美女の危機にヒーローは現れる 3
「ちょっと!!あんた、何!?また私を見捨てて行こうっての!!?そんなの、許さないんだから!!」
この場を足早に立ち去ろうとするマックスの姿に、以前と同じように彼が自分をこの場に捨て置いていこうとしている事を察したセラフは、慌てて彼を追かけようとする。
しかしその周辺にはマックスによって切り捨てられた男達の身体が散らばっており、中々その場から動く事が出来なかった。
「知るか!それぐらい、自分でどうにかしろ!!・・・っと、何だ?ここを進むには、何かアイテムが必要なのか?ちっ、ここ以外はもう一通り回ったってのに・・・面倒な」
セラフを見捨て、先を急ぐマックスはしかし、ダンジョンの仕掛けに詰まり足を止めてしまっていた。
軽く調べても開く様子のないその扉は、どうやら何か鍵となるアイテムが必要らしい。
もはやその先以外に調べる所の思いつかないマックスは、軽く舌打ちを漏らすと困ったようにその場で頭を悩ませてしまっていた。
「仕方ない、一旦戻るか・・・とんだ無駄足だったな」
先に進む手段のない現状に、マックスは早々に諦めをつけると踵を返して帰路へとつこうとする。
そんな彼に、後ろから忍び寄る影が一つ。
「マーーーックス!!置いてなんて行かせないわよ!!一回手を差し伸べたんだから、最後まで面倒見なさいよね!!」
それは後ろから彼へと飛び掛る黒髪の美女、セラフであった。
マックスの身体を後ろから羽交い絞めにした彼女は、決して置いては行かせないとその腕に力を込めていた。
「あぁ!?そんな事まで面倒見切れるか!!てめぇは一人で勝手に帰ってろ!!」
後ろからしがみついてくるセラフを、マックスは乱暴に振り払おうとその手足を暴れさせている。
彼らの実力差を考えればすぐに振りほどかれてしまう筈のそれを、セラフが粘ってみせたのは執念の為せる業だろうか。
縺れ合う彼らは、自然と閉ざされた扉の方へともたれ掛かってしまっていた。
「ん?何だ・・・?何かが光って・・・?
「何々?何よ、これ!?あんた強いんでしょ!?何とかしなさいよ!!」
その時、どこかから不思議な光が溢れ始める。
それはセラフが露天の主から貰ったおまけのアイテムを、適当に放り込んだポケットからであった。
「うおっ!!?」
「きゃあ!!?」
それが一際眩く輝くと、先ほどまで閉ざされていた扉が消滅していた。
それはそこに背中を預けて二人からすれば、支えが急になくなってしまうことを意味している。
「ふふ、ふふふっ、あーっはっはっは!!どう!?これで私を置いて行けなくなったでしょう!?」
見事にすっ転び、地面へと横になった二人はしかし、その片方だけが不敵に笑みを漏らし始めていた。
それは自分が手にしたアイテムによって道を拓いた、セラフによるものだ。
彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべると、マックスに対してこれで私が必要になったでしょうと自信満々な表情を見せていた。
「はっ、確かにここを開けてもらったのには感謝するが・・・それならもう、用済みの筈だろう?」
マックスではどうする事も出来なかった扉を開けた、セラフの功績は確かなものだ。
しかし逆にいえば、彼女の役割はそれで済んだともいえる。
そう語るマックスにも、何故かセラフの表情は揺らぐことはなかった。
「ふふーん、果たしてそうかしら?これを見なさい!!」
「・・・これは?」
自信満々な表情で鼻を鳴らしたセラフは、そのポケットからアイテムを取り出すと、それをマックスへと見せ付けている。
それがどんな意味があるのか分からない彼は、素直にそれを彼女に問いかける事しか出来なかった。
「露天のおじさんから貰ったアイテムよ!!私みたいな冒険者には必要っていってたから、きっとこの先を進むのに必要なアイテムな筈だわ!!どう、これでも私を置いて行けるっていうの!?」
ランディに過剰な金銭を渡された露天の主人は、それに相応するアイテムをセラフに渡す事で釣合いを取らせようとしていた。
そのアイテムはセラフのような、駆け出しの冒険者に必要なアイテムだという。
それならば確かに、その中にこの低層を進むための鍵となるアイテムが含まれていてもおかしくはなかった。
「・・・ちっ、ならさっさと先に進むぞ」
「ついて行っていいの?」
「・・・好きにしろ」
セラフの話は、実際にこうして扉が開いた後になっては説得力があった。
それはマックスも認めるしかなく、彼は心底嫌そうな表情を見せながらも、彼女がついてくることを認めていた。
「ふふーん?何よ本当は嬉しいくせにー!うりうりー」
「止めろ、うっとおしい!」
セラフが同行する事を認めながらも、まだどこか憎まれ口を利いているマックスに対して、彼女は馴れ馴れしい態度で近づくと、彼の脇腹をその肘で突いていた。
マックスは当然、すぐさま彼女の腕を振り払うがその手の力も強くはない。
彼らは近づいたり離れたりを繰り返しながら、洞窟の奥へと消えていく。
それまでに、その騒がしい声が途切れることは決してなかった。
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