駆け抜ける彼女は周りを省みない
「何やってんだろ、私・・・ランディは何も悪い事してないのに」
惨めさから逃げ出しても、そこにはさらに深い惨めさが待っているだけ。
ただただ自らの研究成果を、それを手伝ってもらった人に聞いてもらいたかっただけの、ランディの願いはささやかだ。
そんなささやかな願いすら叶えてあげられず、そこから逃げ出してしまったセラフにとって、それは強烈な自己嫌悪を齎す理由にもなる。
行く当てもなくとぼとぼと歩くセラフの口からは、絶え間なく溜め息が漏れている。
それはどれだけ時間が経とうとも、治まる様子は見られなかった。
「お、お嬢ちゃん!どうだったい、あのアイテムは役に立ったかい?あぁ、そうだ!お嬢ちゃんに渡したアイテムの中に、一つ効果が分からないものがあったんだが・・・あれの効果が分かったら、おじさんにも教えてくれよ?」
当て所なく歩いていた筈の足はしかし、どこか見覚えのある道を自然と選んでしまうものだ。
気付けばセラフは、以前訪れた露天の前へと足を進めてしまっていた。
セラフほどの飛び切りの美人であれば、店主の覚えもいいのだろう。
通り掛かった彼女に、店主のおじさんは気さくに声を掛けてきていた。
「はぁ・・・本当、どうしようもないわね」
しかしその声は、自らの事で手一杯のセラフの耳には届かない。
「お、おい!お嬢ちゃん!?・・・一体、どうしちまったんだ?」
ふらふらと彷徨うような足取りで去っていくセラフの姿に、店主のおじさんにも無視された怒りより心配の方が先に来る。
彼女のどんよりとした暗いオーラに、自然と周りの人混みも道を譲り、その先が塞がれる事はない。
そんな中をふらふらと去っていく彼女の背中を、店主のおじさんはいつまでも心配そうに見詰めていた。
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