。
「お、おほんっ!私があのような事をした訳でしたわね!それは・・・お金がないからですわ」
「それは分かってるけど・・・でも、どうして?エッタのお父様なんて、貴女をあんなに甘やかしていたじゃない?お金を出し渋るとも思えないのだけど・・・?」
何かを誤魔化すように咳払いをし話題を切り替えたエッタは、先ほどの振る舞いの理由について語り始める。
しかしその内容は、先ほどの場面を一目でも見れば分かるものであり、セラフはそんな事よりも何故、彼女がそんな状況に陥ったのかの方が気になっているようだった。
「お父様は、お金を出し渋ってなどいませんわ!!私が、私がそれ以上に使い込んでいるのが悪いのです・・・」
「?一体何に、そんなにお金を使ったの?こんな所じゃ、お洒落なアイテムも買えないでしょ?」
父親の度量を疑われたエッタは、それに対して激しく憤る。
しかしそれを否定した後の彼女の声は、段々と小さくなっていってしまっていた。
彼女は父親から渡された莫大な資金を使い込んでしまったと話すが、セラフは一体何にそんなにお金を使ったのか、想像も出来ないようだった。
「憶えていますか、セラフィーナさん?私が引き連れていた仲間達の事を」
「憶えてる憶えてる!そうだよ、あんな強そうな仲間がいたじゃん!あの人達と協力すれば、幾らでも稼ぎ放題なんじゃないの?」
エッタはその疑問の答えとして、自らが引き連れていた仲間達の事を口にする。
しかしセラフからすればその存在は、寧ろを金を生み出してくれる者達にしか思えず、余計に彼女が何故そんなにも困窮してしまったのか分からなくなってしまっていた。
「違いますの、セラフィーナさん。実は・・・あの方達は私の仲間でも何でもなく、雇っているだけの方達なのです」
「そうなの?あんなに仲よさそうにしてたのに?」
そうして彼女は告白する、彼らは仮初の仲間に過ぎないと。
彼らが自らを慕って集まってきた仲間達なのではなく、お金で繋がっているだけの関係だとばらした彼女は、それを心底恥じるように顔を赤らめている。
しかしセラフには、俄かにその言葉を信じることは出来なかった。
何故なら、あんなにも彼らとエッタは仲良くしていたのだから。
「あ、あれは!あれも、私が頼んだ事ですわ・・・でも、そうした振る舞いにも金銭が要求されて・・・ふふふっ、馬鹿ですわよね私。見栄を張るためだけに、こんな・・・こんな事に・・・」
その仲睦まじい姿も演技でしかなかったと、彼女は語る。
しかもそれをさせるために追加料金まで支払ったと語る彼女は、そんな小さな見栄のために失ったものの事を思い、ぽろぽろと涙を零し始めてしまっていた。
「そ、そんな事ないって!!ほら、私だって見栄っ張りだし!!エッタと同じ立場なら、同じ事してたって!そうだ、これあげる!綺麗でしょ?」
ぐずぐずと鼻を啜りながら泣き出してしまったエッタの姿に、慌てふためくセラフは必死に彼女を慰めようと言葉を探している。
しかしそんな言葉が、今の彼女に届くだろうか。
一向に泣き止む気配のないエッタに、セラフは新調したばかりのポーチからポーションの小瓶を取り出すと、それを彼女へと差し出していた。
「・・・これは?」
「ちょっと前に買った・・・じゃなくて、貰ったポーション。綺麗でしょ?二つあるから、エッタに一つあげる」
「綺麗・・・その、ありがとう。セラフィーナさん」
セラフが手渡したのは、キラキラと輝く綺麗な液体が満たされたポーションだ。
それは精巧な作りのガラス瓶と合わさり、日の光を浴びては眩く輝いている。
その眩しさにエッタは目を細め、その表情は彼女から最後の涙を奪っていた。
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