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市場で出会った奇妙な男 1

「ふふん、流石はケイシーね。いいものを手に入れてくるじゃない?」


 あれだけ渋った外出にもかかわらず、セラフが上機嫌なのはその腰のベルトに付けられている、お洒落なポーチのためか。

 彼女はそれを愛おしそうに撫でると、どこか落ち着かないようにそわそわと身体を揺り動かしている。

 そんな可愛らしい振る舞いを見せている絶世の美女に声を掛けてくる者がいないのは、ここが冒険者用のアイテムが集う市だからだろうか。

 彼らはそれぞれに必要なアイテムを探すのに夢中で、その真ん中にある小規模な噴水の縁に座っているセラフへと気をやっている余裕はなさそうだ。


「ケイシーも買出しに出かけちゃったし、私もちょっとその辺りを見て回ってこようかな?これに入れるポーションでも・・・って、それじゃ私がダンジョンに行きたいみたいじゃない!?」


 周りの賑やかな様子に、そわそわと肩を揺すっているセラフは、もう辛抱溜まらんと立ち上がると自分も何か買ってこようかと歩き始めている。

 彼女はそのお洒落なポーチを撫でては、それに丁度いいサイズであろうポーションでも探そうかと考えるが、それはまるで冒険者のような思考であった。


「えっ!?もしかして、ケイシー・・・貴女、それを狙って?ぐぬぬぬ・・・やるわね」


 そのポーションが丁度よく入りそうな小ぶりなポーチは、明らかにそれを狙った代物であろう。

 そんなものを渡されてしまえば、思わず冒険者的な振る舞いを行ってしまう。

 それは自然と、彼女をダンジョンへと誘っていた。

 あの短時間でそれを狙いつつ、彼女が満足するクオリティのアイテムを探してくるケイシーの手腕に、セラフは思わず戦慄の呟きを漏らしていた。


「うー・・・でもこういうのは使ってこそだしなぁ。はぁ・・・お洒落な香水の小瓶でも売ってたらいいんだけど。そんなの、ある訳ないわよねぇ?」


 その小ぶりなポーチは、ポーチカバーの隙間から中身がチラリと垣間見える構造となっている。

 そこからポーションの小瓶が覗けば、それは間違いなく可愛らしくあるだろう。

 そして往々にしてポーションというものは、それぞれにカラフルな色身をしており、それもまたお洒落さに拍車を掛ける要素となる。


「うーん、もしかしてどっかに売ってたり・・・しないわよね?うん、これは・・・?」


 せめてもの抵抗に、そのポーチに合いそうな香水の小瓶をセラフは探すが、そんなものがここで売られている訳はない。

 しかし通りを歩いていれば、それっぽい小瓶を目にすることもある。

 露天に並べられていたキラキラと輝く液体に満たされた小瓶に、セラフは思わず手を伸ばしていた。


「あぁ!?間に合わなかった!!」


 セラフが何ともなしに手に取ったその小瓶は、この市の立地を考えれば恐らく何かしらのポーションなのだろう。

 美しいその外見を一頻り堪能し満足したセラフは、それをそっと戻そうとする。

 そんな彼女の背後から、心底悔しそうな声が響いていた。


「はぁ、参ったなぁ・・・ようやく見つけたのに」


 背中へと響いた声にセラフが振り返ると、そこには青みがかったぼさぼさの白髪に、まだこの辺りでは珍しい眼鏡を引っ掛けた猫背の青年の姿があった。

 彼はそのただでさえぼさぼさの髪をさらに掻き混ぜながら、とぼとぼと引き返していく。

 その格好は、この辺りでよく見かける冒険者風のものではなく、どちらかというと学者や研究者といった風体であった。


「私、別に買わないから。欲しいなら、どうぞ」

「えっ!?いいんですか、本当に!!?これ、相当貴重なものですよ!!?」

「そうなんだ?でも、私には分かんないし。別にいっかなって」


 如何にもがっかりといった様子で、とぼとぼと引き返していく男に、セラフは声を掛ける。

 彼女からすればそれは、偶々手に取っただけの代物なのだ。

 明らかにそれを目的にここまで走ってきたであろうその男から、それを奪い取るほどの理由など彼女にはなかった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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