怒りのままに彼女は走る
「何よ何よ!ちょーっと甘い顔みせたら、すーっぐつけ上がってさ!あぁ、やだやだ!!だから男ってのは・・・!!」
マックスと別れ、一人ダンジョンを進むセラフは、まだ怒りが収まらないのかぷりぷりと肩を怒らせながら彼への文句を垂れ流している。
その怒りは留まる事を知らず、彼女の口も塞がる様子はない。
しかし彼女は憶えているだろうか、ここはまだダンジョンの中であり、今はもうその身辺を守ってくれるマックスもいないのだという事を。
「大体、私は始めからダンジョンの奥になんか興味なかったのよ!それをあいつが無理やり・・・私は善意でついていってあげたっていうのに、あいつときたら・・・!あぁもう!思い出したら、また腹が立ってきたわ!!」
気付けば彼女の周りには、ぞろぞろと魔物達が集まってきていた。
それはそうだろう、彼女は大声で文句を喚き散らしながら歩いているのだから。
それは魔物達にとって、誘蛾の灯りに他ならない。
しかしそんな状況にも、怒りに目が眩んでしまっているセラフは、それに全く気付く素振りも見せなかった。
「ガルルル、ガウッ!!」
その中の一匹が唸り声を上げ、セラフに向かって飛び掛る。
それを合図に、周りの魔物達も一斉に彼女に向かって飛びかかり始めていた。
しかしこの期に及んでもセラフはそれに気付く様子は見せておらず、今だにぶつぶつとマックスに対する文句を呟いていた。
「おまんら、止めるぜよ!!」
セラフの無防備な首筋に、魔物達の牙は迫る。
その時、響いた大声はどこか聞き馴染みのある不思議な訛りを帯びていた。
「このっ、それ以上近づかないで!!」
響いた大声と共に吹き荒れたのは、一陣の暴風か。
それはセラフに迫ろうとしていた魔物達のほとんど吹き飛ばし、粉々に打ち砕いている。
しかしその暴風でも全ての魔物が葬られた訳ではなく、僅かに生き残った魔物達がセラフの首筋へと迫っていた。
それを撃ちぬいた矢は、どこか穏やかで優しげな声と共に飛来する。
「セラフ殿、無事ぜよ!?」
「セラフ、大丈夫だった!!?」
セラフの窮地に現れたのは、かつて彼女と冒険を共にした仲間、アリーとウィルソンであった。
セラフが選んだ分かれ道は、どうやらマックスの言う通り以前通った道であったようで、それはダンジョンの入口へと続いていたようだった。
その道を怒りのままにひたすら進んだセラフは、気付けば入口の付近にまで辿りついていたようで、それが彼女を探す者達との合流という結果を齎していた。
「お嬢様、ご無事でしたか!!あぁ、本当に良かった・・・」
それぞれの得物を掲げる二人の後ろから、この場に似つかわしくないひらひらとした衣装を身に纏った女性が進み出てくる。
その女性はセラフの姿を目にすると、涙を浮かべてその場へと崩れ落ちる。
この場に現れた二人の冒険者、アリーとウィルソンを呼び寄せたのはどうやらその女性、ケイシーのようだった。
「・・・さい・・・てよ」
手際よく周りの魔物達を仕留める冒険者の二人に、周囲の魔物達はすっかりその数を少なくしてしまっている。
その数がゼロになるのも、時間の問題だろう。
そんな状況を知ってか知らずか、セラフは一人何事かを呟いている。
「お嬢様?何か、仰いましたか・・・?」
主の言葉を聞き逃してしまったケイシーは、それを気にして彼女へと尋ね返す。
しかしそんなケイシーの態度が気に障ったのか、セラフは鋭く彼女を睨みつけると、大きく息を吸い込んでいた。
「うるさい、ほっといてって言ったのよ!!!」
自らを気遣うようにその手を伸ばしてきたケイシーを振り払って、セラフは拒絶の言葉を叫ぶ。
それと同時に彼女は駆けだし、その姿はあっという間に見えなくなってしまっていた。
「お嬢様・・・」
自らの優しさを拒絶されたにもかかわらず、ケイシーはただただ寂しそうにセラフが去っていった方角を見詰めている。
その背後では、魔物の掃討を終えたアリーとウィルソンが困ったような表情で、お互いの顔を見合わせていた。
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