セラフ式レベルアップ術 2
「何よ、私が悪いっていうの!?あんたがちゃんと狙わないのが悪いんでしょ!!」
「いや、それはだから指示が遅いからで・・・分かったぜよ、わしが悪かったぜよ!」
ウィリアムの尤もな反論にも、セラフはただただ感情論を喚き散らしては捻じ伏せてしまっている。
そんな彼女の様子に、ウィリアムももはや何を言っても無駄だと諦め、白旗を掲げては頭を下げてしまっていた。
彼の身体には、今もポコポコと魔物達が攻撃を続けていたが、それが響いた様子はない。
「次はちゃんと当ててよね!」
「おぅ!任せるぜよ!!」
自分の方が悪かったと降参をする様子を見せたウィリアムに満足げに頷いたセラフは、次は外すなと彼に指を突きつけては厳命する。
彼女の厳命に、ウィリアムも任せてくれと腕を叩く。
その腕には、ぞっとするほどに見事な力こぶが盛り上がっていた。
「いっつも、返事だけはいいんだから。ほら、前っ!!」
自らの言葉に調子よく応えてみせたウィリアムに、セラフはどこか呆れたように頭を抱えてしまっている。
そんな彼女の視界に、ふらふらとウィリアムの前へと近づいてくる魔物の姿が映っていた。
セラフはその姿に、鋭く叫ぶ。
そいつを潰せと。
「っ!?うおぉぉぉっ!!!」
そしてその声に反応するウィリアムの拳は、さらに鋭い。
彼女の命令を忠実に守ろうとする彼の動きは、それ故に全力のそれに近く。
それは明らかに、こんな低層にいる魔物相手にはオーバースペック過ぎた。
「やった・・・の、これ?」
余りの速度と破壊力を持つ一撃を叩き込まれた魔物は、風船が弾けるような音だけを立てて消し飛んでしまっている。
それはまさに消滅といってもいいほどの出来事であり、一滴の血や肉片すら残さずに消えたその結末に、セラフは喜び掲げかけた両手を思わず迷わせてしまっていた。
「や、やったぜよ!手応えはちょっとあれだったけども・・・間違いないぜよ!!」
「ふーん、ならいいや。やったじゃん!いえーぃ!!」
弱すぎる魔物に、その手応えも僅かしかない。
それでも確かに仕留めた実感があった拳に、ウィリアムは必死に成果をアピールしている。
その主人が放り投げた棒を取ってきた後の子犬のような表情は、セラフの心にも届いたのか。
それは分からないが、彼女はその成果を受け入れると歓声を上げ、片手を高く掲げていた。
「ど、どうすればいいぜよ?都会の人の振る舞いは、分からんぜよ!?」
「ここを手の平で叩けばいいのよ。あ、いっとくけど。そっとよ、そーっと。分かってるわよね?」
「わ、分かってるぜよ!そーっと、そーっと・・・」
セラフが笑顔で掲げている手を前に、ウィリアムはどうしたらいいのか分からないと戸惑ってしまっていた。
そんなウィリアムの姿に、セラフはここに手を合わせればいいだけだと優しく語り掛けるが、彼女は今更ながら彼のその異常な力を思い出し、それに注意を促していた。
「はい、いえーぃ!!」
「い、いえーぃ、ぜよ」
自らの異常な力で、この目の前の美しい女性を傷つけてしまわないかと、恐る恐る手を伸ばしてくるウィリアムに、セラフは自分から軽く手を合わせると楽しそうに声を上げる。
彼女のそんな振る舞いに、ウィリアムを慌てて追かけて声を上げていた。
「よーし、要領は掴んだわ!!どんどん行くわよー!!ついて来なさい、ウィリアム!」
「任せるぜよ!!」
ようやくうまくいった魔物の撃退にセラフは気分を良くすると、一気に行くぞと拳を突き上げて進み始める。
彼女のそんな声に、威勢よく応えたウィリアムもまた、その背中を追うように駆け出し始めていた。
「はぁ・・・ようやくうまくいきましたね。全く、お嬢様は・・・でも、これでようやく一安心といったところですか」
「うーん、それなんだけど・・・ごにょごにょ」
セラフとウィリアムのちぐはぐなやり取りを見守っていたケイシーは、ようやく仕留められた魔物の姿に溜め息を漏らしている。
彼女はウィリアムを振り回してばかりのセラフの振る舞いに呆れるように首を振っていたが、それでもようやくこれで一安心だと、ほっとした様子を見せていた。
そんなケイシーの言葉に、アリーは何か言い辛い事があるかのように唇をむにむにと動かしている。
そうして彼女は意を決すると、ケイシーの耳元で何事か呟いていた。
「ええっ!?ウィリアム様が幾ら倒しても、お嬢様のレベルは上がらない!?それは本当でございますか、アレクシア様!!?」
「こ、声が大きいよケイシー!?その、伝えるタイミングがなくって」
アリーがケイシーにこっそり伝えたのは、セラフが今やっていることは全くの無駄であるという事実だった。
その余りの驚きの事実に、ケイシーは思わず大声を上げてしまう。
しかしその事実をセラフに伝えるタイミングを計っていたアリーは、彼女の大声に慌てふためき、大急ぎでその口を塞いでしまっていた。
「・・・それ、マジ?」
しかしそれは、余りに遅すぎた。
先ほどまであれほど意気揚々と先に進もうとしていたセラフは、今や幽鬼のような表情でアリーの目の前で佇んでいる。
その後ろで、ウィリアムだけが良く状況を分かっていなさそうに、ニコニコと眩しいほどの笑顔を振りまき続けていた。
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