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婚活の第一条件がレベルになったけど、私は絶対にレベル上げなんてしない!!  作者: 斑目 ごたく
私は絶対にレベル上げなんてしない!
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花園の乙女達

「私、マックスのお嫁さんになる!!」


 突然響いたその声に呼応するように舞い上がった花弁は、それを祝うように華やかな色味を振り撒いている。

 一面に広がる花園の真ん中で、小さく輪を作り何やら手元を弄っている様子の少女達。

 その中の一人が突如立ち上がり、隣に座っていた少年へと愛の告白を叫んでいた。


「セラフ!ずるいわよ、抜け駆けして!!それは一緒にって、約束したじゃない!!」


 ただでさえ異性の集団の中に一人、ポツンと放り込まれた肩身が狭い様子のマックスと呼ばれた少年は、黒髪の少女セラフに腕を抱きしめられてはさらに戸惑ってしまっている。

 そんなセラフの振る舞いに激昂し、声を荒げる金髪の少女がいた。

 彼女は花園の花弁を盛大に巻き上げながら立ち上がると、セラフに指を突きつけては対抗するように大声を上げる。


「ふふーん!そんな約束知らないもんねー?それにお母様も言っていたわ、男と美味しい食事は早い者勝ちだって!」


 しかしそんな少女の文句を受けても、セラフは一向に気にした様子を見せない。

 それどころか彼女は少女に見せ付けるように、そのまだ全く発達していない胸をマックスの腕に擦り付けてすらいた。

 その仕草の意味を、彼女はまだ理解してすらいないだろう。

 しかしそれを彼女からやられた当の本人であるマックスと、もう一人この場にいた栗色の髪の少女はその意味が分かるのか、顔を真っ赤に染めてしまっていた。


「ぐぬぬぬ・・・な、なら私だって!!マックス!私も貴方のお嫁さんになりたい!!マックスも私の方がいいよね・・・?」


 セラフが適当にぶち上げた理論にも、まだ世間を知らない子供の心には刺さるのか、金髪の少女は口惜しそうに呻き声を漏らしていた。

 そんな少女の姿にセラフは勝ち誇った表情を見せていたが、それも彼女が再び顔を上げるまでの話しだ。

 追い詰められた窮鼠は猫も噛む、それがまだ恋も知らない乙女であれば、その威力も尚更だろう。

 決意を秘めた瞳にうっすらと涙すら浮かべ、その愛を告白した少女の姿は、とても美しいものであった。


「うっ!?そ、それは・・・その・・・」


 そんな少女の姿は、まだ無垢な少年の心にも響いてしまう。

 セラフに腕を絡めとられ、その身体を擦りつけられているマックスはしかし、目の前の金髪の少女の方へと心を惹かれ、そちらへと向かう素振りを見せてしまっていた。


「あっ!なに、揺らいでんのよマックスの癖に!!私がお嫁さんになってあげるって言ってるのよ!?それを・・・他の女に告白されたぐらいで揺らぐなんて、どうかしてるんじゃないの!!?」


 そしてそんな少年の振る舞いは当然、セラフの心を苛立たせる。

 こちらをチラリと伺っては、自分とは違う少女の下へと行きたそうにしている少年の姿にセラフを声を荒げると、自分の相手に選ばれたことを光栄に思えとさらに上から圧力を掛けてきていた。


「おーっほっほっほ!!負け惜しみはよしてくださる、セラフさん。マックスは私の方が良いと言ってますのよ!ささ、お早くその手をお放しになって!」


 こちらへと明らかに揺らいでいる少年の姿とそれに執着するセラフの姿に、本来の自信の取り戻したのか先ほどまでの純粋な少女の姿を脱ぎ捨てた金髪の少女は、口調までをも別物に変えている。

 そのお嬢様然とした高笑いと仕草は明らかにその少女に似合っており、それが彼女の本来の姿なのだろう。

 セラフに対して堂々と勝利宣言をした少女は、さっさとマックスを放せと彼の腕を引っ張り始めていた。


「嫌よ!早い者勝ちだって、いったもんね!!マックス、あんたもちゃんと嫌っていいなさいよ!」

「マックス!そんな事いわなくても良いのですのよ!!貴方はただ、私の腕の中に戻ってくればいいのですわ!!セラフ!いい加減諦めて、その手を放したらどうですの!?」

「放すのは、あんただっての!!」


 お互いの主張が平行線を辿れば、後は力で決着をつけるしかなくなってしまう。

 今回の件もその例に漏れず、お互いに自分の方が正しいと主張する少女達は、その対象である少年を引っ張っては、無理矢理それをもぎ取ろうとしていた。


「い、痛いよ二人とも!は、放して・・・!!」


 まだまだか弱い少女達の腕とはいえ、その対象が恋とあれば思わぬ力を発揮するというもの。

 そんな意外なほどの力で二人から引っ張られている少年の腕は、当然のように酷い痛みを齎し、彼は必死に放してと訴えかける。

 しかし、そんな声に二人が聞く耳を持つ訳がない。


「ふ、二人とも!!マックスが可哀想だよ!え、えーい!!」


 それでも、そんな彼の声を聞き届ける者も、ここにいた。

 それまで縺れ合う三人の間で、おろおろとしているばかりだった栗色の髪の少女は、苦しそうなマックスの姿に意を決すると、一気に二人の間に割って入り彼の事を救出する。


「ア、アリー・・・ありがとう、助かったよ」

「う、うん。大丈夫、マックス?痛い所ない?」


 思い切った突撃は、駆け抜けるアンバランスを生み出している。

 二人の少女の手からマックスを救い出した栗色の髪の少女、アリーはそのままバランスを崩して花園の中へと倒れこんでしまっていた。

 それでも、花園のクッションはそんな二人に痛みを届けることはない。

 咲き誇る花々の中に倒れこんだ二人は、お互いに気遣うように言葉を交わす。

 それはどこかはにかんだ、愛の囁きの姿に似ていた。


「えっと・・・うん、大丈夫みたい」

「良かったぁ・・・ごめんね、うまく助けられなくて」

「ううん、そんな事ないよ!・・・アリーみたいな子が、お嫁さんだったら嬉しいのに」

「っ!えへへ・・・わ、私も、マックスみたいな優しい旦那様がいいな」


 お互いの無事を気遣う少年と少女は、自然とその距離を縮めていく。

 その中で思わず少年が零した声は、紛れもない本音であろう。

 そして少女にとっても、その言葉は満更でもないものであった。


「あーーー!!!アリーはすぐ、そういう事するー!!!」

「そうですわ、そうですわ!!大人しい振りして、アリーはいつもそうですわ!!!いつも一番おいしい所を・・・許せませんわ!!!」


 そんな少年と少女の姿に、先ほどまでいがみ合っていた二人が今度は手を取り合って、同じ主張に声を荒げている。

 彼女達は自分達が必死に争って奪い合っていたものを、アリーがあっさり手に入れようとしているが気に食わないと声を揃えて主張してた。


「そ、そんな事ないよぉ!」

「いいえ!そんな事ありますわ!!ねー、セラフ?貴女もそう思いますわよね?」

「思う思う!!アリーは昔から、そういう所あるよねー」


 二人の主張に可愛らしく首を振って、それを否定しているアリーの仕草はいじらしい。

 そんな仕草こそが彼女達の主張を裏付けているのだという事を、幼い彼女達はまだ気付きもしない。


「ほら、違うっていうなら、マックスをこっちに寄越しなさいよ!」

「や、やだ!」

「やっぱりですわ!やっぱりそうなんですわー!!」


 自分達の主張が間違っているなら、その証明としてマックスを寄越せというセラフの言葉に、アリーはギュッと彼の身体を抱きしめると、決して放しはしないと態度で示していた。

 そんな彼女の振る舞いに、やっぱりそうだと騒ぎ立てる金髪の少女は、それならば力ずくで奪い取るとマックスの身体へと手を伸ばす。

 それに負けじと、セラフも彼の身体に手を伸ばし、今度は三者三様の引っ張り合いが始まってしまう。

 そうして、その花園からはいつまでも少女達の華やかな声が響き続けることになる。

 少年の苦しそうな声と共に。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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