二人の相性
「そっちいったわよ!」
「分かってる!そらっ!」
このダンジョンを訪れる冒険者の多くはレベル上げに熱心であり、こんな低層などすぐに飛び越えて上へと上がっていく。
そのため低層の、さらに奥であるこの場所などに訪れる者は少ない。
そうなれば、どうなるか。
魔物の大量発生である。
「大方は片付けたか・・・?」
如何に相手にもならない魔物達といえど、それを数限りなく相手するとなれば疲労もしてくるというもの。
もはや数得るのが億劫になるほどに剣を振り続けたマックスは、その最後の相手を切り伏せ終え、疲れきったように息を漏らす。
彼が口にしたように、視界覆い尽くすほどの数がいた魔物達は、すっかりその姿を消したようだった。
「そうね・・・っ!?マックス、そこっ!」
ダンジョンの魔物達の多くは、侵入者を見つければ一直線にそれへと襲い掛かる。
しかし中には息を潜め、じっとチャンスを窺うものもいた。
それはまさに、ようやくの一段落に一息をついているマックスを狙い、物陰から飛び出してきていた。
「ちっ!しつこいっ!!」
それにセラフが気づけたのは偶然か、それともせめてそれぐらいは役に立たないとと彼女が気を張っていたためか。
とにかく物陰からマックスの急所を狙い飛び出してきた魔物は、彼の手によってギリギリの所で叩き落されていた。
「ふんっ、焦らせやがって」
「危なかったわね・・・どう?私も結構、役に立つでしょ?お礼の一つも、いってくれていいのよ?」
幾ら圧倒的に格下の魔物といえど、無防備な急所を突かれればそのダメージは計り知れない。
その危険をどうにか回避したマックスは、それを齎そうとしていた魔物を見下ろしては悪態を吐いている。
そんな彼に近づき軽く気遣う様子をみせたセラフは、すぐに自らの成果を誇り始めては、彼からのお礼の言葉を要求していた。
「・・・・・・助かった」
「何々ー?よく聞こえなかったんですけどー?もう一回いってもらえませーん?」
セラフの恩着せがましい態度も、彼女に助けられたことは事実であった。
そのためマックスは彼女から顔を背けながら、ぼそりと感謝の言葉を呟く。
しかしその小さな声は、彼女によく聞こえないからもう一度いってと要求出来る理由を与えてしまう。
そうしてさらに馴れ馴れしく近づいてきたセラフの事を、マックスは肩を怒らせては振り払っていた。
「っ!さっさと先に進むぞ!!」
照れ隠しのためか、マックスは先を急いでは足を速めている。
しかしその息はまだ、上がっているように見えた。
「えー?ちょっと休憩していった方が良くない?私、もう疲れちゃったんですけどー?」
「・・・ふん、好きにしろ」
セラフが口にしたその言葉は、彼女が純粋に疲れてしまったからか、それとも彼のこと気遣ったが故のものか。
それは分からないが、確かな疲れを実感していたマックスはその声に足を止め、彼女の言葉に同意していた。
「ありがと。あ、これ食べる?ケイシーが用意してくれた、保存食なんだけど」
「あのメイドがか?なら、安心だな」
足を止めたマックスに、早速その場へと腰を下ろしたセラフは、ポケットから何かを取り出すをそれを彼へと差し出している。
それは食料を棒状に押し固め、乾燥させた保存食だろう。
それがセラフ作のものではなく、ケイシーが作ったと聞いて安心したマックスは、早速とばかりに一口それを口にしていた。
「何よ、それー?私が用意したものじゃ、不安ってわけー?」
マックスの言動に軽口を叩き、けらけらと笑っているセラフもまた、それを一口齧ると満足そうに笑みを浮かべている。
ここまでの道中で、彼女もまた疲れてしまっていたのか、保存食を齧る二人は自然と押し黙り、沈黙の時間が流れる。
(・・・なんだろう、すっごく動きやすい。アリーやウィリアムと一緒の時も悪くはなかったけど・・・こいつの場合はなんていうか、気を使わなくていいっていうか・・・)
(・・・やりやすいな。はっ!俺は今、何を考えていた・・・?)
沈黙の時間は自然と、お互いの事を考えさせる。
そうして二人は、同じ結論へと至ってしまっていた。
それはつまり、この組み合わせはとてもやりやすく、相性が抜群であるという事実であった。
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