しかしそれは長続きしない
それは恐らく、些細なすれ違いから始まったのだろう。
それ自体はどうって事のない問題で、気にも留めない出来事であったが、そんな事も積み重なれば大きな苛立ちとなって表面化してしまう。
そうしていつか気付くのだ、この目の前にいる存在は気に食わない奴なのだと。
「だ・か・ら!!あっちの方が正解に決まってるでしょ!!?」
「そんな訳があるか!向こうにはさっきから何度も通ってるだろ!!いつまで同じ所をうろうろしているつもりだ!!いいから黙って、俺の指示に従え!!」
複雑な構造のダンジョンに、迷ってしまうのは不可抗力ともいえる。
しかしそれが何度も繰り返されれば、不満も溜まってくるというもの。
それは潜めていた筈の対立を再燃させるという形で表面化し、今も激しく言い合う二人の姿に帰結していた。
「はぁーーー!?あんた頭おかしいんじゃないの!?そっちこそ、何度も通った道でしょ!!そんな所より、こっちがあってるに決まってるじゃない!!」
「それが間違っていると、さっきから何度も言っているだろう!?よく見てみろ!あそこの岩の形が、さっき通った所とは違うだろ!!こっちはまだ行った事のない道だ!!!」
目の前に存在する分かれ道の左右を指差しては、それぞれそちらが正しい道だと主張する二人は、決してそれを譲ろうとはしていない。
正しい道を巡って議論する、その事自体は有用なものであったかもしれないが、それがお互いの感情をぶつけ合うだけの水掛け論ともなれば話は別だ。
長くなっていく議論に、段々とヒートアップしていった感情は、既に取り返しのつかないレベルにまで達してしまっていた。
「もういい!私はこっちに行くから!!あんたは勝手にすれば!?まぁ、どうせ!後から私についてくることになると思うけど!!」
「はっ、言われなくてもそうしてた所だ!!先に言っとくが後から泣きついてきても、もう助けてやらないからな!」
「ふん!そんなの、こっちから願い下げよ!!」
それは当然、喧嘩別れという結末を齎してしまう。
もはやお互いこれ以上話し合っても無駄だという結論を下した二人は、それぞれに正しいと主張する道へと向かって進んでいく。
そのわざとらしいほどにお互い背けあった顔は、折角いい感じに縮まった筈の距離を再び遠ざけてしまった事を如実に現していた。
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